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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『花灯り』

花灯り 淡き想いを 映しけり

「花灯り」シリーズです。

❁ 実花 ❁


前世の夫は、ただ父に言われて嫁いだ男性ひとだった。


愛されていたと自惚れてはいない。

私も愛していたかは分からない。


ただ何となく覚えている彼との思い出が、春になるたび私をここに導いている。


照明に照らされた桜は明る過ぎる。


夜桜といえばもっとこう……行灯の仄かな明かりに薄っすらと、白くその身を儚げに闇に揺らめかせるくらいがいい。


―――そなたのように美しい。


口数の少ない夫の、愛情表現はおろか褒める言葉さえかけることが碌になかった夫のぎこちない言葉を思い出させる花あかり。


夫の顔は霞がかって覚えていないけれど、行灯に照らされて闇夜に浮かんだ、照れ臭そうに上がった口角を面映ゆく感じたことはなぜか覚えている。


夫に射殺された最期を思えば恨んでもおかしくない男だというのに。



目の前で桜の花が震える。

嘘をつく私を嗜めるように白い花弁が1枚ひらひらと舞い落ちる。


そう、嘘。

私は夫を恨んでなどいない。


だって夫は私を殺してくれたのだから。


 ◇


領主である義父が隣の領主に騙され、奇襲を受けた城から子どもたちを逃がすため私は囮になった。


あのとき子どもたちは無事に夫のもとに辿り着いたのだろうか。


あの時代にありふれた小競り合い。歴史にも残っていない些末なこと。「いつ」「どこで」の記憶も朧げだから調べようもない。


ただ新たな生を得た現世で無事だったらいいなと想うしかできない。


ただ想うだけ。

それが死というものなのだろう。



隣の領主は捕えた私を交渉材料とし、開城を求められた夫は矢をつがえた弓を向けることで拒絶を示した。


武芸に秀で弓も上手だった夫なら、その1本で後方にいる隣の領主を射抜くこともできたであろう。報復すると同時にその武力を見せることで敵を怯ませ、たとえ束の間であっても領地の安全を得るために彼はそうするべきであった。


でも夫はその矢で私を射抜いた。

命は守れなくとも、私の尊厳を守るために。


たとえあの矢が隣の領主を射抜いても、私は結局死ぬことになっていた。


現世でいま人気の異世界もの、夫がその英雄伝に出てくるような人物だったなら瞬く間に何十人もの敵を屠り見事私を助け出したかもしれない。


でも現実には無理、そんなこと。


首領が死んで統率を失おうと、私を捕らえていたあの者たちにとって私は戦利品でかつ女。どこぞの山中で彼らの慰み者にされたあと私は殺されただろう。


そういう時代だった。


……おかしな話。


毎回こうして仕方がなかったと納得しているのに、なぜか毎年桜の時期はここに来ている。まるで未練をもつ幽霊のようだ。


人で賑わう桜並木ではなく何もない空き地で、ただ盛り上がっただけの小山の麓にある細い桜の若木を見ている私。他人がいまの私を見たら、それこそ―――。


「幽霊?」


そう、幽霊と間違われるに違いな…………ん?



振り返るとスーツを着た男性がいた。

手にコンビニの袋を持っている……桜並木に戻る道を間違えたのだろうか。


この街の桜並木は少しばかり名が知られていて、花咲くこの時期は遠方からも人がくる。スーツを着て桜を見にくる人は少ないけれど……。


「桜並木は向こうですよ」


「足がある」



……酔っているのかな?

そして、どこを見ているのかな?


踝の少し上まである丈の長いスカートだけど足をジロジロ見られるのは不快だ。いや、そうじゃない……もしかして逃げたほうがいいのかな?



男性の顔立ちは端正、つまりイケメン。


女性に苦労しそうもなく飢えてはいなさそうだけど、他人の性的嗜好は見た目では分からない。犯罪者についての取材で「そんな人とは思わなかった」とよく聞くし。



えー……どうしよう。こんなところで悲鳴をあげたって誰もきてくれない。いや、とにかく逃げよう。


「逃げないでくれ」

「ひっ」


まだ動いてもいないのに。

この人、人の心が読めるの?



