表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/58

第41話 『Mステ(後半)』

「それでは間もなく本番始まります」

 ADさんの案内でスタジオ内に流れるMステの定番曲。

 バックヤードに用意されたモニターには、司会者の男性と女性アナウンサーが映し出され、番組開始の挨拶が行われている。


「こんばんわ、モリタです。今夜は凄いゲストお向かえしております」

「デビューよりずっと謎のベールに包まれてきた、あの歌姫の登場ですね」

「聞けば番組側から何度もオファーを出していたらしいね」

「そうなんです。それがようやく実現した形となります」

 オープニングトークと言うものなのだろう、司会者と女性アナウンサーが今夜登場するゲストを臭わす。

 実際のところ、今日の新聞のテレビ欄にも私の名前が書かれていたし、SASHYAの公式HPにも今日の出演は告知されているので、そこまで引っ張らなくてもいいじゃないとかと思うのだが、番組側としてもやはり強調したい部分なのだろう。


「それでは登場です」

 スタジオ内に流れる私の新曲と共に、ひな壇の上から慎重に階段を降りていく。

「幻の歌姫、SASHYAさん。今夜Mステ初登場です」

 抽選で選ばれた観客から拍手を受け、司会者の隣へと歩いて行く。

「続いてアイドルプロジェクトから誕生した新グループShu♡Shu、今夜のゲストでもあるSASHYAさんが、デビュー曲を手がけた事でも話題になっています」

 Shu♡Shuのメンバーが会釈をしながら私の横へと付く。さらに続く出演者の方々。


「こちらも初登場、『Sister's(シスターズ)』のお二人です」

 先ほど控え室で挨拶は交わしたが、どうやら今夜は初出場のグループが多いらしい。

 Sister'sと呼ばれた女性二人組は、そのまま私の隣…Shu♡Shu達がいる反対側の位置へとつく。

 今夜出演するグループは全部で7組。そのうち初出場が4組で、残り3組は何かしらの曲でデビューされている方々。その中でソロのミュージシャンは私を含めた3人のみ。


「今夜は初の出演者が多いねぇ。その中でもSASHYAさん、なんだか初めましての気が全然しないんだけど」

「そうですか? 私はモリタさんとお話させていただくだけでも、すごく緊張しています」

「SASHYAさんは3月のデビュー以来、常にランキングに名前が掲載されていましたからね。恐らくその影響かと」

 リハーサル通り、司会者の男性が積極的に私に話題を振り、女性アナウンサーの方が補足を加える。

 多少やらせ感は拭えないが、放送事故を防ぐためと考えれば仕方がない処置だろう。


「SASHYAのその衣装はジャケットのイラストそのものだね」

「すみません、こんな姿とマスク姿で」

「いやいや、かわいらしいよ。今度ドーム公演をするんだって?」

「そうなんです。今日はその辺りも宣伝させて頂きたくて」

「それは楽しみだ」

「SASHYAさんにはその辺りの事ものちほど詳しくお伺いしましょう」

 オープニングトークは時間との闘い。まだまだ話し足りないが、私ばかりが独占するわけにはいかず、切りが良さそうなところで女性アナウンサーが言葉を挟み、トークは隣にいるShu♡Shuへと変わっていく。


「こちらも初登場、Shu♡Shuのみなさんです」

「「「よろしくおねがいします!」」」

「元気が良いね。SASHYAとも仲がいいんだってね」

「はい、楽曲を提供して頂いた事を切っ掛けに仲良くなりまして」

 Shu♡Shuを代表して、澪が司会者の質問に答える。


「SASHYAは何でも熟すね」

「私は映像に映るのが初めてなんで、Shu♡Shuの皆には色々助けて頂いています」

「Shu♡Shuはテレビ慣れしていそうだもんね」

「そんな事ありませんよ、私達もめちゃめちゃ緊張しています」

 番組側の配慮なのだろう、Shu♡Shuに話をする過程でも、私を絡めようとしてくださる。

 実際Shu♡Shuのメンバーとは、全員歳が近いと言う事もあり、連絡先を交換するほどには仲が良い。今はお互い忙しいので、オフで会えたりはしていないが、いつか皆で遊びにいければとさえ思っている。


