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第二十三話「自信かぁ……」

 ステラ様による基礎体力作りの訓練のあと、昼食で早速ルナさんが指揮をとっていた。


 元々人を使うのが上手いのだろう、オロ様やカルロ様と遜色ない動きをしている。指示の仕方には澱みがなく、全体が円滑に動いているのを感じた。


「あのルナさんが補佐ねぇ……。俺、あの人苦手なんだよなぁ……」


 向かいに座るペンナがスプーンを咥えながら小声で話しかけてきた。こいつはいつも苦手な物の話をするときは、どこか子供っぽい動きをする癖がある。


「なんで? いい人じゃん」


「なんか怖いというか、時々俺のこと虫けらを見るような目で見られる時があるんだよなぁ……」


「気のせいじゃない? ボクはそんなこと一度もないよ?」


「お前は好かれているんだよ、なんかお前って人に好かれやすい得な性分してるよなぁ」


「そんなことよりさ、聞きたいことがあるんだけど」


「そんなことより!?」


「ペンナの悩みなんか知らないよ、それより聞きたいんだけどさ、ヴェローチェってどうやったら選ばれるのか知ってる?」


 先日の誕生日でヴェローチェの方々の評価について少しだけ触れたのもあって、気になってしまった。


 今までは毎日訓練をこなして実力を見せていればいつかなれるって漠然と思っていたけど、そういえばしっかりと考えたことがなかった。


「お前なぁ……まぁ、いいや。ヴェローチェの選ばれ方だっけ? 詳しくは知らん、俺が孤児院に来てから選ばれた人はいないし、選ばれるような何かが行われたこともない」


「なるほど、何か試験みたいなことでも定期的にするのかと思っていたけど違うのか」


「お前なぁ、ヴェローチェは色んなことを求められるんだからそんな簡単なわけないだろ?」


「そりゃそうだけどさ。あとそうだ、ペンナはさこの人には勝ってるって思うことってある?」


 スープを飲みながら話をしていたペンナは食事を止め、嬉しそうに語りだした。自分の得意分野の話になるとホントにわかりやすい。


「なんだよ急に。まぁ、暗殺の技術――特に力技の類なら大体の奴には勝ってる自信はあるぞ。むしろ、負けてると思うのはキアロさんくらいだ」


 キアロさん――ペンナに負けず劣らず体格が良くて癖っ毛の黒い短髪が特徴的な男性だ。年齢は確かペンナよりも一つ年上の十七歳だったっけ。


 訓練でしか見たことはないけど、力だけのペンナと違って繊細でしなやかな動きもできるので、恐らく暗殺の技術は孤児院の中で最上位だろう。


 ただ、強面の見た目に体格が良くて、そのうえ無口で無表情だから、双子とは違った意味で近寄りがたい印象だ……。


 実際、ボクも訓練以外では全く会話をした事がない。


「俺とキアロさんは単純な力比べならそこまで変わらないけど、純粋に技術力が段違いだ。キアロさんを拾ってくれたカルロさんですら、武術としての試合なら負けてしまうかもしれんな」


「やっぱり実力が近い者同士だとそういう差もわかるんだ。ボクはその辺りの力量の差が全然わからないからさ」


「俺は逆に彫金に関してはからっきしだからな、完成したものの良さの違いもイマイチわからん。動くことや相手を見ることは得意だから、給仕もまぁ何とかなってはいるけどよ」


「そうすると、暗殺面ではキアロさんが最上位でペンナも上位って感じか……」


「逆に彫金技術ではどうなんだ? お前から見て誰がスゴいと思うんだ?」


「うーん、そうだなぁ。エラさんが最上位で次点でルナさんだったけど……。今はアルマとアルテ……次点でヴィスマールかな?」


「そうなのか、てっきりセリオさんかと思っていたんだが。前にあの人が作ったペンダントは俺でもわかるくらいキレイだったからよ」


「セリオさんは……うーん、何というかムラがある感じ?」


 セリオさんと親しくなったのは最近だけど、訓練自体は何度も一緒になったことがある。


 今なら理由がわかるけど、セリオさんは測定メトロンを使って見本と同じ物を作っている。運動で例えるなら、みんなが飛んでくるボールを蹴っている中で、セリオだけ止まっているボールを蹴っている状態だ。


