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第二十四話「みんなの行く先を導きたい」

「よいしょっと」


 午後の訓練後の自由時間、廊下を歩いていると面談用の個室から声が聞こえてきた。開いていたドアからチラリと中を覗くと、ルナさんが大きな紙袋を机に置いていた。


「なんか用かい? 坊や」


「えっ!? あ、特に何も……」


 まさかチラ見しただけで気づかれるとは思わなかったので、つい動揺してしまった……。


 気まずさを覚えつつも、大人しくドアを開けて部屋に入った。


「ルナさんこそ、こちらで何を?」


「買い出しだよ、指導員補佐って言っても結局は使いっ走りみたいなもんだからね。パンや牛乳や食材なんかは毎日業者が持って来るけど、細かい雑貨を色々と買い込んできたんだよ」


「そうだったんですね、いつもありがとうございます。それで、何を買ってきたんですか?」


「そうだな、基本的には訓練で使う道具だけど……。不思議と惹かれるものがあったから一つ買ってみたんだが……」


 紙袋を漁って取り出したのは小箱に入ったカードだった。


「これは?」


「カードゲームが出来るらしいから買ってみたんだが、占いも出来るらしくってな『タロット』っていうんだが知ってるか?」


「えぇ、名前くらいなら」


 箱の中の長方形のカードには様々な絵柄と文字や数字が描かれていた、おまけに分厚い説明書も。カードも八十枚位はあるだろうか、かなり量が多い。


「ルナさんは占いが出来るんですか?」


「いや、全くやったことなんてないよ。ただ、何となくやりたくなっただけだ。買ったのもアタシの小遣いだから誰も文句は言わんだろ」


「それじゃあ、やり方を覚えたら是非ボクを占って実験してください。いくらでもお相手になりますので!」


「そりゃありがたい。買ったものを片付けて説明書を読んだら声を掛けるよ」


「わかりました! お待ちしてます」


◇ ◇ ◇


 夕食後、皿洗いの当番をしている。今日の当番はボクとヴィスマールとセリオさんだ。


「よぉ、坊や。そいつが終わったら占いやってやるよ。一人でやってたら色々と試したいことができたんだ」


 ルナさんが食べ終わった食器を持って、ボクに声をかけてきた。


「占い? なにそれ?」


 ヴィスマールが不思議そうに尋ねてきた。


「ルナさんが占いの道具を買ってきたんだ。やり方覚えたらやってくれるって」


「そうなの!? よくわからないけど、ヴィスもやって欲しい!」


「あらぁ、それなら私もお願いしたいわぁー」


「まぁ、実験台は多いに越したことはないか、まとめてやってやるよ。皿洗いが終わったら面談室に来な」


「わかりました」


「やったー!」


◇ ◇ ◇


 面談室に入ると暗闇の中で灯の点いたランプに照らされたルナさんがいた。これから占いをするというのもあってか、ルナさん自身も何となく雰囲気が出ている。


「さぁ、三人とも座っておくれ」


「はい、では……」


 ボクを中央に挟むような形でヴィスマールとセリオさんが座る。


 机を挟んだ向かいには足を組んだルナさんが不敵な笑みを浮かべている……。


「何となく説明書は読んだんだが、占いとしては大きく二種類あるみたいでね、一つはだいアルカナっていう二十二枚のカードを使った簡易なものと、もう一つはしょうアルカナも含めた七十八枚全部のカードを使ったしっかりしたものだ。とりあえず最初だし簡単な方からやらせておくれ」


「はい、わかりました」


 ルナさんがあらかじめ分けられていた二十枚くらいのカードを机に乗せてかき混ぜ、ある程度かき混ぜたら再び整えて山に戻す。


「さて、始めたいところなんだが……さっき試しにアタシ自身で占ってみたんだが不思議なことが起こってな……」


「不思議なこと?」


「まぁ、見ればわかる。一度坊やで試させてくれ」


「えぇ、構いませんが……」


 ルナさんが山札からカードをザッと手際よく横一列に並べると、裏向きの二十枚ほどのカードの列ができた。


「試しに好きなカードをめくってみてくれ、坊やを現すカードが現れるはずだ」


「はい……」


 適当に真ん中の方のカードを一枚手元に引いて裏返してみた。


「何のカードだった?」


「えぇーっと『愚者フール』のカードでした」


 愚か者ってなんだか微妙なカードを引いてしまった気がする……。


 でも、このカード――何だかほんのりと白く光っている……? ランプの揺らめきか……?


愚者フールのアルカナか……えぇっと、正位置だと意味はなんだっけか……『始まり、自由、無邪気、可能性、旅立ち、無知』だそうだ。つまり、まだ何も持っていない旅立ちの時、何物にも染まっておらず、これから無限の可能性がある――って感じか?」


「なるほど、これから始まるからまだ何も知らない愚か者ってことですか。名前から悪いカードかと思ったけどそんなことはないんですね」


「みたいだな、アルカナの番号も零番。ここから全てが始まるって意味らしい」


 確かにまだまだ何も知らないボクにはぴったりのカードかもしれない。心の持ちようかもしれないけど、占いを神秘的なものと扱う理由がわかる気がする。


「――で。問題はここからだ。カードを一度戻してくれ」


「はい」


 愚者フールのカードを戻すとルナさんは再びカードをかき混ぜ、山札を作って再度一列にカードを並べた。


「さて、もう一度取っておくれ」


 そう言われるがまま、今度は左端に近いカードを取ってみた。


「何が出た?」


「……愚者フールのカードです」


「まいったなぁ……」


 どういうことだ……?


