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第67話 『星空のクリスマス(前編)』

 12月24日、今日は世界中の恋人達が色めき立つクリスマスイブ。


「「「メリークリスマス!」」」

 パンパーン! と複数のクラッカー音が響く中、おしゃれな衣装に身を包んだ男女が、一つの部屋にひしめき合う。

 これで素敵な彼氏でもいれば言う事なしだが、生憎とここ3年ほどは寂しい生活を送っているクリスマス。今年も沙雪と二人っきりのイブかと思いきや、綾乃と卯月ちゃんが我が家を見たいという事で、突如決定しちゃったクリスマスパーティー。

 どうせならばと、日頃からお世話になっているメンバーに声を掛け、思いのほか大人数のパーティーとなってしまった。


 現在我が家には私と沙雪のほか、蓮也を含むAinselのメンバー5人に、聖羅達Girlishの4人、芸放からは親友代表として、無理矢理連れて来られた鈴華と、ただお酒が飲みたいだけの佐伯さん、そして私の活動再開で大変お世話になった、Dean musicの五十嵐さんを招いている。

 因みにみちる達Shu♡Shuのメンバーにも声を掛けたが、生憎とクリスマス特番の生放送があるとかで、泣く泣くお断りされてしまった。


「まったく、みんな有名になったからって、結局恋人がいない寂しい生活を送ってるんじゃない」

 うんうん、決して私だけ寂しい青春を送っているんじゃないと言い聞かせるように、独り言のようにつぶやく。


「お姉ちゃん、自分に恋人がいないからって、そのセリフはどうかと思うよ」

 なにやら妹に正論を諭されてしまうが、今日の私はそんな程度じゃへこたれない。

 なんといってもおなじ仲間がこんなにもいるのだ、類は友を呼ぶというが、これほど晴れ晴れした気分はそうそう味わえないだろう。

 決して日ごろのお礼を理由に、蓮也とクリパがしたかったわけでないと伝えておく。


 うんうん、私はなにも間違っていない。

 

 必死に自分に言い訳をするが、そんな姉妹のやり取りが耳に入ったのか、Ainselのメンバーでもある次郎さんが皆の前でぼそっと一言、「たぶん雪兎と神代さんは付き合ってる」と爆弾発言。

 その言葉を聞いた瞬間…

「「「「なっ、なんだってーーー!!」」」」

 当の本人達と次郞さんを除く全員が驚きの声を上げる。


 ちょっ、聖羅と雪兎さんが付き合ってるって、聞いてないんだけど!?


「その…、報告しようとは思っていたのよ。でも中々言い出せなくて…」

 聞けば、お付き合いが始まったのは最近らしく、それまではLINEや電話でのやり取りで、徐々に二人の仲を進展させていったのだという。

 聖羅曰く、SNSで活動を広げるにあたり、Ainselのリーダーでもある雪兎さんに、いろいろ相談に乗ってもらっているんだとか。

 私ではなくなぜ雪兎さんなのかは、聖羅なりの気遣いと、女性特有の甘い恋心からだとご理解頂きたい。


「まったく隅に置けないわね。いつの間にそんな仲にまで進展させていたのよ」

「そ、そう言うんじゃないわよ。ただ、いろいろ相談に乗ってもらっているうちに、その…好きになっていたというか…ごにょごにょ…」

 聖羅も乙女だなぁ。

 普段は綾乃達をまとめる為に、クールな姿を見せているが、今の聖羅は頬を染めながら、恋する女性へと姿を変えてしまっている。

 雪兎さんの方もどうやら同じようで、今は晃さん達にすっかりからかわれてしまっている。


 あーあ、聖羅に先を越されてしまったなぁ。

 少し蓮也の様子が気になり、チラッとあちら側を見てみると、運が良いのか悪いのか、偶然視線が重なってしまう。

 慌てて二人揃って顔をそらすが、その瞬間を聖羅に見られてしまい…

「待っているだけじゃ進展しないわよ。もっと自分の方から攻めないと」

 耳元で囁く聖羅の声が、私の頬をますます桃色へと染め上げる。


 分かっている。言われなくても分かっているんだけど、それが出来ないから困っているのよぉぉ!


