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第六話「知識は泉です」

 孤児院ヴェローチェでは大きく分けて二つの訓練を行っている。


 それは実践訓練と座学だ。


 実際には実践訓練が七割くらいで座学は割と少ない。基本的には身体に覚えさせるという方針なのだろう。


 訓練の教官はヴェローチェの三兄弟の方々が持ち回りで行っている――のだけど、実際にはオロ様とカルロ様の二人が殆どだ。


 時々ステラ様による訓練もあるにはあるけど、この前みたいにあまりにも感覚に頼りすぎた訓練になってしまうので機会は少ない。その辺りはオロ様も悩みのタネなのだろう。


 ステラ様は『天才』であるが故、全て身体が感覚で動いているのだと思う。座学では全くと言っていいほど姿を見たことがない。そもそも、ご本人も座学は苦手なようだ。


 兵隊として恐ろしく優秀であっても指揮官としてはヘッポコだから、ヴェローチェであっても父様とうさまにはなれないだろう。誰も口にはしないけど、それはなんとなく肌で感じてはいる。


 それを継いでいるわけではないけど、ヴィスマールも感覚派で座学は苦手なようだ。


 みんなそれぞれ拾われた主に似るのだろうか……。


◇ ◇ ◇


 今日はエラさんとペンナの三人で図書室にいる。本来なら午前中にカルロ様の座学の訓練があったけど、急遽取りやめになってしまったからだ。


 中止を聞いたボクとペンナが自室へ戻ろうとしたところ、エラさんに引き止められて自習という形で図書室で勉強をしている。ペンナは不服そうだけど、ボクはみんなと勉強できるなら悪い気はしない。


 図書室と言っても蔵書数は少なく、しかも暗殺や彫金に関しては口伝が基本だから書物としては殆どない。あるのは礼節に関する本と全く関係ない知識として学ぶための本が殆どだ。


「――ったくよ、ホントここの本は俺たちの訓練に関係ない本ばっかだな」


「そんな事はありませんよ? 知識は泉です、お客様と接するうえで様々な知識を持っておくことは重要なことですよ?」


 本棚を物色するペンナに対して、席に座って何か分厚い本を読むエラさんがたしなめていた。


「確かにそうですね、お客様に話を合わせるという意味では知っておいて損な事は一つもありませんね。ボクは毎朝ここで新聞を読んでいますよ」


「流石、バロネッサさんはペンナと違ってよくわかってますね!」


「うるせぇな……」


 ボクもペンナと同じく本棚を物色していると、一つの本に目が止まった。


 ――古今東西の占いを集めた本だ。


 不思議と何かここに知らなきゃいけないものがあるように感じた……。


 そう思って本に手を伸ばした時、図書室の扉がガチャリと開いた瞬間だった。


「あら、双子ちゃん達もお勉強?」


 エラさんが声をかけた先にいたのはアルマとアルテの二人だった。


「はい、いつも時間がある時は兄さんとここに来ているので」

「姉さんと本を読み、知識を蓄えるのは至福の時間だよ」


 二人が微笑むように周りを見渡し、迷わず本棚に向かうと二人ともそれぞれ似た種類の本を手にとって着席した。


 そういえば、双子は同調シンクロの能力を持っていると自称していた。本を読むときに二冊分の内容が頭に入ってきて混乱しないのだろうか?


 いや、常に二つの映像を観て過ごしているならそこまで負担ではない……のだろうか?


「バロネッサ、多分あなたの考えている内容はイエスよ」


 双子をじっと見ていたからか、心を読まれたようなことを言われてドキリとしてしまった。


「僕と姉さんの二冊分を一気に読めるなんて便利だろ?」


 ペンナは何を言っているのか分かっていないような顔をしていたけど、エラさんは素直に驚きと羨ましそうな顔をしていた。


「なるほどなぁ、双子ちゃんの頭が良いのは効率よく勉強できているからなのね」


「そうね、私と兄さんは二人で一人。一人ではみんなに劣ってしまうかもしれないけど、二人で協力してみんなに追いつけるようにしているの」

「それでも、身体を動かすことに関してはどうしても限界があるから、今はここが課題だね」


 確かに頭と目が二つあったとしても、肉体は子供の身体が一つずつあるだけだ。頭が身体に追いつかないだろう。


 逆にいえば、双子が成長して身体的に強くなったら勝てる相手はいなくなってしまうかもしれない……。


「おい、バロネッサ!」


「え? あぁ、ペンナか、どうしたの?」


「ボーっとしやがって、本はもう決めたのか?」


 ペンナの手元をみると経済学に関する資料を持っていた。


「あ、あれ? 何か本を取ろうとしてたけど――何だったっけ……?」


「知らねぇよ」


「なんだろう、不思議と惹かれる本を見つけた気がしたんだけど……」


 改めて目の前の本棚を見渡してみても、それがどの本だったのか全く分からない。


「まぁいいや、これにしよう」


 適当に取った本は地図だった。この街の配置を暗記していれば暗殺をする時に道に迷うなんてこともないだろう。


 実際に歩いて十分覚えているというつもりだけど、上から見た配置をしっかり見ておいて損はないだろう。


 本を持って着席するとエラさんが嬉しそうにこちらを見てきた。


「ふふ、皆さん揃いましたね。やっぱり読書は一人よりもみんなで読むほうが何だか楽しいです」


「本来の訓練時間までじっくり読みましょうか」


「俺は途中で寝るぞ」


「好きにしてください、私たちはその間にペンナよりも成長しますので」


「なんだよぉ……」


 結局、今日もエラさんとペンナが言い合いしていたが、いつの間にかみんな静かに読書に励んでいた。


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