「続いてSister'sのお二人。こちらも初登場って事だけど」

「Sister'sのお二人は実の姉妹との事です」

 オープニングトークはそのまま続き、3番目に紹介されたのは女性二人組のユニット、『Sister's』。女性アナウンサーが司会者の言葉に説明を補足する。

「もしかして双子なの?」

「「そうなんです」」

 一卵性の双子なのか、容姿どころか息もピッタリ。年齢は少し判断が付きにくいが、恐らく年上の方なのだろう。どこか落ち着いた風にも見える。


「先ほどSASHYAさんが楽屋まで挨拶に来て下さって」

「素顔のSASHYAさん、凄く可愛かったです」

 リハーサル通りとは言え、こうも正面から言われると、照れるを通り越して恥ずかしくなってしまう。


「挨拶なら私の所にも来てくれたよ、若いの礼儀正しいよね」

「お話の途中申し訳ございませんが、Sister'sのお二人にはスタンバイの方をお願いします」

 思いのほかトークに時間がかかってしまったのか、目の前のADさんがスタンバイを急がせるカンペを見せてくる。


 その後Sister'sは笑顔でスタンバイへと向い、番組はそのままオープニングトークが続く。そして準備が整ったタイミングで、モニターには演奏を始めるSister'sの姿が映し出され、私たちはその間用意されたひな壇へと移動。やがてSister'sの歌がおわり、番組は一旦CMへと切り替わった。


「Sister'sの皆さんありがとうございました」

 CMが開け、画面にはひな壇に座った私達が映し出される。


「改めまして今夜のゲスト、まずはSASHYAです」

「こんばんわ、本日はよろしくお願いします」

 今夜の放送のメインは、間違い無く私。

 他のゲストの事を考えると、何とも申し訳ない気持ちにはなるのだが、番組あってこその私達なので、ここはプロとして現状を受け入れさせていただく。


「一つ聞きたいのだけれど、その衣装とマスクは自前なの?」

「いえ、衣装はドーム公演用に作って頂いたもので、このマスクはマネージャーさんに用意していただいたんです」

「へー、マネージャーさんに。やぱっぱり素顔を隠す為に?」

「そうですね、それもありますが、SASHYAのイメージを壊したく無いのと、学業を優先させたいって理由が一番ですね」

 番組側には事前にこの姿とマスクの事は伝えて有る。司会者の方もその辺りを知った上で、不自然にならないよう話を振ってくださっているのだ。


「そういえば、まだ学生さんなんだって?」

「はい、今高校生です」

「高校生!? いやー若いね」

「SASHYAさんは中学生の時にVtubで話題になり、その後Kne musicの方からデビューされました」

 司会者の方が積極に質問を投げかけられ、足りない部分を女性アナウンサーの方が補足を加える。

 番組側は視聴率を気にされている関係、出来るだけ私の情報を表に出そうとされているのだろう。

 事前にトーク内容の確認や、NGワードなどはお伝えしているので、私としては安心して受け答えが出来ている。


「高校生でもうドーム公演なんて、ホント凄いね」

「そうなんです。これも応援してくださる皆さんのおかげで」

「チケットは明後日から発売なんだっけ?」

「はい。ファンクラブ用の先行予約は始まっているんですが、明後日から一般席の販売が始まるので、今日はその宣伝も出来たらと」

「ははは、SASHYAならすぐに完売するんじゃない?」

「だといいんですけど…、皆さんぜひ買ってください!」

 今日の出演目的はドームチケットのPR。ここまで言っておけば、本日のお仕事はほぼ達成できたと言ってもいいだろう。

 その後も出演者の方を交え、トークと歌とを繰り返しながら、番組は中盤へと差し掛かる。


「続いて週間ランキングに移りたいと思います。まずは10位から4位まで一気にご覧ください」

 女性アナウンサーの案内で、モニターには10位から4位のランキングが写し出され、ランクインされた出演者には拍手が送られる。

 そしてそのまま3位の発表。


「3位はSister's、『マリオネット・ドール』」

 モニターにはSister'sの二人が映しだされ、全員から拍手が送られる。

「デビュー曲で3位とは凄いね」

「「ありがとうございます」」

 司会者の言葉に、笑顔で対応するSister'sの二人。

 私は始めて二人の曲を聞いたが、私とはまた違う音色の曲で、機会があれば曲作りの事でいろいろ話したいと思ったほど。

 ただコミュ障の私には少々敷居が高いのが難点だが…。


「Sister'sの二人、おめでとうございます。では続いて2位の発表です」

 女性アナウンサーの方がSister'sにお祝いの言葉を掛けつつ、、モニターには2位の結果が映しだされる。


「2位はSASHYAさんのローズマリー、先週からワンランクダウンです」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「こちらはアニメ、『ローズマリーへようこそ』の主題歌としても話題の曲です」