「そういや、なんで次郎だけは知ってたんだよ」

 私が一人悶絶していると、晃さんが疑問に思った事を口にする。

 それもそうね、今の驚きようでは他のAinselのメンバーも知らなかった様子、それなのに次郞さんだけ知っていたというのも気になるところだ。

 全員の視線が次郎さんに集まる中、次郎さんは若干呆れ気味にこう口にする。


「お前ら鈍すぎ、二人の様子を見てたら分かるだろう」

 恐らくこの場にいる全員が心の中で叫んだはずだ、『『『全然わかんなかったんですが!』』』と。


「コホン…、聖羅、改めておめでとう。末永くお幸せに」

「沙耶、流石にそれはちょっと早い」

 改めてお祝いの言葉を送るも、なぜか聖羅から真顔で返されてしまう。


「それにしても沙耶ちゃん家って、でかいなぁ。前に住んでいたところも広かったけど、ここは何て言うか、セレブ感がハンパねぇ」

 晃さん達は以前暮らしていた家にお招きした事がある。

 確かに前に暮らしていたマンションと比べると、部屋の広さも大きさも一回り大きくはなっているが、やはり大きく異なる点はその階層の高さだろう。

 周りには当然マンションや商業施設が多々あるが、それらをゆうに見下ろすだけの高さで、眼前に広がる景色は東京湾まで見渡せる。流石に富士山までは見えないが、それでも景色が最高なのは間違い無い。


「マンションの1階にはコンシェルジュさんがいたもんね」

「高いマンションに引っ越ししたとは聞いてたけど、まさかこれ程だとは思わなかったわ」

 綾乃や聖羅達には、セキュリティの面から引っ越ししたとは伝えたが、そのお値段までは教えていない。

 流石にペラペラと話していいものではないし、私と聖羅達では契約内容も異なるので、金銭面に関してはお互い触れないように心掛けている。

 若干鈴華の視線が痛いが…。


「にしてもすごいメンバーね、今年注目のアーティストが勢揃いじゃない」

 私の隣にやってきた鈴華が、リビングに集まるメンバーを見渡しながら話しかけてくる。

「AinselもGirlishも、今年後半にかけて注目を浴びていたからね」

 Ainselは今年の紅白出場が決まっているし、来年の春に公開予定の映画で、ゲストとして出演することが先日発表されたばかり。

 Girlishもデビュー曲以降、その人気度は継続されており、先月発売されたオリジナル曲『Secret Girl』が、初週売上1位を獲得した。

 どうやら私が夏のコンサートで歌ったことが話題となり、Kne musicに問い合わせのメールや電話が殺到していたらしい。


「なに自分は含まれないような言い方をしてるのよ、この中で一番注目を浴びているのはあなたでしょ」

「私? 私は最近曲を出せていないからなぁ」

「この前Shu♡Shuに曲を提供していたじゃない」

「それはまぁ、そうなんだけど」

 先日発売されたShu♡Shuの5枚目のシングル『ゆきだるま』。

 私が忙しいという事で、なぜか1枚飛ばしで依頼が来るようになり、現在はShu♡Shuの初のアルバム制作の為に、新しい曲を書いている。


 そんなこんなで、結局White Albumと星屑のロンドを発表して以降、SASHYAとしての曲はリリースできていなかったりする。


「来年は自分の曲を出すんでしょ?」

「それはもちろん。Shu♡Shuの方は何とか目処がついたから、次は自分の曲を作るつもりなんだけど、先にアルバムの方を進めるように言われててね。シングルも9枚になったから、そろそろベストも考えてほしいって」

「あー、ベストアルバムね」

 現在2枚目のアルバムまでに収録されているのは、今年の春に出した『はじまりの歌』まで。

 『Happy(ハッピー) Summer(サマー) Time(タイム)』からの3曲は、まだアルバムには収録されていないので、先にこちらを進めて、その後にベストアルバムを出す方が、会社の売り上げ的にはいいらしい。


