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10. それでも前へ


「ではまた来る。ーーー再三言うが、無茶はするなよ。」


リアーナは立ち去ろうとするが、ライラの記憶が途切れる前に触れた感触が蘇る。

一つ、確認をする。


「私をここへ運んでくれたのは誰?」


研究者が去った後、消耗し切ったライラを支えてくれた温かな感覚を思い出す。


リアーナは立ち止まり、一拍の間をおいて口を開く。


「……アイクだ。」

リアーナはライラを見ずに、事実だけを短く伝える。


ライラが目を見開く。


あの温かな記憶とともに、迷宮で起きた悪夢のような、だが紛れもない事実が脳裏に蘇る。


「アイク……!アイクは無事なの?」

「ああ。まだ休んではいるが、問題ない。お前のおかげだ。礼を言う。」


気遣ってくれているのが分かる。

ただ、ライラはこの気遣いを受け取るわけにはいかなかった。


「ごめん、リアーナ。アイクを……守れなかった。」


ライラは自身の失態を思い出す。

胸に鈍い痛みが広がる。


呼吸を忘れそうになり、全身の感覚が抜け落ちそうになるような無力感。

守れなかったという事実は、ライラの心を蝕む。


「守ったさ。アイクだけではなく、他の冒険者たちにも死者は出ていない。紛れもなく、お前は守ったのだ。」


「そんなこと言って、怪我を負った弟を見て、『ライラはどこだ!』って騒ぎ立てていたのは誰?」


そう言いながら白衣の女性が現れる。


「それは言わなくていいだろう、イスカ!」

そう言ってバツの悪そうにしているリアーナは少し面白かった。

少し、空気が軽くなる。


イスカ・ウェルナット。

王立軍お抱えの回復魔術師で、その技量は王国でも三指に数えられる。


「イスカさん。」

「おはよう、ライラ。気分はどう?」

「まだ魔力は戻ってないけど、大丈夫。ありがとう。」

「久しぶりの再開で意識がないって聞いた時には心配だったけど、よかったわ。」


確かに、死者はいないかもしれない。


けどこれを良かったと喜んでいいのかどうか。

ライラはやり切れない気持ちに、視線を落とす。


自分がついていながらーーー。


「ライラ、顔を上げろ。そして前を向け。

もう一度言う、お前はちゃんと守った。反省や後悔があるのなら、それは次に繋げるんだ。」


さっきまでとは違い、リアーナはライラを真っ直ぐ見据え、言葉で励ましを、眼差しで信頼を伝える。


「そうよライラ。それにね、さっきはああ言ったけど、話を聞いてあなたを誰よりも心配していたのはリアーナなのよ。」


イスカはくすっと笑い、リアーナを見る。


「……依頼をした時にも言っただろう。信頼していると。お前以外ではこれ以上の結果は望めなかった。だから言ったのだ、礼を言うと。」


少し照れくさそうにしながらも、リアーナはそれを否定はしなかった。


(……ありがとう、二人とも。)


あの時の失態も、この胸の重みもなくなるわけではない。

それでも二人の心遣いに、ライラの心が少し、ほんの少しだが軽くなったのを感じる。


「では行く。今日は執務室いる予定だから、帰る時には顔を出せ。」


そう言いながら医務室を出たところで、リアーナが誰かと喋っているのが聞こえた。


「姉さん!ライラに何も言ってないだろうね!?」

「そ、そんなことあるはずないだろう!それにだな、私はアイクのことが心配でーーー。」

「もう姉さんはいいから。ライラ、入るよ。」


医務室の扉が開くと、アイクとリゼ、そしてレントがいた。


その向こうには弟に邪険にされ、呆然と立ち尽くすリアーナの姿があった。

先程までの威厳は見る影もなくなっている。


そして、アイクが扉を閉めると同時に、その姿は見えなくなった。


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