7. 静かなる激情
(研究者……? どういうこと。あの男は何者?
アイクは――まだ目を覚まさない。レントも動けない)
耳鳴りがひどい。思考が空回りする。
さっきの判断ミスが、胸の奥で重く軋んでいた。
(ダメ……。さっきの失態で、考えがまとまらない。)
前方で戦っていたパーティは全滅している。
アイクは未だに意識がない。
リゼは回復で手一杯。
レントはまだ動けずにいる。
後ろのBランクパーティたちが無事なのが不幸中の幸いだ。
だが、
「何?どういうこと?」
「Sランクパーティまで、やられてる……。」
「どうすれば……。」
(それぞれの同行者も含めてパニックになってる。せめて、後ろのみんなだけでも逃げる時間を稼がないと。)
「……研究者って、何?どういうこと?」
「お喋りがしたいのかい?
うーん、どういうことって言われてもねぇ。そのままの意味。
僕はね、魔獣の研究をしているんだよ。凄かったでしょ?さっきの子!ようやく魔法を意図的に使えるようになった!
一撃であれだけのダメージを与えれたんだ。凄いでしょ?」
口調は無邪気な子供のようなのに、内容は反吐が出るほど悪辣だ。
「言っている意味が分からないし、分かりたくもない。」
「それは残念。それでーーー。」
男の目が、急に冷静なものに変わった。
「そろそろ時間稼ぎはいいのかな?」
(まずい……!)
「みんな逃げて!」
後ろのパーティに叫ぶ。
ライラの言葉に押されるように、今来た道を走り出す。
「せっかくの実験体だ。逃がさないよ。」
男の言葉を合図に、まるで操るかのように残る二体の魔獣をこちらに向かわせる。
「させない!」
ライラは即座に魔法陣を展開。
二体の魔獣を瞬く間に無力化する。
後ろを振り返る。
後ろのパーティはなんとか、逃げることが出来たようだ。
「君、魔術師だよね?それなのに詠唱が聞こえなかった。もしかして、精霊魔術かな?」
「……詳しいね。」
「まあねぇ。今は魔獣だけど、色んなことを研究してきたから。
それにしても君、強いんだね。こんな機会滅多にないし、この子の強さを確かめさせてもらおうかな。」
男はそう言うと、指をパチンと鳴らす。
すると奥から闇を押し破るように、亀と地竜を合わせたような、巨大な魔獣が現れる。
「この子は、最近の中では一番出来がいいんだよ?魔法は使えないけど、攻撃手段が多彩なのが売りなんだ。」
男が言い終わるよりも早く、魔獣の甲羅の棘が光り始める。
ライラは瞬時に危険を察知する。
(もう、間違わない!)
「精霊召喚。レアレリーゼ!」
ライラの青い魔石のピアスが光り輝き、そこから美しい女性の姿をした精霊が現れる。
「レア!アイクたちを守って!」
レアはライラの願いに深く頷き、アイクたちの周りに結界を展開する。
光る棘から繰り出された光線は、結界に阻まれその威力を失う。
「すごい……。」
リゼが感嘆の声を漏らす。
「精霊召喚!すごい!初めて見た!それにその結界、回復魔法が付与されているね。こんな高度な結界魔法も初めてだ!でもーーー」
子供のようにはしゃいだあと、その言葉とは正反対のような邪悪な意思を孕んだ目で、男はライラの方を向く。
「実体を顕現させるほどの魔力を与えて、もうそんなに魔力は残ってないでしょ?その状態でこの子に勝てる?」
(この人、精霊魔術のことにしても、妙に魔術に詳しい。)
ライラの脳裏に、迷宮入口での出来事がよぎる。
(まさかーーー。)
「入口の結界を書き換えたのは、あなた?」
「おっ、すごい!あれに気付くんだ!君は優秀なんだね。
いや、ね、どうもこの子達の魔力ってのは歪みたいで。デフォルトの結界だと外に魔力が漏れてしまうみたいなんだ。
そのせいでこの前は地竜なんかが出てきて、うるさくて敵わなかったよ。
もういなくなったみたいで、安心したけどね。」
ライラの中で、何かが切れた音がした。
怒りと呼ぶのも生ぬるく感じるほどの、感情の奔流。
(こんな、遊びみたいな感覚でどれだけの人を傷つけたと思ってるの。)
「お前は……お前だけは許さない!」
静かに、だが力強く、ライラは杖を構えた。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。




