11. 過ちの清算
「ライラ、目を覚ましたんだね。」
そう言うアイクの表情は安堵に満ちていた。
「うん、ありがとう。もう大丈夫だよ。」
「ほんとによかった……。それに、ありがとうは私たちの方です。また、ライラさんに助けてもらった。」
リゼの目には涙が浮かんでいる。
ライラはそっとリゼを抱き寄せる。
「不安にさせたよね。ごめんね。アイクも、危険な目に遭わせてしまって、ごめん。同行者として私が付いていながら……。」
(アイクがやられたあの時……、私が迷わなければ。)
ライラは自分の不甲斐なさに唇を噛む。
「ライラさん。」
レントが真剣な、それでいて罪悪感に満ちた目でライラを見る。
「アイクの負傷は俺の責任です。そして、それがなければライラさんはもっと自由に動けていたはずです。」
レントは深く、頭を下げる。
「本当にすみませんでした。」
ライラは驚き、レントを見つめる。
「レント、僕にもリゼにも、ずっと謝っているんだ。もういいって言っているのにね。」
アイクとリゼが目を見合わせ、苦笑いをしている。
そしてそれを見て、ライラは優しく微笑む。
「確かに、君の行動が不用意だったことは否めない。ただそれは結果論だ。
あの魔獣の異常性がなければきっと倒せていたと思う。
ただ、それも含めて冷静にいることが、何よりも大事なこと。そして、今君はちゃんとそれを分かっている。それで十分だよ。」
レントはまだ頭を下げている。
そして、再び口を開く。
「同行者の話を聞いた時、俺たちのパーティならいらないのにって正直思いました。
そして、選ばれた人が魔術師団団長からの推薦の人、と聞いて尚更その想いは強くなったんです。」
レントは顔を上げ、ライラを見る。
「ただでさえ冒険者の中には、アイクに対して姉の威光の庇護を受けているって思っている人がいる中、その人の推薦となると、更にそういう偏見が強くなるかもしれない。
だから、絶対に自分たちだけでこの探索計画を成功させるんだって思ったんです。」
「その結果が、あの無茶だったんだね。」
ライラが静かに諭すように、レントを見る。
「はい。自分の独りよがりな考えで、全員を危機に晒してしまって、本当に反省しています。
改めて、すみませんでした。」
レントが再度、頭を下げる。
「レント。」
アイクがレントの元へと近付く。
「レントのその気持ちは嬉しい。僕がまだ『リアーナ・メルフィスの弟』という肩書きで見られていることも分かってる。
でも、僕はちゃんとその評価を覆すし、このパーティならそれが出来ると信じてる。
だから、もう二度とあんな無茶はしないでくれ。」
アイクが厳しく、しかし確かな優しさを孕んだ声でレントに言った。
「そうだよ、レント。私たちなら絶対できるよ。」
リゼもそれを肯定する。
「……ありがとう。本当に、すまなかった。」
(良いチームだね。本当に。)
今のやりとりに、ライラは三人の確かな成長を感じていた。
「ほら!私はもう大丈夫だから。
きっとまた今回の件の聞き取りとかもあるだろうから、休める時に休まないとだよ。」
ライラはぱんっと手を叩き、そう言った。
「そうだね。僕たちも早く復帰しないとだもんね。じゃあ、行くよ。」
そう言い残し、三人は部屋を後にした。
「良い子達ね。」
イスカが微笑みながら言った。
「うん。自慢の……弟子たちだよ。」
『弟子』という言葉に恥ずかしさを覚えながらも、温かな感情がライラの胸に広がっていくのを感じていた。
ーーーーー
迷宮探索から数日ーーー。
ライラは元の日常の中へと戻っていた。
「ライラ!まだ見つかんないのかよ!」
「そうだよー。お願いしたの朝だよ?もうすぐ帰らなきゃいけないじゃんか!」
「待って待って、私もちゃんと探してるから。でも、ほんとにいたの?」
ライラは子供たちから、『顔が二つある鳥がいたんだ!見つけてきてよ!』という依頼を受け、王都を飛び回っていた。
「ほんとだって!後ろにも顔が付いてたんだ。本当だよ?」
「うーん、そっかぁ。」
その話が本当なら魔獣としか考えられないが、数年前の魔獣の襲撃以来、王都の結界はリアーナによって強化され、魔獣が入ってくることはまず考えられないのだ。
「とにかく、もうすぐ帰らないとお母さんが心配しちゃうから、それまでに見つけてよね!」
そう言って子供たちは走り去って行った。
ライラは魔力を込め、上空へと浮き上がる。
(とは言ってもなぁ。手がかりがなさすぎるんだよね……。)
そう思っていた時、一羽の鳥がライラの前を通り過ぎる。
なんと、顔の後ろに顔が付いていた!
「この子か!」
(レア!)
ライラがそう念じると、その鳥の周りを結界が囲んだ。
近寄ると、その鳥の正体が判明した。
「なるほどね。後ろの毛並みが顔に見えたのか。」
下を見下ろすと、さっきの子供たちが遊んでいる光景が見えた。
「もしかして、この子のことかな?」
子供たちのところへと降り、ライラは結界で捉えた鳥を子供たちに見せた。
「そう、この子だよ!ね?顔がついてるでしょ?」
子供たちは大声ではしゃいでいる。
ライラはその様子を見て、自然と笑みがこぼれる。
「この子、どうするの?」
「ライラがちゃんと信じてくれたならいいんだ。逃がしてあげて。」
子供たちの望み通り、結界を解除する。
その鳥は何事もなかったかのように飛び立っていった。
「ありがとうライラ。じゃあそろそろ帰らないとお母さんが心配するから。じゃあね!」
「ありがとー!」
走り去って行く子供たちを、手を振って見送る。
「またこんなことをしていたのか。」
声の方を振り返ると、カイルが立っていた。
今日は前とは違って一人だった。
「まぁね。カイルは今日も見回り?」
「今しがた終わったところだ。今日はメルフィス殿に呼ばれていて、今から向かうところだ。」
「そうなの?私もだよ。」
ーーー話は三日前に遡るーーー
先日の迷宮での消耗も癒え、リアーナに言われた通り執務室へと顔を出した。
「ライラか。もういいのか?」
「うん、もともと怪我してたわけではなかったからね。」
「そうか。今回の件、改めて例を言わせてくれ。ありがとう。」
リアーナがそう言って頭を下げる。
彼女のこんなところはなかなか見られない。
「そんな頭を下げないでよ。で、どうしたの?」
「一つは、単純に戻る前に顔を出して欲しいと思ったからだな。」
「それで?もう一つは?」
わざわざ『一つは』と前置きがあるからには、それだけじゃないことは感じ取れた。
「うむ……、勿体ぶるようで申し訳ないが、詳しいことはまた改めて伝えたい。三日後にまた改めて来てもらえないか?」
「そうなの?分かった。」
ライラは不思議に思いながらも、それを承諾し、そして今に至る。
「失礼します。」
カイルが礼儀良く入って行き、ライラもその後について行く。
先客がいたようで、部屋のソファに腰掛けている。
「よく来てくれた。では、全員揃ったところで話を始めよう。」
先客がライラの方を見る。
その人物は、ライラもよく知っている人物だった。
フレッド・ボーガット。
現・王立魔術師団副団長でありーーー、
リアーナと共に、ライラの″失った過去″と
深く関わる人物だ。
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