第三十二話「なにか心当たりはあるか?」
「――という感じで、ド叱られたわけよ」
大量発注事件からちょうど一日が経った夕食過ぎ。ルナさんから面談室に呼び出されたと思ったら、昨晩勝手にセフィロトを使った事をカルロ様に注意されたという愚痴を延々とされている。腕を組んで足を揺らし、完全に苛立っている。
もしかして、ボクは建前上ではなくて本当にルナさんに目をつけられているのだろうか……。
「別に個人的に使うのはいいけど、時と場合を考えろってさ。ヴェローチェとしてではなく、一個人としての注意だって。確かに未知数な能力を馬鹿みたいに忙しい時に使ったのは迂闊と言われたらそうだけどさ、アタシの力なんだから好きにさせて欲しいよ、まったく」
「ま、まぁ、でも今回の発注で検証が進んでよかったですね」
「そうだねえ、実際に起こるものの予知なのか、それとも起こるように引き寄せているのかは検証のしようがないけどね。とりあえずこれからは発生する時期とか規模とか、そういった細かいところの検証のために毎日自分に使うことにしたよ」
「使う時にヴェローチェの方への報告は必要なんですか?」
「必要ないってさ、あくまで本人の手札だとよ。もちろん他人に害をなす可能性がある場合はアタシの方から自主的に報告はするよ、面倒なことになっても嫌だしね」
「そうですね、あはは……」
本当にこのまま愚痴を聞くだけで終わりそうだ……。
「で、ここからが本題だよ」
あ、ちゃんと本題があったんだ。
「これは一人では検証できないと思ってさ。坊や、前に大アルカナを引いて貰った事があっただろ?」
「えぇ、確か自分のことを考えてカードを引いたら、何枚か種類が出てきてあとは存在しないはずの空白のカードが出てきた時のですよね……?」
「そう、あの方法は坊やとカルロは出てきた種類が多かったから検証したくてさ、カルロはうるさいから坊やが良ければって話だけど」
「もちろん、それは構わないですけど」
「よっしゃ!」
ルナさんは拳を手のひらに当てて気合をいれると、隣に置いてあったカバンから小袋を取り出し、タロットカードを机に置いた。
「今回は大アルカナだけじゃなくて小アルカナも混ぜてみる」
「小アルカナもですか?」
「まぁ、これは感覚の話になるけど、小アルカナを混ぜた山札でも大アルカナのカードしか多分出てこない気がする」
「わかるんですか?」
「何となくだけどね。カルロ曰く、こういう感覚は大体当たるらしい。せっかくだからそれも試させておくれ」
「は、はい! ボクで良ければいくらでも!」
ルナさんが机の上で念じるようにカードを混ぜ、一つの山札を作る。カードの枚数は小アルカナを含んだ全てのカードだ。
「それじゃあ、この前みたいに引いてみてくれ」
この前カードを引いた時のように、自分のことを考えてカードを引く――
出てきたカードはやはり『愚者』のカードだった。
「確か、ルナさんが『月』で、セリオさんが『女教皇』、ヴィスマールが『魔術師』、カルロ様が『皇帝』でしたよね」
「うーん……。他の子たちにも引いてもらって何が出るか検証してみたいけど、あまりこの力のことを広めるのも嫌だし。難儀だねぇ……」
「せめてボクに出てくるカードが何なのか分かればいいんですけど……」
「まぁ、今は考えても仕方ない。続いて引いておくれ」
「はい!」
山札からを更に引く――隠者、刑死者、死神、女帝、皇帝、女教皇……。
「やっぱり同じカードか、しかも出てくる順番まで同じときた」
「そうすると次は空白のカードですね」
「だろうね」
そうして次のカードを引くと――『恋人』のカードが現れた。
「恋人の正位置……?」
「あれ……? 変わりましたね……」
「検証が足りないからなんとも言えない部分はあるが、この前から今日までになにか決定的に変わったことがあったのか……?」
「うーん、なにかあったかな……。ちなみに、恋人の正位置の意味は何なんですか?」
「えぇっと、ちょっと待て」
ルナさんが説明書を取り出して慌ただしくページをめくっていく。
確定させるためにやった検証で違う結果が出たんだ、動揺するのも無理はない。
「あったあった。『選択、絆、深い結びつき、結婚、調和』だそうだ、なにか心当たりはあるか?」
「そう言われても……」
ボクは腕を組んで記憶の海を潜り始めた。
――恋人、絆、結びつき、調和……。なんだろう、何かひっかかる気もするような……。
この前の検証から今日までそこまで日数は経っていない、数週間くらいだ。
そこまでにあった変わったこと――ステラ様の暗殺訓練でデアさんと仲良くなって、その時にキアロさんが能力を持っているような素振りをしていて……。
あとは大きい出来事と言ったら昨日の夕方に指輪の大量発注があって、そこに『私』のいた家の紋章があって、指輪製作が恐らくヴェローチェになる試験かもしれなくて――そう考えると昨日は大変だったな……。
あぁ、あと午前中に双子の生い立ちを聞いたんだった。二人ともボクよりも幼いのに辛い人生を歩み、同調のことも相まってまるで一人の人間のように二人で協力し合って――
「あっ」
「なにか心当たりがあったかい?」
「アルマとアルテです! 二人を占ってみてください! ボク、二人を呼んできます!!」
「ちょ、ちょっと――」
ルナさんの制止する声も最後まで耳に入らないくらい衝動が身体を動かし、ボクは面談室を飛び出して一目散に二人を探し始めた。




