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第十四話「ホントに覚えてないのか?」

 暗殺の翌朝、オロ様に仕事の報告をしてからエラさんを探そうと孤児院の廊下を歩いていた。


 今日は訓練のない休日だから院内にはいないかもしれない。


 訓練がないから休むという選択肢もあるし、訓練がないから暗殺に専念するという選択肢もある。ボクはいつも前者だ。


 普段から新聞を読んで情報を仕入れるのを日課にしているから、休みの日は訓練がないのでゆっくり読めるのも嬉しい。


「あー! バロネッサぁー!」


 ボクを呼ぶ声がして振り向くと、ヴィスマールが半泣きの顔でこちらを見ていた。


「どうしたの、ヴィスマール?」


「昨日からヴィスのうさぎさんのぬいぐるみがどっか行っちゃってー! ずっと探してるけど見つからないの! ねぇ、バロネッサ知らない!?」


「ぬいぐるみって、いつもヴィスマールが持ってるやつ?」


 ヴィスマールは訓練の時以外はいつもうさぎのぬいぐるみを持っている。ヴィスマールの頭と同じくらいの大きさで、麻の布地の中には小麦の殻が入っているらしい。


「うん! 昨日ご飯食べるときに一緒にいたのは覚えてるんだけど、知らない間にいなくなっちゃって……。どこかに逃げちゃったのかなぁ……」


「ヴィスマールはうさぎさんのことが好きだし、うさぎさんもヴィスマールの事が好きなんでしょ?」


「うん……そう……」


「じゃあ逃げていくことなんてないよ、一緒に探そっか!」


「うん、ありがとう! バロネッサ!!」


 涙を溜めた顔に笑顔が戻った。やっぱりヴィスマールにはいつも笑顔でいて欲しい。


◇ ◇ ◇


「――というわけなんだけど、ペンナは知らない? ヴィスマールのぬいぐるみ」


「うーん、ヴィスマールがいつも持ってるのは知ってるけどよ……。わりぃな、全く心当たりがねぇ」


 まずは現場にと思って食堂に行くと、遅い朝食を摂っているペンナに遭遇した。


 しかし、全く知らないとは役に立たないな。ボクも人のことは言えないが。


「昨日暗殺も終わったって言ってたし、どうせ今日は暇でしょ? ペンナもヴィスマールのぬいぐるみ探すの手伝ってよ」


「どうせとは何だよ、確かに今日の予定は何もないが……」


「じゃあ、ヴィスとバロネッサと一緒に探してよ!!」


「うーん、まぁ……。少しだけだぞ?」


「やったぁ! ありがとう、ペンナ!」


 ヴィスマールが大喜びしている。身長の高いペンナには高い場所を探してもらおうかな。


「食堂まで持ってたのを覚えてるなら、食堂で一緒にいた奴は覚えてないのか?」


 馬鹿なペンナにしては真っ当な意見だ。そもそも昨晩食堂以降のどこかで失くしたというのはうろ覚えなのだから、確実に持っていた瞬間を追っていけばいずれは答えに辿り着けるだろう。


「昨日のご飯はアルマとアルテと一緒に食べてたけど……。うーん、なんでだろ、食べてた途中からあんまり思い出せないんだよねぇ」


「なんだそれ、何でそこが思い出せないんだよ」


「まぁ、誰しも意識していない時なんてそんなものじゃない? ペンナだって昨日のいつお手洗いに行ったかなんてしっかり覚えてないでしょ?」


「いや、確かに覚えてないが、それはヴィスマールのとはちょっと違う気がするんだが?」


「同じだよ、きっと」


「きっとってなんだよ」


「あぁー! もぅ、二人とも早く探しに行こうよぉ!!」


 ふざけていたら流石にヴィスマールに怒られてしまった。ペンナのせいだ。


「まぁしかしなんだ、食べてる途中まで覚えてるなら、とりあえず一緒にいたっていう双子の所に行くのが良さそうか?」


「そうですね、次はアルマとアルテを探そうか、一つずつ潰していけばいつか正解に辿りつくだろうし」


「うんっ!!」


◇ ◇ ◇


 双子を探して中庭に来た。すると、向かい合って片足立ちをする双子の姿があった。お互いの肩に手を乗せてバランスを取っている。


「なんだアイツら、休みの日まで自主的に訓練してんのか? 休みは休めっていつもカルロ様が言ってるってのに」


「いいじゃないか、苦手な面を補うために努力するのは悪いことではないし」


「そういうもんかねぇ」


「アルマー! アルテー!」


 ヴィスマールが大きな声で二人を呼ぶと、ふたりともこちらに気づいたようで訓練を止めてこちらに歩いてきた。


「何かありましたか? ヴィスマール」

「どうかしたのかい? ヴィスマール」


 二人が揃って声を出す。


「ねぇ二人とも、ヴィスのぬいぐるみ知らない?」


「どうやら昨晩からヴィスマールの持っているぬいぐるみがお出かけしているみたいでさ。二人は昨日の夕食はヴィスマールと一緒だったって聞いたけど何か知らない?」


 ボクが二人に話しかけると、二人ともボクの話を聞いて怪訝けげんそうな顔をした。


「知っているも何も、ヴィスマール。昨日はうさぎのぬいぐるみにスープをこぼしてしまって、食事の途中で慌てて食堂を出ていってしまったではないですか」

「僕もこぼした瞬間を姉さんの目を通して見ていたから間違いないよ。ぬいぐるみの中の殻にまで染みてしまったから大変だって言っていたよ?」


 ……? どういうことだろうか?


 そんな印象深い事があればヴィスマールが忘れるわけないのでは……?


「えぇ!? ヴィスそんなの知らないよ! もっと詳しく教えて!」


「詳しくと言われましても、食堂を出ていかれてからのことは分かりませんし。その後は私も兄さんも食事を続けていたので」

「僕も同じだよ、姉さんと食事をしていたからその後は分からない。汚れてしまったのだから、洗いにでも行ったのではないかな?」


 洗ったとしても、麻の生地に小麦の殻では汚れは落ちないし、むしろぬいぐるみ自体が駄目になってしまうかもしれない。


 ヴィスマールは一体何をどうしたんだ……?


「おいおい、ヴィスマール。ホントに覚えてないのか? 大事なものが汚れたのに覚えてないうえにどこにあるかも分からない、そんなことあり得ないだろ」


「あり得ないって言われても、覚えてないものは覚えてないんだからしょーがないじゃん!!」


「うーん、謎は深まるばかりだね。ありがとう二人とも、ぬいぐるみ探しが少し前進した気がしたよ」


「こちらこそ、あまり力になれなくて残念だわ」

「また何かあれば僕も姉さんも力になるよ」


「ありがとー! アルマ! アルテ!」


「それじゃあ、俺たちはその汚れたぬいぐるみがどこに行ったか探すかぁ」


「そうだね、早く見つかるといいけど」


 二人が再び片足を上げて訓練を再開するのを見届けて、ボクたちは中庭を後にした。


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