「坊や、カードを戻して今度はセリオがカードを混ぜておくれ」


「はぁーい」


 ルナさんに言われるがままセリオさんが机でカードをかき混ぜて、ゆっくりとカードを一列に並べた。


「さて、三回目だ」


「まさか……ですよね?」


 恐る恐る引いたそのカードはやはりそのカードだった……。


愚者フール……です」


「やっぱりなぁ……偶然じゃなかったかぁ……」


「どういうことですか?」


「アタシが練習でやったら、何度引いても『ムーン』のアルカナが出てきたんだよ……。手品用のカードでも買っちまったのかと疑ったよ」


 まさかとは思うけど、これがルナさんの『能力』……なのか?


「更に言うとだな、バロネッサが引いたのは全部『愚者フールの正位置』だ。一方で、アタシが引いたのは『ムーンの逆位置』だ」


「逆位置?」


「タロットには向きによっても意味が変わるらしくってな、愚者フールなら正位置はさっき言った通りだが、逆位置だと『無計画、無意味、不定』なんて意味になる」


ムーンのアルカナの意味は何なんですか?」


「正位置は『不安、用心、潜在意識、幻想、無意識、直感、変化』だ。逆位置は『不安の解消、心の安定、問題の解決、未来への希望』とかそんな感じだ」


「逆位置の方が前向きな内容なんですね」


「良いんだか悪いんだか……。さて、こんな感じなんだがセリオとヴィスマールも占うかい?」


「うん! やりたーい!」


「お願いしまぁーすぅ」


 ルナさんが苦笑いしつつカードを混ぜる。


 ヴィスマールが引いたカードは『魔術師マジシャン』の『正位置』だった。意味は『創造、才能、可能性、行動力、始まり』。


 セリオさんが引いたカードは『女教皇ハイプリエステス』の『正位置』。意味は『直感、神秘、潜在意識、知恵』。


 当然のように、何度引いても同じアルカナが出てきた……。


「……難儀な力を持っちまったねぇ」


 ルナさんが片手で頭を抱える。誰が引いても同じアルカナが出る。これはもう偶然では片付けられない。


「ルナもヴィスと同じになったの!?」


「……かもしれないねぇ、元々持ってて知らなかっただけだったのか、あるいは今さっき能力に目覚めたのかはわかんないけどさ」


「以前、オロ様が『能力は強く願った時に発現する』と聞きました。何か願った記憶はありますか?」


「うーん、最近はあんたらの世話のことしか考えてなかったからねぇ。孤児院の子たちの力になりたいとは思ってたよ」


「そうすると、みんなの『不安を解消したい』っていうのが能力になったってことぉ? 素敵ねぇー」


「まだ試していないけど、タロット占い自体は過去現在未来を占ったり、近い未来を具体的に占ったりもできるらしい。アタシにそれができるかどうかはまだわからないけどさ」


「そう考えると恐ろしい力ですね、未来が見えるかもしれないって言うのは……」


「そうねぇ、オロ様たちに相談して使い方を決めてもらったほうがいいかもぉ?」


「えーっ! じゃあもう占って貰えないかもしれないの!?」


「まぁ、そこは父様とうさまやヴェローチェの方々の判断次第かね。少なくとも、個人ではわからないけどヴェローチェという組織にとってはプラスになるんじゃないかねぇ」


 確かにもし未来が占えるのなら、ヴェローチェという組織の躍進に繋がるのは間違いないだろう。


 しかし、ルナさんの卒業が決まってから能力が発現するというのは……。とても危うい状態だったと見るべきなのだろうか。


「そうだ、坊や。アタシが試しても上手くできなかった事があったんだった。最後に確認したい、また自分のことを考えて引いてくれ」


「は、はい」


 引いたカードはもちろん愚者フールだった。


「その愚者のカードを持ったまま、また自分のことを考えて引いてくれ」


「確かにもう手元に愚者があるから、同じのが出るはずないですもんね」


「そのはずだが……」


 引いたカードは『隠者ハーミット』のアルカナだった。


「これは……? どういう意味でしょうか……?」


「そのまま引き続けてみろ」


「はいっ」


 更に引いたカードは『刑死者ハングドマン』、その次は『死神デス』『女帝エンプレス』『皇帝エンペラー』、更にセリオさんの『女教皇ハイプリエステス』――そして、次に出てきたのは絵柄も数字もない無地のカードだった。


「やはり、空白ブランクのカードが出てくるのか。いや、しかしアタシの時は『ムーン』『皇帝エンペラー』『女帝エンプレス』のアルカナが出て、四枚目から空白だった……」


「存在しないカードが出てくる……?」


 その後、更に三回引いたが全て空白のカードが現れた。


 同じく、セリオさんとヴィスマールも試したけど、セリオさんは僕の『愚者フール』のアルカナが、ヴィスマールは『スター』のアルカナが出現した。


「うーむ、三人のおかげで色々と検証ができた、助かる。まずは自分の事を考えてカードを引くと、その人を現すアルカナが必ず出てくる。更にそのアルカナを持った状態でカードを引くと、別のアルカナか存在しないはずの空白ブランクのカードが出現する場合がある。別のアルカナが出てくる条件は不明……そんなところか」


「前者は理解できますが、後者が謎ですね……」


「まぁ、あとはヴェローチェ次第って感じかね、明日にでも早速カルロに伝えておくよ」


「これでルナもヴィスの仲間入りだね!」


「あれぇ、それってぇ、私も仲間入りしてますぅ?」


「あとはボクだけか……」


 ……能力。ボクはまだ持っていないし、手に入るかも分からない。


 そして、ボク以外のアルカナは何を現しているんだ……?


 どこかスッキリしないまま、夜は更けていった……。


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