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第五十五話「あとはお前に託す」

 色んな事が終わった。


 ディフィシル暗殺の翌日、もうボクの人生が一区切りついてしまったのではないのかと思うくらい、激しい喪失感と空虚な気持ちになっている。


 今日の朝食も味のないパンと肉も野菜も入っているスープを食べていると、目の前でペンナが馬鹿な話をしている。


 こいつは今日も元気だな、羨ましい。


 日課になっているから新聞も読んだけど、全く頭に入らなかった。


 午前は彫金の訓練で双子と雑談をした、身長がまた伸びたらしい。


 昼食も味のないパンと肉も野菜も入っているスープだ。またペンナが元気に馬鹿をしている。


 午後のステラ様のナイフ投擲訓練まで時間があったので、誰もいない所でゆっくりしたいと思って裏庭の焼却炉の所へ行くと意外な先客がいた。


 キアロさんだった。


 無口で誰とも関わらず、それでいて格闘に関しては誰よりも強くて負けたところを見たことがない、冷静であり不屈という言葉が似合う人だ。


 木陰にただ座っているのかと思ったけど、よく見たら昼食のパンを千切って鳩にエサとしてあげているようだった。


 前にステラ様暗殺訓練の時に声をかけた時に断られて以来、少し怖くてまともに話をしたことがなかったので立ち去ろうとしたところで声をかけられてしまった。


「おい、バロネッサ。ちょっと話がある……」


「は、はい……」


 片手で地面を叩いていたので言われるがまますぐ隣に座った。何を話されるのだろうか、大した話でなければいいけど……。


「……俺はここのパンが嫌いなんだ、味がしないからな」


「ボクも好きではないですね……味がしないので……」


「お前はこの孤児院は好きか……?」


「毎日が大変だけど、ボクは好きですよ」


「らしいな……そう見えるよ……」


 どういう意味なのだろうか……? ボクは殆どキアロさんと話したことなかったけど、そういう風に思われていたのかな?


「俺はこのパンと同じだ……。味が何もない。出会ったり、仲良くなったり、そういうのが苦手だ……。別れるときに辛くなるからな……」


「ボクだってそうです。でも、別れることを前提で人付き合いはしませんよ?」


「……そういうお前に感化されたんだろうな」


 さっきからこれはなんの話をしているんだろう? まるで最後の別れみたいな話だ。


「お前、測定メトロンのことは知ってるだろ?」


「えっ!?」


 急に心臓を掴まれたような衝撃を受けた。


「あの能力、手紙を書いて減った紙の枚数や減ったインクの量、夜中に開閉したドアの回数、全部分かるらしいぞ……」


「それってどういう……?」


同調シンクロ探索サーチ弱点ウィーク注目アテンション……」


「キアロさん……何を言ってるんですか……?」


「追加で二つ教えてやるよ、気配を消して透明化する『透明インビジブル』と、触った相手の記憶を読み取ることができる『読解リーディング』だ……」


「何を……何を伝えようとしているんですか……?」


 怖い……。この先を聞くのが怖い……。どうしてこの人はボクに話しているんだ……? もっと他に話す人なんているだろうに……。


「暗殺の依頼主はヴェローチェを信用しているから依頼をして、父様とうさまは相手が信用に足る人物と判断した上で依頼を受ける……。単純な代行殺人もあれば、誰が殺したか分からないようにすることもある」


 暗殺の依頼の合言葉を定期的に変えて信頼できる者にしか依頼できない様にしているのはその為だ。誰もが依頼できては秩序が保てないし、殺す相手を選ばなければヴェローチェはあらゆる人からの敵となってしまう。


「俺たちの役目はヴェローチェの信用を――暗殺の依頼主の情報を持ち出すことだった……」


「持ち出す……?」


「情報は金になるからな。昨日オロ様から最後通告が来たよ『情報を盗もうとした罪を認めて殺される』か『暗殺依頼として殺される』かどっちがいいかって……。今まで随分と見逃してくれていたのに、今回も院の外には出ない条件で一日猶予をくれたよ……」


 オロ様からの最後通告……? セリオさんの測定メトロンでやらせていたことってもしかして……。


「俺はもう諦めた、ここは優秀すぎる……。顧客情報は父様とうさまとヴェローチェ三人の頭の中にしかないから、まずはヴェローチェを目指したが時間が足りなかった……。かと言って、ヴェローチェの誰かから情報を吐かせるには命の数が足りない……」


「諦めるって、キアロさん? 一緒にオロ様の所に行きましょ? だって、そんな――」


 立ち上がろうとして足に力を入れたけど、力が入らずに前に突っ伏すように倒れてしまった。


「どうせ無くなる命だ、俺は抵抗してみせるがあとはお前に託す……。『アレ』は努力家で負けず嫌いなんだ、頼んだぞ……」


「託すって……」


 それが何なのかほんの一筋しか分からなかったけど、とても重く、辛い想いが強烈に『心の中の欠片』として伝わってきた。


 そう言い、キアロさんは午後の訓練に向かって運動場に向かって行き、ボクもあとを追おうとしたとき、キアロさんは文字通りスッと姿が消えてしまった……。


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