「す、すまない。その、あの……あ、よければ一緒に飲まないか?」


…………ナンパ?


いや、でも、いま『いい口実を思いついた』って感じだったよね?

酔わせていかがわしいことしようとしてる?


「いかがわしい」なんて今どきの言葉か分からないけど、「今どき」とか言っている時点で怪しいけれど、それにビール1本では到底酔えないけれど……逃げよう。


やっぱり逃げよう。

逃げる一択。



「あの、もう、帰らないといけないので」

「どこに?」


「……家に?」

「送っていく」


……………………いやいやいやいや、おかしい!


この人おかしい!

絶対におかしい!!


女性の安全のために男性が送っていくのはよくある話。でもそれって、この人みたいな危ない人から守るためにするんだよ?


危ない人ご本人が送る?


いやいや、ないない。

絶対にない!



「……実花みか?」


天の助け!


「大ちゃん!」


私の声はちゃんと焦って聞こえたようで、砂利を踏む足音は早く、どんどん大きくなった。暗がりからパッと大ちゃんが出てくる。


「実花、こっちに来い!」

「うん!」


私が駆け寄ることで相対速度があがり、あっという間に私は体ごと大ちゃんの影に隠された。あー、怖かった。


「あんたっ…………ん?」


……んん?


……大ちゃん?

なんでじっとしてるの?


変な人だよ?

ここは『私を連れて帰る』の一択だよ?


なんで変な人を凝視しているの?


確かに格好いい人だけど……大ちゃんは異性愛者だよね?

その辺り偏見はないつもりだけど……ええ?



「もしかして、恋人、とか?」

「いえ、兄です」


大ちゃん?

変な人の問いかけに何を素直に答えているの?


いつもなら『恋人ですが、なにか?』ってやってくれるじゃない。


それ、今でしょ!

いまこのときこそ『恋人ですが、なにか?』の出番だよ?


なにその『誤解されたら堪らない』って態度。

妹に失礼!



「この近くにお住まいですか?」


兄!

なに逆にナンパしてるの?


……タイプなの?

え、そうなの?



「ネットでこの街の桜並木を見て綺麗だなと思って……それで、まあ、この街に」

「泊まりで? 宿は?」


グイグイいくね。

大ちゃん、この変な人とタイプが違うイケメンだから慣れているのかも。


流れるようなナンパ。

兄の恋愛テクニック……しかもナンパ、知りたくなかった。



「駅前にビジネスホテルがあるようなのでそこに泊まろうかと」

「予約していないとこの時期に泊まるのは無理ですよ」


変な人は困った顔をする。


していないんだな。

そして嫌な予感がヒシヒシするぞ。



「よければうちに泊まりますか?」


やっぱり!


「いいんですか?」

「もちろん」


よくない!


「大ちゃん!」


「実花、こういうのを合縁奇縁というんだぞ」




❁ 雪夜 ❁


前世の妻は、ただ父に言われて娶った女性ひとだった。


愛されていたと自惚れてはいない。

俺も愛していたかは分からない。


ただ美しい月の夜、共に見た桜の思い出はとても美しく、春になるたび俺はあの夜の桜を探している気がする。



スマホが薦めてきたあのブログを見た瞬間に『ここだ』と感じ、残業する予定だったが俺は帰り支度をして電車に乗った。


車窓からの風景が見慣れないものに変わったところで「なにやってるんだろう」と我に返り呆れたが、もう乗ってしまったし、明日は土曜日し、小旅行と思って開き直ることにした。



この街についたのは19時過ぎ。


電車の中で読んだブログの記事から小さな街だと思っていたが、電車を降りると駅には思いのほか人がいた。旅行誌にも取り上げられた桜並木、花咲くこの時期は俺のように遠くから人がくるのだろう。


