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6. 葛藤の代償


「僕がデコイになるから、レントは常に死角に回って!リゼは合図を待っていつでも攻撃できるように!隙があれば撃ってくれても構わない!」


(見事な連携。Bランクパーティとしては十分過ぎる完成度。Aランクと比較しても見劣りしない強さだね。けど……。)


ライラは彼らの個々の確かな実力は分かっていないが、彼らの連携の中の「ズレ」のようなものは感じ取れる。


「ここ……!」

レントの攻撃で魔獣に隙ができた。


(彼、何か焦ってる?)


「リゼ、今だ!」


アイクの合図でリゼが雷の魔法を打ち出し、魔獣は倒れた。


(うーん、気のせいなのかな。)

ここで横槍を入れるのも良くないと思い、ひとまずは気にしないことにした。


「すごいね。無駄のない連携。正直、もっと見ていてハラハラすると思ってたよ。」


「ほんとですか?」

「うん。お世辞を言っても意味がないからね。本心だよ。」

「そっかぁ。」


ライラの言葉にリゼが嬉しそうに反応する。


「Bランクパーティには同行者を、という規定があるから来てもらっていますが、今回の探索の深度までなら、ライラさんの出番は無いと思いますよ。」


声の主はレントだ。

ライラの方は向いておらず、周囲の警戒に当たっている。


「レント、言い方があるだろう。」

「……。」


アイクがなだめ、リゼは気まずそうに俯いている。


(……なるほど。私が、というより同行者がいることに納得がいってないんだね。二人の反応を見るに、きっと以前から不満を漏らしていたのかな。)


ライラとの顔合わせから、不自然なほど彼とのコミュニケーションは少なかった。

いや、意図的に避けられていた、と言った方が正しい。


「いいよ、大丈夫。私の出番がないにこしたことはないしね。実際、今のレベルの魔獣を倒せるのなら、余程のことがない限り問題はないよ。彼もそれを分かっていてのことだと思う。」


「……。」

レントの反応は無い。


レントの性格を考えると、しっかり迷宮を調べて魔獣のレベルも把握しているはずだ。


ただ、


(私の力を借りないことに頑なになっているようにも見えるんだよね。)


その時。


「警戒!」


前方のパーティから怒号が飛び、緊張が走る。


見ると、魔獣の群れがこちらへ向かってきていた。


「この数……!今までこんなことは報告になかった。」

「各々のパーティは陣形を組んで迎撃体制!Bランクパーティは後方で守りを固めるんだ!」


指示通り、各々がすぐさま臨戦体制に入った。


「アイク……。」

「大丈夫だ。数自体はこっちが有利。連携さえ乱さなければ問題ない。」


リゼの不安に対し、アイクが的確に応える。


(冷静に戦況を見てる。ただ、それは前方で足止めが成功すれば、の話。)


ライラも他の者と同様、戦闘体制に入る。


魔獣の雄叫び、剣戟の音、魔法の光……、苛烈な状況だが、しっかりと前方のパーティで対応出来ている。


はずだった。


「まずい、抜けられた!」


その声とともに、抑えきれなかった魔獣が一体、後方のBランクパーティめがけて向かってきた。


全員の緊張が最高潮に達している中、レントが前に出た。


「レント、だめ!陣形を崩さないで!」


ライラが咄嗟に叫ぶが、レントは止まらなかった。


「手負いで、こっちに向かってきている。隙だらけだ!」


レントが剣を振り下ろし、魔獣が断末魔をあげて倒れる。


はずだったーーー。


レントの剣は振り払われ、気付けば魔獣はレントを見下ろしている。


その手には魔法と思われる光を纏っていた。


(何で、魔獣が魔法を……。)

目の前のあまりに異常な光景に、ライラは動揺する。


そしてその間にも魔獣はレントに追撃を加えようとしている。


「レント!逃げるんだ!」

アイクが叫ぶ。

が、レントも目の前の状況を飲み込めず動けずにいる。


「くそ……!助けに行く!」

アイクが魔獣に向かって走り出す。


「アイク!行っちゃダメ!」


助けに行かないといけない。


が、『同行者』として自身に課した制約がライラの思考を鈍らせる。


鈍った思考は、行動を遅らせる。


その『遅れ』は、ほんの一瞬ではあるが、その『一瞬』は悲劇が起きるには十分過ぎる時間だった。


ライラの魔法陣から繰り出された魔法は魔獣を貫き、その動きを止めた。


が、それよりも一手早く、鈍い音とともにアイクの体が吹き飛ばされていた。


次の瞬間には、アイクは数メートル先の岩壁に叩きつけられていた。

切り裂かれた胸部からはひどい出血が見られる。


(助けられた……はずなのに。)


ライラの胸中を後悔の念が駆け巡る。


「アイク!アイク!」


リゼが駆け寄り回復魔法を施している。

恐怖、心配……、様々な感情に揺さぶられるようにその手は震えている。


(判断を……誤った。)


絶望に打ちひしがれるライラだが、状況は待ってはくれない。


向こうではレントが倒されたまま、動けずにいる。


鉛の様に重たくなった自分の足に鞭を打ち、ライラは動いた。


「レント、まずここから離れよう。」

「俺の……俺のせいで、アイクが。」


顔を押さえている手が震え、足は地面に縫い止められたように動かない。


「それは後で考えるよ。リゼ!アイクをどこか安全なところにーーー」


その瞬間、頭に割れるような痛みが走る。

精霊たちがライラに、何かを訴えている。


(みんな、どうしたの?)


そして、前方から轟音が鳴り響く。

戦闘している方だ。


「あれぇ?思ってたほど倒せていないなぁ。それとも君たち、結構強いのかなぁ?」


倒れたパーティ達の間を見知らぬ男が歩いてくる。

目を背けたくなる惨状を、まるで日常風景かのように何の躊躇いもなく。


「あなたは……誰?」


その男は、この絶望的な状況をさらに混沌とさせるようなオーラを纏っている。


「僕かい?僕は通りすがりの、しがない研究者さ。」

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