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3. 精霊魔術師の本領


「へぇ。ギルドってこんな所なんだ。」

「ライラは初めて来たの?」

「そうだね。冒険者でもない限り来ることはないんじゃないかな?」


中は多くの人で賑わっており、壁に貼られた掲示板にはギルドからの依頼書が所狭しと掲示されている。


ライラたちが用があるのは正面の一番奥、受付だ。


「アイク・メルフィスです。今度の迷宮探索計画で同行者をしてもらうライラ・ブルーガーデンさんをお連れしました。

同行者の登録をお願いしたいのですが。」


受付人はアイクの名前を聞くと、ほんの一瞬、眉が吊り上がった。


(……?)


ライラはその表情を不思議に思いながらも、ひとまずは気にせず、手続きを進めた。


「少々お待ちいただけますか。」

受付人はそう言うと奥へと入って行き、姿が見えなくなる。


「なんだろう?時間がかかるのかな。」

「まあ、私みたいに冒険者じゃない人はいないだろうから、それでなのかな。」


アイクとライラがそんなやりとりをしていると、受付人が偉いさんのような職員を連れて戻って来た。


「お待たせ致しました。お時間がよろしければ、少しこちらへ来ていただけますか?」


そう言われてアイクと顔を見合わせる。

不思議に思いつつも、案内について行くことにした。


案内に連れられてやって来たのは、開けた空間。

闘技場のようなところだった。


そして中央には魔術師のような風貌の男が立っていた。


「あんたが、団長の弟殿の同行者か?」

「……そうだよ。」


『団長の弟殿』という呼び方に少し不快感を覚えたが、こればかりは当の団長の責任もある。


個人的な感情でギルドを半壊させたのだ、良い風に思っていない人間もいるだろう。


「同行者として来る以上、ある程度の実力がないと話にならん。あんたがどれほどのものか、見定めさせてもらう。

俺はAランクパーティで魔術師をしているキースだ。」


要は腕試し、というところだろう。


(まあでも、当然と言えば当然か。護衛という名目だとリアーナも言っていたし、半端な実力の人間ならかえって迷惑だし。けどこれは……。)


ライラはまだ若い。

団にいた時から、こうして侮られることは珍しくはなかった。


ただ、アイクが気に入らないのかライラが気に入らないのか、やたらと刺々しい態度にあまりいい気はしない。


「お言葉ですが、ライラの実力は僕が保証します。」


「他人の評価はいらん。俺の目で判断する。

何より、Bランク風情が実力だなんだと言うのはまだ早いんじゃないのか。」


よほどライラとアイクが気に入らないらしい。

ただ、アイクへのこの対応には、少し苛立ちを覚える。


「しかし!」

「いいよ、アイク。大丈夫。……ねぇ、どうすればいいのかな。」

こういう輩には直に体験してもらうのが手っ取り早い。


「とりあえず全力でかかってこい。そのうえでどれぐらいやれるのか見てやる。」

「全力って言っても、死なれたら困るんだけど。」


本心ではあるが、少し皮肉も込める。

さすがに、この一連のやりとりは不愉快だ。


「……ガキだと思って下手に出てりゃ。殺す気で来い。やれるんなら、だがな。」

そう言い終わると、キースは杖を手にし、詠唱を始める。


術式が構築され、魔力が炎の矢となって放たれる。

が、それをライラは魔法障壁で防ぐ。


「はっ!これぐらいは防げないと話にならんからな。まだまだいくぞ!」

次はさっきと同じ炎の矢を複数発動した。


(へぇ。魔術の複数発動。さっきの偉そうな態度は口だけじゃないってことだね。……にしても、こんなの当たったら痛いじゃ済まないよね。)


