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21. 拒絶する世界


(攻撃が当たった……。それも直接攻撃。私のいる″側″を認識できているというわけですか。)


ジルフリードは自身に今起きた事実を反芻する。


(ということは、あの巫女殿の影響と見て間違い無いでしょう。ならば。)


反芻し、冷静に分析をし、そして対処する。

その方法は今までと同じ。

的確で、無慈悲に。


「させないって言ったでしょ。」


ライラは何の変哲もない、純粋な魔力を放出する攻撃魔法を放つ。


だがその攻撃には、セレナの『祈り』により精霊樹の力が付与されている。


ジルフリードがセレナに向けて放った分身体は跡形もなく消え去る。


「やはり、見えているのですか。」

「見えている、というより存在を″認識″できているって言った方が正しい、かな。

どちらにせよ、私はあなたに干渉できる。」


ジルフリードは一つ大きな深呼吸をし、認識を改める。


「では、優先順位を変更します。

まずはあなたの排除が必要ということですね。」


二人の間には再度、誰にも入り込めない″間″が形成される。

しかしそれは、先程とは違う空気が流れている。


文字通り、世界の外側に干渉できないものには入ることができない空間である。


先に動いたのはライラだった。


即座に複数の魔法陣を展開し、先程と同じ魔力砲を放つ。


一点ではなく、多角的に、かつ同時にその攻撃はジルフリードを目掛けて飛びかかる。


瞬間、ジルフリードの目前の空間が歪む。

そして、防がれた。


だが、『効かなかった』のではなく、明確に防御をした。


彼自身も、その攻撃が致命傷になり得ると判断しての行動だった。


(魔法障壁じゃない……。)


攻撃が当たるようになったとはいえ、それでライラが優勢になったというわけではない。


まずは目の前の脅威のその理屈を解明しなければならない。


「私の能力がわからない、という様子ですね。

教えましょう、一つは知っての通り『分身体』です。

もう一つの能力はーーー。」


ジルフリードがそこまで言うと、周りの瓦礫が浮き上がる。

そして、一斉にライラに向けて放たれる。


「念動力です。」


ライラはレアによる防御を展開。

瓦礫は目の前で障壁により砕かれ、その威力を失う。


「単に物を操るだけではありません。圧縮、拡張。様々です。この通り。」


そういう言うと、先ほどのように空間が歪み始める。

空気を圧縮した作用で光の屈折が起こり、歪んで見えたというわけだ。


「生物には適応されませんがね。」


「何でわざわざ教えるの?」

「教えても差し支えがないからです。攻撃が当たるのなら防げばいい。先ほどと条件は変わっておりません。あとは……。」


ジルフリードは再度瓦礫を浮遊させる。

ただ、その量は先程の倍以上だ。


「押しつぶすのみ、です。」


ライラは足元へと魔力を集中させる。

赤のピアスが鋭く輝き、その輝きに呼応するように足元へと魔法陣が展開される。


そこから炎の壁が出現し、瓦礫は溶解され、消滅する。


と同時に、ジルフリードの分身体がライラの頭上へと飛び上がり、炎の壁を飛び越えて向かってくる。


手にしている刃が喉元へと迫るが、これを上へと躱す。

そしてそのまま、ジルフリードへと魔力砲を撃ち込む


が、これも防御されてしまう。


お互いに一撃が致命傷になり得る緊張感の中、一手のミスも許されない攻防が続く。


セレナは祈り続けている。


その横顔には汗が垂れ、手は震えている。

恐怖、不安だけでなく体力が削られているのが見て分かった。


(セレナ様の祈りも無限じゃない。決着を急がないと。)


ただ、状況は同じでもライラとジルフリードでは条件が違う。

ライラの防御には『魔力』という限りがあるが、向こうはそもそも魔術ではない。


同じように限界がある前提ならお互いに消耗戦だが、違った場合、削られるのはライラだけだ。


(攻撃を当てる方法はーーー。)


そう思った時、青の魔石から柔らかな鼓動が伝わってきた。

レアの優しさがライラの中へと流れ込む。


(……やってみる価値はある!)


ジルフリードの視線が、再び街の方角へと向いた。


瓦礫が、わずかに震える。


(――来る。)


ライラは即座に察知した。


市街を狙う。

均衡を崩し、守るという選択を強いる。

これまでも見てきた、最も確実で、最も卑劣な一手。


「……させない。」


その声は、低く、しかし迷いがなかった。


青のピアスが淡く輝き、この世の『理』を隔てる精霊樹の加護が二人を包む。


風が止む。

音が、消える。


精霊樹の力を帯びたレアの結界が、世界を断絶した。


浮き上がっていた瓦礫は全てが力を失ったように落ち、動かない。

歪んでいた空間は、強制的に“正しい形”へと戻される。


「……?」


初めてだった。


ジルフリードの表情に、明確な揺らぎが浮かんだのは。


(遮断……?能力が……通らない?)


念動力が、分身体が、

“世界の外側から干渉する力”が、完全に切り離されている。


「あなたは、この世界に存在を許されていない。」


ライラは一歩、前へ出る。


「……これは、私が決めたことじゃない。

精霊樹の審判よ。」


杖を構える。

その先に宿るのは、破壊ではなく、拒絶。


「だから――拒絶を、受け入れて。」


全てが断絶されたこの凪の空間で、ライラのドレスがふわりと揺れる。

ジルフリードが何かを言おうとした、その瞬間。


ライラの放った一撃が、彼の“存在していた座標”そのものを打ち抜いた。


衝撃は爆発ではなく、静かに広がる。

波紋のように、世界へと溶けていく。


ジルフリードは倒れ、その体は朽ちるでも爆ぜるでもなく、薄れていく。


「私は造られた存在。

その造られ、生まれた世界が私を拒絶するのであれば……。」


彼は、微かに空を見上げた。


「それもまた『理』なのですね。」


次の瞬間、その姿は完全に消えた。


敵意も、悪意も、歪みも。

最初から“いなかった”かのように。


結界が解け、音が戻る。

風が、再び街を撫でた。


ライラは、その場に膝をついた。


「……終わった、のですね。」


セレナの祈りが、静かにほどける。

精霊樹の鼓動が、穏やかに脈打っていた。


拒絶は、成された。


それは排除ではなく、

この世界が、世界として在るための――当然の選択だった。


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