「会社の意向なら仕方ないわね」

 アーティストによってはベストアルバムは出さない、っていう人もいるらしいが、生憎と私はベストアルバムを推奨する派。

 別に私がする仕事がほとんどないから、という訳ではなく、買う立場から考えると、これほどお得感を感じることも少ないだろう。

 決して利益目的ではないとだけ伝えておく。




「ん~~、少し食べ過ぎたなぁ」

 しゃべり疲れとお料理の食べ過ぎを紛らわすため、一人外の空気を吸うためにテラスへと向かう。

 我が家のテラスは普通のマンションとは異なり、ちょっとしたバーベキューでも出来そうなほど広めに作られている。

 私は愛用のもこもこジャケットを羽織り、テラスへと出ると、そこには缶ビールを片手に夜景を見つめる先客がいた。


「雨宮さんも休憩?」

「はい、ちょっと食べ過ぎちゃって」

「ふふ、アイドルは体型維持も大事だしね」

 えっと、五十嵐さんまで私をアイドル扱い?

 とりあえずアイドルじゃないと否定しながら、今日来て下さったお礼を口にする。


「いいのよ、私の方こそ誘って貰ってありがとう」

 五十嵐さんにはfriend'sの版権で大変お世話になった。

 今日はそのお礼も兼ねてお招きしたのだが、呼んだメンバーの年齢層が悪かった。

 私たちアーティスト組は、言わずと知れた未成年。全員お酒を飲むどころか、お店で買うことも叶わぬ年齢。

 一方お酒が目的の我らがマネージャーは、一人で飲むのが寂しかったのか、はたまた酒癖の悪さからなのは分からないが、ゲストで招いた五十嵐さんが標的になってしまった。

 今もリビングでは酒瓶を片手に、卯月ちゃんが捕まってしまっている。


「その…、佐伯さんの相手をしてもらうために呼んだようで、なんだかすみません」

「香のアレは病気のようなものよ。これでも付き合いは長いから、もう慣れているわ」

 五十嵐さんはそう言いながら、どこか寂しそうな表情でリビングの方を眺める。

 私は佐伯さんと五十嵐さんとの関係をほとんど知らない。ただ印象だけで言うと、佐伯さんは五十嵐さんに対して嫌悪感をもっており、五十嵐さんもまた佐伯さんに対して、あまりいい感情を向けてはいない。

 それなのにさっきまで一緒に飲んでいたから、ますます二人の関係が読めないのだ。

 

「悪かったわね、一樹君のこと。守ってあげられなくて」

 恐らくそれは、一樹を切り捨てた事を言っているのだろう。

 ただあの場合、こちら側にも原因があるわけだし、騒ぎを大きくしたのも本人なので、五十嵐さんが責任を感じる必要はないだろう。


「あれは自業自得ですよ。むしろSnow rainを残してもらっただけでも、お礼を言いたいくらいです」

「そう…、そう言ってもらえるだけで、頑張った甲斐があったわね」

 たぶんSnow rainを残すために、五十嵐さんは苦労したのだろう。

 もともとデビュー曲以降は鳴かず飛ばずの状態で、メンバーの半数が入れ替わったのだ。

 ネット上では解散説も囁かれていたというし、顔役のボーカルがいなくなれば、それはもうバンドとして体を成していないと言えるだろう。


「薄々は気づいていたのよ…」

 五十嵐さんはそうつぶやくと、少し間を開けて心の中で感じていた事を教えてくださる。


「デビュー以来一樹君は曲を作る気配を見せないし、聖羅さん達は出会った頃のような、生き生きとした感じを失っているしで、マネージャーの私がこの子達を支えないと思って頑張って来たんだけど、結局ダメになってしまった」

