第五十話「交友関係が広すぎるんだよ」
「ふわああぁぁあ」
昼食を食べてすぐ、食堂で向かいに座るペンナが大きなあくびをした。
「腑抜けてるなぁ……」
本来は異常な空間であるはずの孤児院のはずが、最早日常として馴染んでいる。良いのか悪いのか……。
「ここのところ落ち着いているからな、訓練も割とできてるし、即売会で俺の商品も売れ出しているし、暗殺だって問題なくこなしている。平穏そのものだよ」
「なんというか、羨ましいよ……」
最近のボクは色んな事が起きすぎている。
ホーダー兄さんの政治問題、貴族への帰還要請、能力の発現、デアさんの能力改変、エレノアさんの再起、父様との邂逅、盛りだくさんすぎて身も心も追いつかない……。まるで激流にでも飲み込まれているかのようだ……。
そういえば、デアさんは話をした翌日に本当に辞めてしまった。
実際に衛生兵を目指すのかどうかは分からないけど、簡単な挨拶をしてみんなに笑顔で挨拶をして去っていった。
元々陰が薄くて目立たない人だったから、急に辞めるということに対して色んな憶測が生まれた。
今までにこんな去り方をした人なんていなかったから、事情を知らない人たちは疑問を抱えたままだろうが、いずれにせよ円満退院というものができるということが広まったのは良いことだろう。
一番悲しんでいたのはやはりステラ様だ。デアさんを拾った間柄であっただけあって喪失感も人一倍大きかったのだろう。カルロ様に何度も尻を叩かれてようやく立ち直りつつある。この間に即売会がなかったのは唯一の救いだろう。
「ボクもペンナくらい気楽に生きてみたいよ……」
「あんだとぅ?」
「こっちは色々起きてて大変なんだから、もぅ」
肘をついて頬を少し膨らませてから、子供っぽ過ぎるとハッと気づいてすぐになかったことにした。
「お前はなぁ、交友関係が広すぎるんだよ。別に狭く生きろとは言わんが、交友関係が広すぎるんだよ」
「何で二度も言ったんだよ。別に好きで広くしているわけじゃないよ、気がついたらこうなってるだけであって……」
「先月の即売会でも見たぞ、お前が勧めた商品を全部買っていく客、人たらしめ!」
「……正直、あのお客様は少し異常だったよ。ボクが勧めた商品を全部購入されていったからね……」
「す、すげえな……」
「キャロット農場って知ってる? 南部の超大規模農場なんだけど」
「あぁ、名前くらいは」
「あそこのご夫人なんだって……でも、ちょっと異常だったよ、なんていうかな買うことが目的になってるって感じ?」
ボクも能力の一部が発現してからというもの、どこか人の機微に敏感になった気がする。これが能力によるものなのか、それとも単にボク自身の察知能力が引き上げられたのかは分からない。
「金遣いが荒いってことか?」
「うーん……接客した感じだと違うかな……。不安すぎて気分が高ぶっている、不安を打ち消そうと買い物をしている……。そうだね、キャロット農場自体は成功しているのに、精神的に状態が良くなくて買い物で発散してるとかそんな感じだよ」
「そういう分析好きだよな、お前」
「ペンナは馬鹿だから人の機微に疎いだけだよ
「もう馬鹿でいいよ……」
その日の昼はそんな馬鹿みたいな話をペンナとして過ごしていたけど、翌日の朝、ボクの目にはある記事が飛び込んできた。
それはホーダー兄さんがキャロット農場へ資金援助したというものだった。
別に乗っ取ったわけではなくてただの大規模な資金援助だ、しかしそれは即ち南部の大規模農場が北部の貴族を支持するということになる。
これはホーダー兄さんの南部地方への進出の第一歩だ……!