人の流れに乗って人気の桜並木に向かったが、なんとなく思っていたのと違った。


確かに綺麗ではある。しかし夜の桜はもっとこう、行灯の仄かな明かりに薄っすら白く浮かび上がるのがきれいだと俺は思う。


―――美しいですね。


妻の顔は霞がかって覚えていないが、行灯に照らされて闇夜に浮かんだ、紅をさした唇が薄っすらと開いた様が妙に艶めかしく、心臓が跳ねたことはなぜか覚えている。


彼女を忘れられないのは後悔か。

それとも自分を殺した俺を彼女が恨んでいるからか。


そんな思いは直ぐに消える。

妻は俺が殺した意味の分からない女ではなかった。


 ◇


領主である父が隣の領主に騙され、俺が留守している間に城が襲われて妻は子どもたちを逃がすために囮になった。


俺のいたのが山城だったからか木々に隠れて子どもたちは全員無事にたどり着いたが、囮になった妻は捕まり隣の領主は彼女を交渉の材料にして開城を求めてきた。


一騎打ちなら俺に分があったが相手は数十人の兵を連れていて、妻を助けることは無理だと否応なしに理解させられた俺は矢をつがえた弓を彼女の心臓に向けた。俺の狙い通り矢は妻の心臓に刺さり、苦しむ彼女に人質の価値はないと察した奴らは彼女をその場に棄てて戦いを挑んできた。


開戦の声があがった直後、雨が降り出し俺たちは態勢を整える時間を得た。


「あの場で隣の領主を射殺すべきだった」とか「女の尊厳なんかを守って千載一遇の機会を不意にした」と自分の愚かさを忘れ、彼女が囮になったおかげで逃げ延びられたことも忘れてただ喚くだけの父と母を地下の座敷牢に閉じ込めて俺たちは籠城した。


まるで天が泣いているように雨は長く降り続き、そして上流で川が決壊した。濁流が押し寄せ、山城を取り囲んでいた敵は一掃されて俺たちは生還した。


妻の亡骸を見つけることもできなかったため、俺は自己満足と分かっていながらも、彼女と共に見た桜のもとに墓を作った。



……とここまでは過去というか前世の思い出なのだが…………なんでこんなことになった?



「なに食べます?」


幽霊と間違えた女性の兄、大樹だいきさんが差し出したメニュー表を俺は受け取る。メニューの内容から、店の外観通りここは地元の人たちがよく利用する居酒屋のようだ。


「俺の友人の店です。洒落ていませんが味はいいですよ」

「なんだって?」


大樹さんの言葉、彼の友人だという大将の様子。いい店だと俺は思い少し体の力を抜いたが……大樹の隣では俺が幽霊と間違えた女性、実花さんがまだ胡散臭げに俺を見ていた。


これは、まあ……仕方がないだろう。


確かに馬鹿なことをした。

思い返してみれば、彼女に対して俺がしでかしたことはどれをとっても反省しかない。


本当に……俺は一体なにをしているんだろう。


見たいと思った桜並木は予想と違ったけれど、今から帰るのもと思い地図アプリで駅前にビジネスホテルがあるのを確認し、今夜はこの街で過ごすことに決めた。


月のきれいな夜。


少し遠くから桜並木を見てみようと思い、目に入ったコンビニでビールを2缶買い、月を目指すように歩いていくと空き地があった。古びた看板に『売』とだけ書かれていて、売地か何かだろうと思いながら中に入ってみた。


そこに実花さんがいた。


空き地の向こうは丘なのか、それが月光を遮って暗い場所。風に揺れる白く長いスカートが淡く光り、暗闇に浮かんでいるようだった。


その後ろ姿に祝言の夜に閨で見た妻の白い夜着姿が重なり、思わず「幽霊」と呟いていた。


振り返った実花さんに俺は息を飲んだ。

淑やかという言葉が似合う、とても美しい女だったから。


美人はそれなりに見慣れているのになぜか目が離せず、ぼーっと見続けていたら実花さんの目に徐々に警戒の光が灯りはじめた。


それは仕方がない。

幽霊扱いして「足がある」なんて、足元をジロジロ見ていた俺は明らかに変質者。


彼女が逃げようとしたのは当然なのに、「逃げるな」などと言って悲鳴をあげられた。大声でなく息を飲む程度でよかった。


そして極めつけはコンビニで買った缶ビールを口実にナンパ……最低すぎる。しかも断れたのに、しつこく送るなどと言っていた。


ナンパなんてしたのは初めてだが、友人はよくナンパしている。失敗した、超好みだったのにと落ち込む彼に、断られたらすぐに引くべき、相手を強張らせてどうすると諭してきた俺。


