20. 祈りと証明
「セレナ様!どちらに!」
「行かなくては……。私が行かなくては!」
セレナは走った。
証明しなければいけない。
己が何なのかを、何のために在るのかをーーー。
「……ライラ様!」
声の主はセレナだった。
衣服は乱れ、式のために美しく纏めた髪もほどけている。
だがその目は、庇護されるものでも皇太子妃のものでもなく、戦うものの目だった。
「セレナ様!ダメです、ここは……こいつの狙いはあなたなのです!」
「知っております。しかし、ここで私が立たなければ、私の存在を証明しなければなりません。」
セレナは文字通り『祈り』を捧げている。
「いけません!早く城の中へーーー。」
途端、ライラの内から何かが熱を帯びてこみあげてくる。
それはこの世の全てを受け入れているようで、しかし全てを拒絶しているような。
「これは……。」
「精霊樹の力の一端を、私を介してライラ様へと届けました。
これが、『精霊巫女』の祈りなのです。」
まるで世界の『理』を知覚したような、不思議な感覚がライラを包む。
「精霊樹の力は誰でも受け取れるわけではありません。
精霊との親和性がなければ私の『祈り』は単なる『願い』となってしまう。
しかし、精霊に愛されているライラ様だからこそ、私の『祈り』は届くと信じていました。」
セレナが微笑む。
信頼、まさにライラを信じていると言わんばかりに。
(これが、精霊樹の力……。)
ピアスから感じる精霊たちの気配がより濃く、強く感じられるような感覚だ。
そして何よりーーー。
「これはこれは、精霊巫女殿。お初にお目にかかります。
こうして自ら姿を現されたことはとても僥倖です。さぁ、こちらへ。」
今なら分かる。
この紳士の皮を被ったジルフリードという存在が。
この世の『理』から外れた、どれだけ異質な存在なのかということが。
今ならその存在を、認識できる。
「私は精霊と共に生きるもの。
あなたのようなこの世界の異物と共に歩むことはできません。」
セレナは強い言葉と強い口調で、ジルフリードの″存在″そのものを否定した。
「そうですか。では、当初の予定通り奪うことに致します。」
ジルフリードはゆっくり歩き出す。
セレナはそれでも『祈り』を辞めない。
まるで、それが使命であり、その使命が自身を守ることを信じて疑っていないかのように。
「それは、させない!」
ライラは地を蹴り、ジルフリードへと迫る。
「あなたには、もう用はありません。この期に及んで、更に守るものが増えましたね。
それでも、あなたに出来ることは何もないというのは、皮肉なことですね。」
意に介さないとばかりに、ライラを無視し、セレナへと近づいてゆく。
ライラは杖に魔力を……否、精霊の力を込めて、渾身の力で振り抜く。
引かない覚悟、最善を尽くす覚悟、その想いを乗せてーーー。
「ーーーっ!」
振り抜いた杖はジルフリードの脇腹へと直撃する。
今までとは違う、手応えがライラの手にも肉体的な痛みとなって伝わってきた。
確実に、当たっている。
そして、その『理』に干渉した偉大なる一撃によって、セレナから大きく離される。
「な……何をしたのですか?」
ジルフリードは大きくよろめき、脇腹を押さえている。
呼吸は乱れ、先程までの余裕はなくなっていた。
攻撃が、当たる。
ライラは決意と共に杖を向ける。
「この世界を正常に戻す。
私は、あなたという″異質″を、この世界から拒絶する。」
決意と共に立ち上がったライラを、セレナはまるで尊ぶように見ている。
「……やはり、あなたほど精霊に愛された人を、私は見たことがありません。
この目に狂いはなかった。」
『祈り』は届いた。
この世界を守る『意思』へとーーー。
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