ただの腕試しにしてはやり過ぎだ。

明らかに嫌悪感と悪意を向けられているのを感じる。


ただ、魔術の複数発動は高等技術だ。


腐ってもAランクパーティの魔術師ということなのだろう。

同じようにこれも魔法障壁で防御する。


「さっきから防いでばっかりじゃねえか!反撃しなければ勝てないぞ。まぁ、それが出来ればだがな!」

魔法が炸裂し、辺りが煙に包まれる。


「ライラさん、何で反撃しないんだろう?」

リゼが不安そうに戦闘を見ている。


「何か考えはあるんだろうね。確かにあのキースっていう魔術師は強い。

でも、ライラがあの程度の魔術師に負けるとは思えない。」


アイクはリアーナとライラ、魔術師団団長と副団長の戦闘訓練も見ている。

どれだけ高く見積もっても、キースの実力は二人の足元にも及ばない。


ただ、防御に徹するライラを見て、そう簡単に倒せる相手でもないのでは、という不安もないわけではない。


「来るよ。」

「え?」

ここまで一言も喋っていなかったレントがライラの変化を感じ取り、言葉を発した。


「さてと、そろそろいいかな。」


火の魔術により発生した煙が晴れ、杖を手にしたライラが姿を現す。

文字通り、反撃の狼煙があがった。


次の瞬間、彼女の周囲に魔法陣が浮かび上がる。

一つではない。二つ、三つ――同時にだ。


「複数発動……っ」


キースが息を呑む。

だが、違和感はそれだけではなかった。


(詠唱が、ない?)


魔術師が魔法を使うには、詠唱が必要だ。

術式を構築し、魔力を流し込む。その工程を省くことは出来ない――はずだった。


「……まあ、これくらい出来なきゃね。リアーナに怒られちゃうよ。

じゃあ、これの感想も聞かせてもらおうかな。」


ライラがそう言った次の瞬間、魔法陣から別々の属性の魔術が放たれる。

炎、風、雷――。


「なっ、別属性……!」


ローグは慌てて魔法障壁を展開する。

魔術師同士の戦いで、属性を散らす意味は薄い。

魔法障壁は、属性を問わず攻撃を防ぐ。


だが――


轟音と共に、障壁が砕け散った。


「……あれ?」


まるで薄氷のように、障壁は跡形もなく消えた。


「脆いね。防御、急ごしらえだった?」


ライラの声には、嘲りはない。

ただ、事実を述べているだけだった。


「馬鹿な……っ!」


防いだはずだった。

いや、防いだ「つもり」だった。


(魔力が……違う。込められてる量が、桁違いだ。それにーーー。)


「これは……精霊魔術か。」


キースが呟いた。


魔法陣はまだ消えていない。

ライラの周囲で、静かに回転を続けている。


「そうだよ。」


あっさりと、ライラは頷いた。


「詠唱も、術式の構築もいらない。精霊たちが、全部やってくれるから。」


「……ふざけるな。」


ローグは歯噛みする。

そんな理屈が通るなら、魔術師の積み重ねてきた理論は何だったのか。


「ふざけてないよ。単に、仕組みが違うだけ。」


ライラは一歩、距離を詰めた。


その瞬間、ローグは本能的に理解した。

――近づかせてはいけない。


魔術師は距離を保つ存在だ。

間合いに入られた時点で、不利になる。


(なのに……。)


ライラは、迷いなく踏み込んでくる。


「魔術師はね、近寄らせたらいけないけど。」


そう言いながら、彼女は一気に距離を詰めた。


「近寄られたら終わり、じゃあダメだよね。」


杖の一撃が、キースの喉元を打ち抜く。

衝撃と共に、呼吸が止まった。


「がっ……!」


体勢を崩し、地面に倒れ込む。


視界の端で、杖が向けられたのが分かった。


「ギブアップなら言ってね。人殺しは嫌だから。」


静かな声だった。

脅しでも、勝ち誇った調子でもない。

ただの――事実確認。


キースは、喉を鳴らした。


「……参った」


その言葉を聞いて、ライラはようやく杖を下ろす。


「うん、わかった。」


魔法陣が、次々と消えていく。

周囲を包んでいた緊張が、ようやく解けた。


倒れたキースに一瞥をくれることもなく、ライラは静かにアイクたちのもとへと歩いて行く。

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