5. 過去といま
探索計画当日、ライラたち四人は迷宮へと向かっていた。
「アイクが冒険者かぁ。見違えたね。」
「ありがとう。二人が、というよりレントが誘ってくれたんだよ。」
アイクはそう言いながらレントに肩を組みに行く。
(へぇ、彼が。意外だね。)
特に害意や敵意があるわけではなさそうだが、彼は自己紹介以来ほとんど喋っていない。
(まあ緊張もあるだろうし、当然か。)
「あの、ライラさん。」
恐る恐るといった様子でリゼがライラに話しかける。
「ん?どうしたの?」
「ライラさんは元魔術師団だったんですよね?」
「うん……そうだね。」
ライラにとってはあまり広げたくない話題だ。
歯切れの悪い返事になってしまう。
「あの、四年前の南の国境付近の村に魔獣が現れた時のこと、覚えていますか?」
その時のことは覚えている。
近くの森から魔獣が大量に街に来ていた。
森に張られていた結界が弱まっていたことが原因だった。
「うん、覚えているよ。」
「私、あの村の出身で、あの時ちょうど帰っていたんです。そうしたら、魔獣が襲ってきて……。反撃することも身を守ることもできずに怖くて震えていました。」
当時を思い出したのだろう。
リゼの声は震えていて、体が強張っているのが分かる。
「家は次々に壊され、あちこちで悲鳴が聞こえる。あぁ、私はここで死ぬんだなって思いました。
そんな時でした。一人の、それも私とそんなに歳も変わらないような魔術師の女の人が来て、あっという間に魔獣を倒してしまったんです。」
(彼女はあの村の……。そういえば、『無謀な単独行動だ!』って言って、その後リアーナにこっぴどく怒られたんだよね。)
ライラは当時を思い出し苦笑いを浮かべる。
「後から来た人に、その女の人も魔術師団の人だって聞いて。
自分も、守れる力を手に入れたいと思って、魔術を学んだんです。」
「守れる力、か。」
(だめだね、まだ引きずってる。)
ライラの胸の奥で、その言葉が呪いのようにまとわりつくのを感じた。
「ライラさん?」
「え?ああ、何でもないよ。」
リゼが不安そうに見ていたことに気付き、慌てて取り繕う。
「ならよかった。それで、その時の魔術師の人が灰緑色の髪の人だったことは覚えていて。
それで今日、ライラさんに会ってもしかして、と思ったんです。
感激です。そして、あの時は助けてくださり、本当にありがとうございました。」
リゼがライラに深々と頭を下げる。
『ありがとう』
この言葉はいつだってライラの味方で、大きな力をくれる。
「私には君を、村を助ける力があった。でもリゼはこれからその力を身につける。
もし同じようなことが起こったらその時に、同じように誰かを助けてあげて。」
「はい……!私、頑張ります!」
きっとこの子は良い魔術師になる、そう思った。
「見えて来たよ。」
アイクがそう言い、進行方向を見ると、目的の迷宮が見えて来た。
その岩をくり抜いたような入り口は、いかにも『迷宮』というような、不気味さと神秘的さを感じるものだ。
「わざわざギルドが計画を立ててるぐらいだから身構えてたけど、思ったよりも普通だね。」
アイクが小さく呟く。
周囲にはいくつかのパーティが集まっていて、Bランクパーティにはアイク達と同じように『同行者』と見られる冒険者が付き添っている。
ライラはアイクたちの少し後ろからその光景を見ていた。
(なんの変哲もない迷宮……のはずなんだけど。なんだろう、この違和感。)
魔力の流れも正常、精霊たちも何も言っていない。
でも、ライラの胸には薄くもやがかかったような違和感だけがある。
「では、Sランクパーティの皆さんから中へ入ってください。Bランクパーティの『同行者』の皆さんは後ろへ。」
ギルド職員の言葉を合図に、参加者たちが迷宮へと入っていく。
不安そうに、アイクがライラの方を見る。
「大丈夫。何かあれば私がいるから。」
「うん。ありがとう、ライラ。」
ライラのその言葉に、アイクは少し笑顔を見せた。
迷宮探索が、始まった。
迷宮内部は思っていた以上に広くて、複雑な構造になっている。
壁面には一定間隔で術式が刻まれている。
「これは……結界?」
術式を読み取ったリゼが呟く。
術式効果としてはよくある、魔獣を迷宮外に出さない為のもの、のはずだ。
「そうだね。でも……。」
(この術式、分かりにくいけど、誰かが″後から″書き換えている。ただの防護結界にしては術式が複雑すぎる。)
単なる結界維持の為のものなのか、それとも別の意図があるのか、そこまでは読み取れなかった。
「ライラさん……。」
リゼがライラの方に振り向き、声をかける。
その目には不安と恐怖が混ざっている。
「大丈夫。心配しないで。」
後から思えば、この言葉は自分自身に言い聞かせる為のものでもあったように思う。
先を進むアイクや他のパーティたちを見ながら、自然と体が強張る。
が、ライラはこの違和感を、ちゃんと危険として察知するべきだった。
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