 出演者の方々から拍手を送られ、お礼の為に軽く会釈を返す。

 ローズマリーは発売から2週間以上経過しているので、2位という結果に別段悔しいという気持ちは沸かない。


「では最後に1位の発表です」

 ミュージックと共にモニターに映し出されるShu♡Shuの名前、喜ぶメンバー達に、私を含め出演者達から拍手が送られる。

「1位を取りましたShu♡Shuさんの『きらら』ですが、こちらはSASHYAさんから楽曲提供された事でも話題となりました」


「Shu♡Shuの皆さん、おめでとうございます」

「「「ありがとうございます」」」

 モニターにShu♡Shuのメンバーが映しだされる。


「Shu♡Shuは番組の企画で生まれたんだって?」

「そうなんです。『アイドルプロジェクト』という番組から生まれました」

「Shu♡Shuさんは総勢20万人というオーディションから、最終選考を勝ち残り、最後は視聴者投票で選ばれたアイドルグループです」

「20万人!? 凄い人数だね」

 司会者の方が20万人という数字を取り上げ、Shu♡Shuの誕生秘話を盛り上げる。

 改めて思うが、みちるも澪も、ホント凄い人数を勝ち残ったのだと改めて感じてしまう。


「聞いた話じゃ、SASHYAがこっそり潜入して、歌詞を書いたってはなしだけど、本当なの?」

「本当です。最初は会社の研修生って聞いてたんですが、後で聞かされて皆で驚いたんです」

「なんでまたそんな事を?」

「えっと、私が曲や歌詞を作るときって、歌う人達の事を一番に考えるんです。だから無理を言って練習中の現場に立ち会わせて頂いて。お陰で皆と仲良くなれました」

 アイドルプロジェクトの番組を見ていれば分かる内容だが、敢えて知らない人向けへの配慮なのだろう。

 この後Shu♡Shuは女性アナウンサーの案内でスタンバイへと向かい、モニターには三度私の姿が写し出される。


「それにしても凄いねSASHYAは、1位2位を独占だからね」

「いえ、私は彼女達が頑張っていたのを見ていましたので、1位を取られたのは皆が頑張った結果です」

 別に偽善者を装うつもりはないが、みちる達が頑張っていた姿は目にしているので、1位を取ったのは間違い無く彼女達の努力の結果。

 そうで無ければただ曲が良いからと言って、簡単に1位など取れる分けもないだろう。


「それではShu♡Shuのデビュー曲でもある『きらら』、そしてSASHYAさんにはこの後特別ステージにて歌っていただきます」

 番組にはShu♡Shuの前奏が流れ始める。

 私は画面が切り変わったタイミングで一旦スタジオを抜け、別の部屋に用意されたステージへと向かう。


 ホント何から何まで特別扱いをされて、何だかいたたまれない気持ちに晒されてしまう。

 本当はあのままShu♡Shuの曲を聴いていたいのだが、放送時間の都合上、ステージの切り替えが間に合わないそうで、私だけ別の部屋でセットが組まれてしまった。


「では間もなく始まります」

 ADさんの案内でスタンバイへと付く。

 用意されたモニターには番組自体が映し出されており、女性アナウンサーが、丁度私の紹介をしている様子が流されている。


『ではいよいよSASHYAさんに歌って頂きます。曲はアニメの主題歌でもある『ローズマリー』、そしてSASHYAさんの代表曲でもある『Jewel (ジュエル)the() Heart(ハート)ー 心の宝石 ー』、2曲続けてどうぞ』

 スタジオ内に流れ出す前奏、数台のカメラが角度を変えながら私を捉え、背後のモニターには特別に編集されたアニメの映像が流れ出す。


「貴方がいるこの世界で 二人が出会えたのは偶然なんかじゃない 少しほんの少しづつ 積み重なった奇跡の結晶…」

 この歌は一人の少女が異世界で懸命に生きる愛の賛歌。両親を失い、暮らしていた屋敷を奪われ、家族同然の使用人達とも別れてしまう。

 けれども少女は生きることを投げ出さなかった。懸命に生き、前世の知識を頼りにスィーツショップを始める。やがて少女の元には嘗て別れた人達が集い、そして一人の男性と恋に落ちる…。


『ありがとうございました』

 モニターを通して聞こえる拍手の喝采。

 このあと最後の出演者の演奏中に私はスタジオへと戻り、エンディングではShu♡Shuメンバーと一緒に手を振る仕草で幕を閉じる。


 そして翌朝のニュースにはこう流れるのだった、仮面の歌姫SASHYAと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