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14. 違えぬ選択


外に広がるディストピアのような光景に、ライラは動揺を隠せない。


(この国には精霊魔術も組み込まれた強力な結界が張られていた。魔獣単体で突破できるとは思えない。なら人為的な……。いや、まずは。)


状況判断は的確にしなければいけない。

最優先されるべきは。


「セレナ様、護衛の方々と安全なところへ避難を!」

「ライラ様は!?」


(セレナ様……。ご自身も不安なはずなのに。)


この人は、必ず守らなければいけない。

ライラは強く、そう心に刻んだ。


「私は状況の確認に!……セレナ様。」


走り出した足を止め、ライラは真っ直ぐセレナの方を見る。


セレナからの返答はない。

その代わり澄んだ、しかし確かな力強さを秘めた眼差しがライラへと返ってくる。


「あなたはこの国の希望です。必ず、守ります。」


やはり返答はない。

でも、それでいい。


さっきよりもほんの少し、セレナの表情、そして精霊樹の葉音に、ライラへの信頼を感じられたような気がした。


「イスカさん、セレナ様をお願い!」


ライラは部屋を飛び出した。


「ライラ!」

振り向くとそこにはカイルとフレッドがいた。


二人も就任式の支度の最中だったのだろう。

正装に着替えていた。


「何があった?この外の魔獣は……。」

カイルの声色からも緊張が見てとれる。


「わからない。でも、明らかに異常だよ。まずは外に出て状況の確認をーーー。」


「待て、ライラ。」

ライラを制止したのはフレッドだ。


「早々に判断をしてはいけない。リルオール王国内ならまだしも、ここは異国だ。

我々の一挙手一投足が両国の関係に直結する。」


フレッドが鋭い眼差しでライラを睨む。

懐かしくもあるが、当時の彼との関係を思い出し、少したじろいでしまう。


「わかってるよ。でもこのまま放っておくこともできないし、状況確認は必要でしょ?」

「……気をつけるように、という意味だ。わかっているのならいい。」


フレッドはそう言うと外へと走り出した。

ライラとカイルもそれを追う。


「何……これ。」


外の光景は想像を絶するものだった。


上空には魔獣が飛び交い、地上では人々が逃げ惑っている。


地上には魔獣はおらず、ここから見る限り、誰も倒れていないことが救いだった。


「私はこの国の兵と協力して避難誘導にあたる。二人は魔獣の迎撃をお願いしたい。

空の戦場に行けるのは私ではなく、君たちだ。」


カイルが即座に、だが的確に支持を下す。

やはり、頼りになる。


「わかった。」

「承知した。」


二人の魔術師はそう答えると同時に、各々が臨戦体制に入る。


「いくよ、ルナ!」

ライラがルナに呼びかけ、フレッドは詠唱を始める。


と同時に、精霊たちがライラに警鐘を鳴らす。

(どうしたのみんなーーー)


「少しお尋ねするのですが、精霊巫女殿はどちらに?」


急に背後から声がした。

振り向くと、モノクルを付けた、知的な男だ。


ライラは驚き目を見張る。

フレッドを見ると、同じように驚きが見えた。


「……あなたは?」

ライラは静かに問いただす。


敵だ。

精霊たちの頭を刺すような警戒の意識が、ライラの中へと流れ込んでくる。


「すみません、申し遅れました。私はジルフリードと申します。この度は、精霊巫女殿を……。」


瞬間、モノクルから覗く目が邪悪なものに変わる。


「奪いに参りました。」


目の前のジルフリードと名乗った男は、佇まいは紳士的だが、それを打ち消して有り余るほど、どうしようもなく気味の悪い雰囲気を漂わせていた。


「奪いに……セレナ様をどうするつもり?」


「私は主から命じられただけですので、目的までは存じ上げておりません。」


(命じられた?いったいどういうーーー。)


「ライラ!付き合わなくていい!まずは最善を考えろ!」


フレッドの声に我にかえる。

そうだ、今するべきは対話ではない。


「……!そうだよね。わかった!」


ライラは魔法陣を発動、臨戦体制に入る。


「理由がなんであれ、セレナ様は渡さない。大人しく引くのなら、危害は加えない。」


「今はまだ挨拶だけです。後ほど、改めて参ります。」


ジルフリードはそう言うと、霧のように消えていった。


「消えた?どういうことだ……。魔法なのか?」

「分からない。でも、精霊たちの警戒が解かれてる。少なくとも今は近くにはいないはず。」


二人は今まで見たことのない現象に動揺を隠せない。

だが、脅威はジルフリードだけではない。


「とりあえず、この魔獣たちをなんとかしないと。」

「俺はひとまず城内の様子を見てくる。外の魔獣どもは任せる。それとーーー。」


フレッドがライラを真っ直ぐ見据えた。


「守るべき相手を、見誤るなよ。」


その声色からは怒りは感じられない。

だが、その鋭い言葉はライラの心に突き刺さる。


「……うん、わかってる。」


フレッドはその言葉を聞き、少しの間ライラを見つめた後、城内へと走り去った。


上を見ると、神聖な空には似つかわしくない悪意の化身が我が物顔で飛び回っている。


(わかってる……ちゃんと、わかってる。)


ライラの意思に呼応するように、三つの魔石が強く輝く。


ジルフリードに向けた魔法陣を空へと狙いを定めなおし、攻撃を放つ。


一筋の太い閃光が上空へと駆け上がる。

そして一瞬、まばゆい光を周囲に放つと、無数の細い閃光へと枝分かれするように伸びてゆく。


その閃光のひとつひとつが、まるで意志を持ったように魔獣たちを追いかけ、そして、貫いた。


「守るべき相手……そんなの、決まってる。」


固く拳を握り、その目には迷いのない、強く確固たる決意を宿している。


「何一つ、こぼさない。全部拾ってみせる。」


三年前ーーー。

ライラはひとつの、だが、彼女にとって最も大きな存在を、その手からこぼれ落ちることを防げなかった。


その後悔を繰り返さない。


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