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第二十七話「暗殺で一番大事なのは計画だ」

 着地訓練の翌日、今日のステラ様の訓練は暗殺訓練だ。


 暗殺目標のステラ様に対して孤児全員が狙い、訓練時間である午前中に木のナイフで刺すことが出来たらボク達の勝ちというものだ。昨日が苦手な訓練だったから、今日は得意分野というものではない――らしい。


「ワタシは孤児院の中を逃げるだけで、外には出ないし、手出しもしないからね。でも、みんなはどんな手を使ってもいいからワタシを殺しに来てね!」


 運動場に整列したボク達――約三十人に対して堂々と宣言をする。


「はい」


「なぁに? アルテ」


「先ほどの『どんな手』というのは『どんな手』を使ってもいいということですか?」


 アルテがよくわからない事を言っている。


「うん『どんな手』でもいいよ、ワタシを殺せるなら」


 次はアルマが手を挙げた。


「なぁに? アルマ」


「ステラ様は『どんな手』を使いますか?」


「使わないよ、ワタシからは一切手出しはしない。地力だけで逃げるからナイフで殺しに来てね」


 ステラ様が不敵な笑みを浮かべる。


 そうか、アルマとアルテは『同調シンクロ』を使っても良いかの確認をして、ステラ様は能力を使わないと宣言したのか……。


 これは真正面から行くのでは明確に力の差が出てしまうな……。ボクも負けてはいられない……!


「それじゃあ、ワタシが院内に入って十秒したら開始だからね! いっくよー!」


 そういうとステラ様は鼻歌を歌いながら、まるで散歩にでも行くようにゆっくりと孤児院の中へと入って行った。


◇ ◇ ◇


 開始時刻は午前九時。訓練終了までの三時間でステラ様を殺すことになるけど――ボクにステラ様を殺すだけの力がないのは分かりきっている。


 ステラ様は『どんな手』を使ってもいいと言い、双子は同調シンクロを使って二人で殺しに行く様子だった。


 ヴェローチェである上に、暗殺に関しては右に出る者がいないステラ様を殺せる者なんて、この孤児院にはいない。だから、これは単純な暗殺の訓練ではない。


 一人の力でステラ様に挑むのは到底無理だ。それなら、人数を増やすのが正攻法だろう。


 実際の暗殺だって必ず一人でやらなければならない訳ではないし、駄目とも言われていない。


 実際、双子はいつも二人で協力して二人分の暗殺をしている――らしい。見たわけではない、本人たちがそう言っている。


「暗殺で一番大事なのは計画だ。機会は一度きりだと思って完璧な計画を立てなきゃ……」


 ボクはすぐに動き出すのではなく、周囲を見回した。まずはボクと同じ考えをしている人を見つけようとした。


 そして、ステラ様が孤児院に入って行った段階で、とりあえずボクは目のあったペンナとセリオさんに声をかけた。


「俺から声をかけようと思ったのに、お前から先に言われるとはな、驚いたぜ」


「私はぁ、バロネッサちゃんの力を借りたいなぁーって思ってたのぉ」


「ありがとう、二人とも。他にもなるべく声をかけてみるよ! 二人も協力してくれる?」


「もちろん!」


「当然よぉー」


 二人と手分けして声を掛けようと一歩踏み出した時、眼の前に大きな身体が見えたと思った次の瞬間にはぶつかってしまい、見上げると癖っ毛の黒い短髪が目に入った。


 キアロさんだった。身体はボクよりも一回り以上大きく、無口で強面な事もあって少し怖い印象がある。


 年齢も五つも年上だ。華奢なボクの身体とは何もかもが違う。


「ご、ごめんなさい!」


「いや、いい……」


 言葉と同時に足を進めようとキアロさんへ咄嗟に声をかけた。


「あ、そうだ! キアロさんも協力しませんか!? 今、連携してステラ様を殺すための仲間を探していて――」


「……俺はいい、一人でる」


「えーっと、はい。すみませんでした……」


 断られた――というより、元から一人で行動するつもりだったと言ったほうが正しいのだろうか。キアロさんからは『一人でも殺せる』という自信を感じた。


「あ、キアロさん!」


「なんだ……?」


「その……キアロさん『も』使えるんですか?」


「……何をだ?」


「……いえ、何でもないです。時間を取らせてすみません、ありがとうございました」


 ボクが頭を下げると、キアロさんは何の躊躇もなく一人歩いて孤児院に向かって行った。


 一人でステラ様を殺せないことは、キアロさんだって分かっているはず……。


 ただ単純に一人で行動したいだけなのか、それとも一人でも殺せる『どんな手』があるのか……。


 そんな事を考えている場合じゃない、他に何人か声をかけてみよう……!


