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22. 希望と精霊樹


街には瓦礫が散らばり、倒壊した家屋も修繕されていない状態で数多く残っている。

怪我人も少なくなく、襲撃の爪痕は痛々しく残っている。


きっとこれを見た多くの人は、良い想像はしないだろう。

中には、国は滅んだと思う者もいるかもしれない。


だがこの国の国民は誰一人として希望も国も捨ててはいない。


その理由は二つある。

ひとつは、襲撃の脅威が去ったこと。

そしてもうひとつはーーー。


ーーーーー


ライラたちは城の大広間に来ている。


ジルフリードの襲撃により中断されてしまった、皇太子、皇太子妃の就任式が改めて執り行われていた。


(この就任式は、この国の人たちにとっての希望そのものなんだね。誰も、暗い顔をしていない。)


まだ傷が完全に癒えていない人たちもたくさんいる。

城の外に出れば、住む家を失った人もいる。

それでも、今この国は希望と復興の決意に満ちている。


皇太子が力強く国民へと言葉を綴り、皇太子妃……セレナはその横で優しく国民を見つめている。


しかしその目の奥には、『精霊巫女』としての確かな覚悟がある。

ライラにはそんな風に見えていた。


(この国は、きっと強くなる。だってセレナ様がそうなんだから。)


セレナがライラに向けて微笑んだ気がした。


その微笑みに応えるように、ライラの耳に光る三色の魔石も、精霊樹の葉から溢れる光に照らされ、きらめいていた。


ーーーーー


就任式の後は、祝賀パーティが開かれた。


パーティにはライラ、カイル、フレッド、そしてイスカも招かれた。


「いいのかなぁ。私なんかが参加させてもらっても。」


イスカはいかにも遠慮していそうなことを言っているが、手に持っているグラスが何杯目なのか、もう分からないくらいには飲んでいる。


「何を言うんですか。ウェルナット殿の治癒魔術があってこその今日の式典なのですよ。」


横ではカイルが凛々しくも、どこか緊張の面持ちでそう言っている。

騎士団副団長といえども、さすがにこう言う場では落ち着かないらしい。


イスカは今回の戦いの影の立役者と言ってもいい。


カイル、フレッドをはじめ、城に運び込まれた負傷兵を休む間もなく治癒し続けていた。


戦いが終わってからもエルフェリオン王国の治癒術師とともに、国民の安否の確認とその治癒に奔走していた。


「ふふ、私のことなんていいのよ。それよりも、ライラ。」

先程までのとろけた目が真剣なものに変わり、その視線はライラへと向けられる。


「無茶をしすぎよ。あなたのおかげでこの国は守られた。それは誇っていいことよ。

信念を曲げろとは言わない。ただ、あなたが傷つくと悲しむ人がたくさんいるの。

それだけは、胸に留めておいてね。」


イスカはそう言いながら、ライラの胸をとんっと指で押す。


その指先から感じるものは、軽蔑や憤慨ではなく、心配と親愛だ。


ライラの中のぽっかり空いたところが、ゆっくりと埋められていくようだ。

まるで、治癒のように。


「今回もまた助けられてしまったな。」

そう言うカイルの表情は安堵しているようにも、どこか悔しそうにも見える。


「引くことの出来ない場面もあるだろう。私もそうだったし、きっと君もそうだっただろう。

ただ、ウェルナット殿の言うように、君の帰りを待っている人は間違いなくいる。

守るというのは、大切な人々も、君自身もなんだ。

忘れないでくれ。」


『君自身もなんだ。』という言葉に、ふと我に返ったような感覚を覚えた。


魔術師団の時も、そして今も、自分のことを顧みたことはなかった。

死んでもいいなどと思ったことはない。

それでも、『守る』という選択肢の中に自分がいたことはなかった。


自分が大切に思っている人たちが、自分の無事を祈っている。


その気持ちを決して蔑ろにしてはいけないのだと、改めて思った。


「……わかった、ありがとう。カイル、イスカさん。絶対に、忘れない。」


ライラのその言葉を聞き、イスカは微笑み、カイルは頷く。


「さ、まだ時間はあるんだから、この場を楽しませてもらいましょう。カイル、行くわよ。」

「いや、私はもう十分ーーー。」

「何言ってんのよ。全然飲んでないじゃない。ほら、行くよ。」


カイルは半ば強引にイスカに連れられ、パーティの喧騒の中へと消えていった。


(私自身も守る、か……。)


「ライラ。」

今の会話の感傷に浸っていると、後ろから声をかけられる。


「フレッド……。」

フレッドはダークな装いに溶け込むような雰囲気を纏って、ライラのもとへと歩み寄る。


「……何か飲むか?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう。」

「……。」


少しの沈黙が二人の間に流れる。

断ち切ったのはフレッドだった。


「今回は、間違わなかったのか?」

「それはわからない。でも、後悔はないよ。」

「それならいい。

……あの時、お前を副団長にと指名した団長の気持ち、今なら少し分かる気がするな。」


それだけ言うと、フレッドは立ち去って行った。


たったこれだけのやりとりで、二人の三年間が埋まることはない。

それでも、確かな変化がライラの中にはあり、それはきっとフレッドも同じだったと、そう思った。


(少し、風に当たろう。)


ひんやりとした空気がライラを包む。

少し温まりすぎたライラの心を、心地よく冷ましてくれる、そんな風だった。


「ここは……。」


気がつくと、精霊樹の下まで来ていた。


以前に来た時には感じなかった尊大さや、存在の大きさを感じさせるのは、直にその力の一端を振るったからだろうか。


(あの時は助けていただき、ありがとうございました。)


「ふふ。あの時と、同じですね。」


鈴の音のような声が聞こえ振り返ると、そこには初めて会った時と同じように静かに佇む、


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