 そして、時々上手くハマった時の出来がスゴい。特に上下や左右対称の物を作らせたら右に出るものはいない。それも測定メトロンによるものなのだと理解できた。


 ただし、根本的な問題として真似て作ることは出来ても『自分の作品』というものは作ることができない。そこはどうしても能力では補えない部分だから、技量という面でみると双子やヴィスマールの方に分があるという印象だ。


 暗殺や運動に感じては反射神経が足らず、給仕に関してはドジを踏む。別に見下している訳では無いけど、この極端過ぎる尖り方は孤児院の中でも唯一無二だろう。


 ただ、気になるのはセリオさんはボクが『女』であることに何となく気づいていたことだ。人を観察したり気持ちを汲んだりすることはできるけど、それを行動に移すだけの能力が足りないという感じだろうか。


 ある意味で一歩進んだ時に一番恐ろしいのはセリオさんなのかもしれない……。


「あとは給仕かぁ……ペンナは割とうまい方だよね、誰が一番上手いと思う?」


「うーん……極端に抜きん出ている奴はいない印象だな。多少の上手い下手はあるけど横並び――それこそ、バロネッサは上手い部類だと思うぞ」


「本当ぅ? 褒めても何も出ないよ?」


 珍しくペンナが褒めてきたのでジトっとした疑いの目を向けたけど、ペンナは目を逸らさずにこちらを見てきた。


「期待してねぇよ」


「それなら掛け値無しに嬉しいよ、平均点って言われてるボクが上手い方にいるんだから」


「悔しいけど、お前は自分を過小評価しすぎだぞ? 俺よりも三つ四つも年齢が下なのに給仕は横並びで彫金は俺よりも上なんだからな」


「うーん、そうなのかなぁ……?」


「上を見すぎるのも下を見すぎるのも良くないぞ。目標として上を見るならいいが、それはそれでキリがないし、下を見て安心するのは良いが今度は成長しなくなる。結局見るべきは己自身なんだよ」


「なんだぁ? ペンナのくせに良いこというじゃん?」


「カルロ様からの教えだ」


「やっぱり、そんなことだと思ったよ」


「やっぱりとはなんだ。まぁ、お前は平均点のまま一番上を目指せよ、お前に無いのは技術よりも自信だと思うぜ。俺がカルロ様の後釜になった時、お前はオロ様の後釜になってろよ。その時は父様とうさまになるためにお前と本気で戦いたいからな」


「自信かぁ……」


 オロ様はボクの事をある程度評価してくれている。ペンナも対等かそれ以上の存在だと認めてくれている。もしかしたら他にもそういう人がいるのかもしれない。


 ボクをよく知らない人は評価すらしないだろうし、ボクを一番低く評価をしているのは自分……か。


 セリオさんは何かあってもハッタリで生きてきたと言う。それは自分に自信があると見せなきゃできないことだ。


 ボクには自信がないから、つい悪いところや他人と比べて劣っているところばかり目がいっている。


 もっと自分を見て、苦手なものがあるなら克服するか、新しく得意なものを作れば良い。


 考えろ、バロネッサ。


 次に何をすればいいかを……!


「ありがとうペンナ、少しだけど自信が湧いてきたよ」


「そいつはよかった。どうせ競うなら相手は強いほうが良いからな、お互い高みを目指そうぜ、バロネッサ!」


「あぁ! そっちこそボクを後押しした事を後悔するなよ!」


 ボクとペンナは拳を軽く合わせると、お互いに微笑んだ。


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