その教えはどうした……ドン引きされたぞ、俺。



引く実花さんに対して俺が押していたら、大樹さんが現れて実花さんを庇うように後ろに隠した。実花さんも信頼するように大樹さんに身を寄せていて、恋人の登場かと俺はショックを受けた。


本当に、どうした自分……。

あの状況で「恋人か?」と聞くなんて馬鹿だ、俺……いや、あれは確認してよかった。


だって大樹さんは実花さんの兄。

だから、いまがある。


「一晩お世話になりますし、ここは俺が奢ります」

「実花、奢ってやるから機嫌を直せ」


同時に『奢る』と言って、俺は思わず大樹さんと顔を見合わせる。


「お通しだよ」


タイミングよく大将が小鉢を持ってきて、トントントンと小気味いい音をたてて置いたあと俺たち3人を順繰りに見る。


「どういう関係?」

「このイケメンが実花をナンパして、俺がこのイケメンをナンパした」

「……それ、説明か?」


大将の笑っただけだが、俺にナンパされた実花さんは俺をチラッと見た。その視線が妙に嫋やかで心臓が軽く跳ねた。


実花さんは目線を俺から窓の外に向ける。


窓の外の桜並木から零れてくる花灯りが彼女の顔を明るく灯し、赤い口紅が塗られた彼女の唇が薄く開く様は艶めかしくて――。


「大将、生ビール……大で」

「あいよ!」


……気のせいか。




❁ 大樹 ❁


「お客さんはどうしてこの街に? やっぱり桜を見に?」

「このブログを見てきたんです」


妹の実花をナンパした男、雪夜ゆきやさんの見せたスマホの画面を覗き込んだ大将が「大樹のブログじゃないか」と笑った。


本当に合縁奇縁。

母に次いで父にも再会するとは。



俺には前世の記憶というものがある……が、これを言うと流行にのっかり過ぎだと笑われるだろうから誰にも言っていない。


実花なんか泣き落としてでも俺を脳外か心療内科に連きそうだ。そしてずっと格子のついた病室に入院する羽目に……やっぱり黙っていよう。



その実花、7歳下の妹は前世で俺の母だった。


なんで分かるか?

顔がそのままだから。


違和感を覚えたのは実花が10歳くらいのとき。そして実花が高校生のとき「もしかして」と半信半疑になって、25歳のいまは母だと確信している。


俺の元服(当時の15歳)を祝った翌年に亡くなった母・雪月せつげつ。享年32歳。当時の俺、16歳のときの子ども……雪月、32歳で4人の子持ち。現世の俺、32歳で独身……時代ってすごいな。



俺は前世も今世もこの地で生まれた。


この街にある小山は元は俺が育った城があったところだが大分昔のことだし、俺が父・実篤さねあつよりも大きな功績をたてたせいで俺が作った城跡と堀沿いに作った桜並木だけが歴史としてこの街に残っている。実篤も雪月も、その名が家系図と俺の記憶に残るだけ。


でもこうして再会したんだから、実花も雪夜さんも『なんとなく』くらい覚えているのかもしれないな。


雪夜さんがどうして父と分かるか?

こっちも顔がそのままだから。


この2人が何を覚えているかは永遠に分からないだろう。前世の父と母の別れはいい形ではないから蒸し返すのもなんだし、俺と父もいい形での別れではなかったからなあ。


 ◇


領主だった祖父が隣の領主に騙され城が急襲され、母は俺と弟妹達を助けるために囮になり隣の領主に捕まった。


門の外で敵に捕まっていた母の姿を、櫓の上に立っていた俺は今も覚えている。隣で父がギリギリと弦をひく音。鋭い音を立てて父の手元を離れた矢は、敵将の頭ではなく母の心臓を貫いた。あの光景、その衝撃は今世でも忘れることはないだろう。


子どもだった俺は母を殺したと父を責め、どうして母を殺したのかという質問に答えない父に苛立って距離を置いた。父は言葉足らずな不器用で、俺は意地っ張りな子ども。俺の一方的な仲たがいは修復されないまま時が過ぎ、母が亡くなった6年後、末の妹が裳着を見届けたあと父は急死した。