 五十嵐さんは五十嵐さんなりに色々悩まれたのだろう。

 相手は右も左も分からない中学生バンド。扱い一つでダイヤモンドにも、道ばたに転がる小石にもなる原石の状態。

 ただでさえ一発屋と呼ばれる、バンドやアーティストが多くいる時代なので、マネージャーの手腕が問われたに違いない。

 ただ不運だったのが、支える相手が嘘をついていたと言うだけ。


「その…、真実を伝えられなくてごめんなさい」

「いいのよ、もう…。香から聞いたけど、雨宮さんも大変だったんでしょ?」

「……はい」

 佐伯さんには当時の状況を伝えてある。恐らく私に非難が向かないよう、事前にあちら側に伝えてくださったのだろう。


「知ってた? わたし雨宮さん…、いえ、VtuberのSASHYAにDMを送っていたのよ、勧誘のね」

「えっ、そうなんですか?」

「やっぱり、気づいていなかったのね」

 五十嵐さんはそう言うと、笑いながら当時の状況を教えてくれる。


「ある時、SNSでSASHYAの話題が流れて来てね。初めて曲を聴いた時、friend'sの時と同じように、思わず泣いてしまったわ」

 それは私に対してか、Snow rainに対してかは分からないが、何かを懐かしむような表情をされる。


「それでDMを?」

「えぇ、すぐに勧誘の連絡を送ったけど、返事は返ってこなかったわ」

「それはその…、本当にごめんなさい」

 当時は怪しいDMが山のように送られてきて、大半は件名だけ見て、ゴミ箱のフォルダへと移動させていた。

 それを考えると、佐伯さんとの出会いは奇跡のようなものだったと感じてしまう。


「ふふ、そんな事だろうと思っていたわ」

 五十嵐さんは私の説明を聞くと、笑いながらこう続けられる。

「こんな仕事をしているとね、時々思うの。出会いって言うのは、出会うべくして出会うんだってね。たぶん雨宮さんは、香と出会う運命だったよ」

「運命…ですか?」

「えぇ、自分でも非現実的だとは思うわ。だけどSASHYAがここまで人気になったのは、そばで香が支えていたから。もしそれが私だったら、今頃どうなっていたかわからないもの」

 それは前から私も感じていたこと。

 もし佐伯さん以外の勧誘に応じていたら、もしマネージャーが佐伯さんでなければ、私はここまで人気のアーティストにはなれなかった。

 SASHYAが歌姫と言われるまでになれたのは、間違い無く佐伯さんというマネージャーが支えてくれたからだと思っている。


「私もそう思います」

 五十嵐さんは怒るわけでもなく、笑うわけでもなく、ただ悲しそうに微笑みかけてくれる。


 また、五十嵐さんは佐伯さんの事となると、時々この様な表情をされる時がある。

 それはまるでかつての私と綾乃のような、悲しく苦しみの中にいるみたいに…。


「あの…、この様な事を聞いていいのかわからないんですが、五十嵐さんは佐伯さんとどんな関係なんですか?」

 五十嵐さんは私の質問を聞くと、少し迷った様に質問を返される。

「香からはなにも?」

「はい、なんだか聞いたらダメなような気がして」

 ならば五十嵐さんならいいのか、と問われそうだが、今なら二人っきりだし、聞いてもいいような気がして、思い切って尋ねてみた。


「あの子、本当に何も言っていないのね」

 呆れた、とでも言うように、五十嵐さんは大きなため息を一つ。

「香とは同じバンド仲間だったのよ」

「バンドですか? それってメジャーの?」

「ふふ、残念だけどメジャーデビューは出来なかったわね」

 五十嵐さんはそう言うと、過去の出来事を教えてくれる。

「香がベースで私がボーカル、合計5人組のバンドだった。これでも地元の地域では結構有名だったのよ? メジャーデビューの話もあって、これからだ! って時に…ダメになっちゃった」

 最後の言葉を口にすると、五十嵐さんは寂しそうな表情を浮かべ、夜空を見上げる。

 まるで過去の自分を責めるような…。


「知ってた? 私の父親ってDean musicの社長なのよ」

「えっ! そうなんですか!?」

「まあ父親って言っても、義理の…なんだけどね」

 ポツリポツリと語られる過去の出来事。

 五十嵐さんは「つまらない話だけど聞いてくれる?」と前置きしながら語り出す。

 それは私が知らない2人の物語だった。。


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