◇ ◇ ◇


 建物から少し離れた運動場の隅に集まって作戦会議を始めた。


「集まったのは全部で十人か……三分の一と考えたら多いほうか」


 見知った顔といえば、最初に声をかけたペンナとセリオさん、そしてヴィスマールの三人。残りは毎日顔を合わせているから名前こそ知っているけど、そこまで交流のない人たちが六人――そしてボクを含めて十人だ。


「これだけいれば作戦は立てやすいね、機会は一度だけだと思ってしっかり決めよう!」


「作戦って言ってもなぁ。ヴィスマール、お前ステラ様の弱点とか知らねぇのか?」


「ステラお姉ちゃんはワキが弱いよ、くすぐるとずっと笑ってる! あとアゴの下も!」


「いや、そういうんじゃないんだよ……」


 ヴィスマールとペンナが馬鹿な話をしていると、腰を折るようにか細い声が聞こえてきた。


「あ、あのぅ……」


 その方向を向くと、黒髪を後ろで緩めの三つ編みにしたそばかすの少女が、オドオドとしながら手を挙げていた。


 名前は『デア』さん。年齢はボクより二つ年上で、ステラ様と同じ歳。次の誕生日がくれば十五歳だったと思う。


「ほ、本当にわたしたちでステラ様と戦うんですか……?」


 胸の前で手を組んで不安そうにしている。


「戦うって言っても、こりゃ訓練だしな。勝てないにしろ挑まなきゃいかんだろ」


「そ、そうかもしれませんけど……。わ、わたし自信なくて……」


「デアさんは、その、なにか得意なものってありますか?」


 今までこれと言って話したことがない人でも手当たり次第に声をかけていたので、デアさんの得意分野は全く知らない。というより、そもそもデアさんは影が薄い印象があって目立たないことが多い気がする。失礼な話かもしれないけど。


「え、えっと……。わたし猫とか鳥とかに好かれやすくて……」


「いや、そういうのじゃなくて暗殺に関してだよ。なんかないのか?」


 ペンナが少しずつ苛立ち始めている。確かにいま猫の話なんて無駄と思うのは無理もない。


「す、すみません! 彫金は得意な方なんですけど暗殺に関しては空っきしで……。せっかくステラ様に拾っていただいたのに……」


 そっか、デアさんはステラ様に拾われたのか。何となく納得したというと言い方が悪いかもしれないけど、ヴィスマールと同じで特化しているというより何かが抜けているという感じがする。


「ヴィスはデアの事スゴいと思ってるけどなぁ。ガオーッたしたり、ネコさんたちといつも一緒にいたりするから」


「猫さんといるのってそんなにすごいことなのぉ?」


「そうだよ! デアが呼んだらネコさんが来るんだ!」


 それが本当だとしたらデアさんは暗殺者じゃなくてサーカス団にでも入ったほうが良いのではないかと思ってしまう……。


「なんだそりゃ、ホントかよ?」


「ホントだよ! ヴィスはいつもネコさんと遊びたいときはデアに呼んでもらってるの! デア、呼んでみてよ!」


「あはは……。えーっと、ホントに呼ぶんですか……?」


「そうですね、せっかくなのでお願いします」


「おいバロネッサ、そんな悠長にしてる場合かよ!」


「まぁまぁ、もしかしたら使えるかもしれないと思って」


 ボクはデアさんに向かって軽く頷くと、デアさんはスゥーっと息を飲むと吐き出すように声をあげた。


「ネコさーん!!」


 空に響いたその声に全員の視線を集めただけに終わった。それも若干冷たい視線を。



 ――かと思ったら。



「にゃぁん」


 どこからともなく一匹の猫が現れた。


「にゃぁん」「にゃぁん」


 更に一匹、二匹、合計三匹の猫がデアさんのもとに駆けて集まり、足元に頬ずりしている。


「おい、嘘だろ……」


 開いたままの口が塞がらないペンナ。言葉がでないというのはこのことを言うのだろう。


「ペンナ、これが現実ですよ。受け入れてください」


「ほら、ヴィスの言ったとおりでしょ!」


「あらぁ、灰に茶に三毛に、みんな種類が違ってかわいいですねぇー」


「えっと……それでどうすれば……」


 三者三様な態度を見せるなか、デアさんが不安そうにボクの方を向く。


 ボクは見逃さなかった。デアさんが叫んだあの瞬間、身体がほんのりと白く光っていたのを……!


「デアさん、他にも猫たちに何かすることは出来るんですか?」


「えぇっと……呼ぶとわたしの所に来るだけで……」


「それは、呼べば『必ず』来るんですか?」


「は、はい……。必ずわたしのところへ……」


「あと『何匹』呼べますか?」


「わたしの声が届く範囲の猫なら……全部?」


「よっぽど猫に好かれてんだな……。でも、正直役には立たなさそうだぞ」


「大丈夫です、デアさんのおかげで作戦は思いつきました。みんなの力を合わせて手分けをして頑張りましょう!」


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