父はまるで自分が死ぬのが分かっていたようだった。

父の弟である叔父2人がサポートする万全の体制の中で俺は新たに城主になった。


妻を娶り、夫婦で花見をしながら酒を飲んでいたとき、酔って母の最期と父の薄情さを彼女に吐露した。他の女は悲劇だと泣いていたのに、妻は「うつけ者」と俺を怒り、往復びんたをかましてきた。月のない闇夜。灯篭の僅かな灯りと桜の白い花あかりが照らす怒れる妻の姿はやけに扇情的で、俺は襲い掛かるように押し倒し……まあ、これは今は関係ない。


屋外でことに及ばれた妻から『女の尊厳』について滾滾と説教され、俺は自分の未熟さを恥じた。その後も何度か妻とは外でことにおよんだから、改心したかどうかまでは分からないな。



話は逸れたが今世は幸せになってもらいたい二人。


二人とも何となく運命感じてるっぽいから上手くくっついてほしいと思うのだが……先行きは不安しかない。特に実花。今度こそ母ちゃんは俺が守らなきゃいけないなんて妙な使命感を俺が燃やしたせいで全く男慣れをしていない25歳。


「大ちゃん、この焼き鳥も食べたい」


俺に強請るな。

雪夜さんに強請れ。

その上目遣いは雪夜さんに向けろ。


「お前、雪夜さんにおすすめを教えてやれよ」

「……恥ずかしいから、大ちゃんが言ってよ」


…………育て方、間違えた!


いや、俺は親じゃないから育ててはいない……いや、俺か。両親は実花が16歳のときから海外を渡り歩いている。教育の責任はやっぱり俺か?



「すまん、雪夜さん」


短いスパンで女をポイ捨てしてそうなイケメンがこんなに熱い眼差しを向けているってのに、どうして気づかないのか。おい、こら、実花!


「いえ、見ているだけで楽しいので」


こっちもか!

見ているだけじゃダメなんだよ!

今世も口下手か!


27歳でしょう?

もっと積極的に押していこう?


俺が作った箱入りっぽいけど、実花の箱は積極的に壊さなきゃだめなんだよ。


この時代、授かり婚は珍しくないから。

実花、今世の父ちゃんの職業は大企業の課長さんだってさ。


その若さですごいことだよ、雪夜さん。

だからとっとと実花を娶って!


我が妹ながらいい女だと思うよ?

いい子だし、見た目も三国一の美姫と言われた雪月そのまんまだし。


ああ、戦国時代といまは美人の基準が違うって言うけどあれは嘘だね。


結局美人は美人なんだよ。

美白にお歯黒で細い眉、そんなのあとでどうにでもなるから。


そりゃあ山育ちだし、もうこれは農業じゃないかってくらい家庭菜園が趣味だから日焼けしているけど、元の肌は真っ白なんだよ。



「大将の天ぷら、おいしい」

「そう、おいしそう。実花さん、おすすめは?」

「山菜。いまの時期、タラの芽、おいしい」


片言か!


もう一時間こんな調子。

突っ込みのキレもなくなってきたよ。

いや、突っ込まなければいいんだけど突っ込みたくなるんだよ。



「うちは野菜の天ぷらもお薦めだよ。実花ちゃん、野菜作るの上手いから」

「家庭菜園?」


大将の言葉を受けた雪夜さんの質問に実花が頷く。


「野菜作るの、好きなの」


実花の上目遣いに、雪夜さんの喉から何かが絞められる音がした。


……なにこれ、高校生の放課後?

27歳と25歳……二人の前にはビールの大ジョッキが3つずつ。


よく飲むね、この二人。

そっちは初々しさがまったくないね。


「大樹、見てるこっちの背中が痒くなるんだが」

「分かる」


甘酸っぱいなあ、おい!、と叫びたい。


仕方がないから大将の肩を強く叩いておいた。

エブリスタのコンテストに応募した作品です。8000文字以下という制限でしたが、こちらは少々加筆して文字数が増えています。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。

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