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第五十二話「可能性しかないな」

 先日の父様とうさまの件があったので、ボクは毎日のようにルナさんに占いをしてもらわなければならないことになった。


 この前の即売会の翌日の占いで『太陽サン』のアルカナが増えたから、きっと夫人のアルカナが太陽サンだったのだろう。


 今、ボクが所有しているアルカナは、所有した順に『愚者フール隠者ハーミット刑死者ハングドマン死神デス女帝エンプレス皇帝エンペラー女教皇ハイプリエステス恋人ラバーズ教皇ハイエロファント節制テンパランス運命フォーチュンスター悪魔デビル審判ジャッジメント世界ワールド太陽サン』の十七枚だ。


 逆にまだ所有していないのは『魔術師マジシャン戦車チャリオット剛毅ストレングス正義ジャスティスタワー』の残り五枚だ。


 あくまで大アルカナの二十二枚だという前提の話ではあるけど……。


 そして、更に言うと既に魔術師マジシャンであることが確定しているヴィスマールと行動を共にしろという命令も下ってしまった……。


 表面上はおり役という扱いになっているし、ヴィスマールもステラ様からの依頼ということもあって快諾してくれている。


 しかし、何をすればいいんだ……。アルカナを集めるために誰かの感情を誘導したり、意図的に何かしたりするのも違うだろうし。今までの人たちだって自分から何かを貰いに行ったわけではなく、結果的に大事な事を教わっただけだし、それも――


「――ロネッサ? ねぇってば、バロネッサ?」


 頬を指で突かれて意識が現実に帰ってきた。


「ねぇ、バロネッサが一人で考え事ばっかしてたらつまんないんだけど!」


 視点を一周させると誰もいない、いつもの埃っぽい図書室だった。休日もヴィスマールと一緒に過ごすようにと言われていたから、人気ひとけの少ない図書室に来たんだった。


「バロネッサっていつも考え事してるよね」


「あはは……。この前ステラ様にも似たような事を言われたよ……」


「ステラお姉ちゃんにバロネッサと一緒にいろって言われたけど、何すればいいの?」


「うーん、ボクもそのことで今悩んでて……」


 なにはなくとも打ち解けあって親しくなるのが一番なのかな……。


 今年で七歳になる娘とどう接すれば良いのか……?


 元々それなりに仲は良いつもりだけどヴィスマールのことってあまり知らないし、ボクもヴィスマールに自分の事を話したことがない。


 まずはボクが歩み出るしかないか。


「ステラ様からは、簡単に言うとヴィスマールともっと仲良くなれって言われているんだ」


「ヴィスもそんな事言われたー。バロネッサと仲良くなれって」


「だからさ、まずはボクの事を知ってよ。誰にも言わないって約束してね」


「うん、いいよ!」


「実はボクは――」


◇ ◇ ◇


 かつて自分が貴族の人間であったこと、そしてオロ様に拾われたこと、貴族に戻ってほしいと言われて断ったこと。ボクが女であること以外は掻い摘んで簡単に説明してみた。


 思えば、身の上話を自分の意思でしたのは初めてかもしれない。オロ様に拾われた時なんかは聞かれたから答えたって感じだったし。


「へぇー、じゃああの写真の指輪の人がお兄ちゃんだったんだ。すごいなぁー」


「ボクは凄くないよ、凄いのは兄さんだけだから」


「ても、ヴィスはそう言う『家族』っての? そういうのよく分からないからなぁ」


 その言葉には悲しみではなく、単純な疑問というものしか感じなった。


 しまった……。やっぱり過去の話というのは地雷だったか……?


「ヴィスはこの孤児院にいる記憶しかないんだよね、ヴィスがここに来たの四歳のときらしいから」


「四歳……ってことは、三年前か」


「うん、だからそれより前のことは知らないし、まだ教えてもらってないの。もう少し大きくなったら教えてもらえるみたいなの」


 自分の過去を知らない……か……。


 ヴィスマールにとってはこの場所が人生の始まりの地になるのか……。


「あれ? でも、ヴィスマールの能力のことは何で知ってるの?」


「これはね、ステラお姉ちゃんに教えてもらったの!」


「教えてもらった……?」


「うん、ヴィスを拾った四歳の時、ヴィスが大人に使って殺しているところを見ていたんだって。それを見たからヴェローチェに入れてもらえたって教えてもらったよ」


 逆に言えば、能力がなければ見殺しにされていたかもしれないってことか……。いや、きっと別の孤児院に入れられていたのだろう。


「名前は『弱点ウィーク』ってつけてもらったんだ! ねぇ、カッコイイでしょ!」


「そ、そうだね……!」


 なんだろう弱点ウィークを見つける能力なのに、まるで自分の弱点ウィークに聞こえてしまう……。


「あ、でもね、もう一つ名前の候補があって『見抜ディテクト』でもいいよーって言われたけど、ヴィスが弱点ウィークにしたの!」


「あぁ、弱点を見抜くってことか」


 なるほど、ただ『見抜く』って言葉だけだと範囲が広すぎるから『弱点』の方が適当なのかもしれない。


「ちなみにバロネッサの今の『弱点ウィーク』はここだよー」


 そう言ってヴィスマールがボクの右の肋骨の真ん中あたりを軽く押すと――


「いっっっっっっ!!」


 爆発するような痛みが体内から発生して、余りの痛さに椅子から翻筋斗打もんどりうって床を転がり回った……。


「ご、ごめん! バロネッサ!!」


「だ……大丈夫……じゃないかも……うぐぅ……」


「いつもは即死の場所しか押してないから、今のは一番弱いところを押したつもりだったんだけど……ごめんなさい……」


 ヴィスマールが徐々に涙目になっていく……。


「き、気にしなくて……大丈夫……だから……」


 本当は全然大丈夫ではないけど、ヴィスマールの手前大丈夫なフリをしなければいけないけど……。


「うええええぇぇえぇんん……」


 泣いてしまった……。


 かといってヴィスマールのことを思いやれるほど余裕がない……というか、まず呼吸が浅すぎて苦しい……。


「バロネッザァー! ごめんなざーい!!」


 八歳で彫金も上手くて暗殺の技術もこれなら、純粋であるがゆえに恐ろしい……。一体どんな娘に育つのだろうか……。


 ヴィスマールには可能性しかないな……。


 こうしてまた苦しみとともに一つ『心の中の欠片』が埋まったような気がした……。


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