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第39話 『ドーム公演への道』

 二学期が始まり半月程が過ぎた。


「Mステですか?」

 お昼休み、佐伯さんからのLINEで急ぎ電話が欲しいとメッセージを受け、人気の少ない場所で連絡を取る。

 そこで出てきたのがMステ、ミュージック・ステーションズの出演オファーだった。


『そう、来月から一般向けのチケットが発売されるでしょ? その宣伝も兼ねて出演させてはどうかって』

 佐伯さんが言うには来月『Shu♡Shu』の初出演が決まっており、番組側から私も一緒に出てくれないかと、出演のオファーがあったらしい。

 会社としてもドームツアーを成功させるため、チケットの販売には力を入れており、宣伝をするには丁度いいタイミングだと言う事で、私の出演を強く押してきた。


 うーん、テレビの出演かぁ。以前の私なら速攻で断っていただろうが、SASHYAとして活動を始めてからは、多くの人達に支えられている事を実感した。

 今回のドーム公演だって、私の知らないところで今も大勢の人達が頑張っているのだ、ここで協力しなければ支えてくれている人達に顔向けが出来ない。


「…分かりました。お受けします」

 SASHYAとして変装(コスプレ)すれば、早々気づかれる事もないだろうし、『Shu♡Shu』のメンバーと一緒に出演出来るのも心強い。

 どうせアイドルプロジェクトで一度テレビに映っているのだ、今更尻込みしていたらドーム公演なんて出来ないだろう。


『それじゃ出演の返事をしておくわ。詳しい詳細はまた今度話しましょ』

 佐伯さんはそう言うと通話を終了する。

 私は高鳴る気持ちを抑え、みちる達が待つ教室へと戻る。




「沙耶、何の話だったの?」

「Mステの出演が決まっちゃった」

 ぶふーっ

 みちるの質問に答えると、何故か鈴華が驚きを示す。


「Mステって生放送の番組じゃない、出ても大丈夫なの?」

 鈴華が言うとおり、Mステは生放送番組。後でモザイクを掛けたりすることも出来ないし、シルエットやスモークで姿を隠すような出演もほぼ不可能。そもそも純粋な音楽番組なので、私だけが特別扱いと言うわけにはいかない。


「一応、こんな感じで出演する予定なんだけど」

 そう言いながら、私は以前試しにSASHYAのコスプレをした写真を見せる。

「なにこれ、可愛い!」

「これ沙耶なの? まんまSASHYAじゃない」

 スマホに映る写真を見るなり、みちるは可愛いと盛り上がり、鈴華は私とスマホの画面を交互に眺めながめてくる。


「メイクさんが言うには市販のもので出来るのはここまでらしく、実際にはウィッグや小物なかも特注で作ってくれてるらしいの」

 写真の姿はただの私服だが、ここに衣装やなんやと揃えれば、よりSASHYAのキャラに近づくんだとか。

 ウィッグや衣装もMステの出演日には間に合うらしいので、晴れて完成番リアルSASHYAのお披露目となる。


「それでいつ出演なの?」

「来月の初めかな、同じ日に『Shu♡Shu』も出演するらしいから、ちょっと安心なのよ」

「そうなの!?」

 突然の共演に、驚きを見せるみちる。

 私もさっき聞かされたばかりなので知らないのも当然だろう。

 正直初の生出演に内心ビクビクものだが、知り合いがいると言うだけで何とも心強い。『Shu♡Shu』のメンバーとは全員顔見知りだし、LINEで連絡を取り合ったりもしているので、お互い励まし合いながら頑張ればいいだろう。


「沙耶と一緒に出演かぁ、両方Mステ初出場だし、お揃いでちょっと嬉しいかも!」

 どうやらみちるも私と同じようで、一緒に出れる事を喜んでくれるも、そこへすかさず鈴華の警告がはいる。

「忘れてるようだけど、沙耶はあの『SASHYA』よ。同じ初出場だったとしても、番組ごと全部持って行かれるわよ」

 いやいや、そんな事はしませんって。

 Mステの打ち合わせ自体まだ何も決まっていないが、他の共演者の人もいるのだ、多少の注目度はあれ、番組をジャックする気など毛頭無い。


「ついつい忘れちゃうけど、沙耶ってSASHYAなんだよね…、うん、分かってるんだけど…」

 人を化け物みたいに呼ばなくても。

「私はただのソロミュージシャンよ。寧ろオーディションを勝ち抜いたみちるの方が凄いと思うわ」

 デビューして半年ほどにはなるが、まだまだ新人の域を出ない新参者。

 私は運良く佐伯さんに見つけて貰えたが、自分の実力のみでオーディションを勝ち残ったみちるの方が何倍も凄い。


「そ、そうかなぁ。えへへ」

 私の言葉で少し気分をよくしてくれたのか、みちるが嬉しそうの微笑みだす。


「全く…、でも確かにみちるも凄いわ。そこは自信を持ってもいいと思う。だけどSASHYAは間違い無く一流のアーティストよ、そこだけはちゃんと自覚しなさい」

 他人を気遣い、その努力や結果を素直に賞賛できるのは、鈴華の良いところなのだろう。

 私は素直に彼女の言葉を受取り、改めて自分が置かれている状況を認識する。


「後は当日のランキングにも注目されるでしょうね。なんと言っても『SASHYA』の新曲と、『Shu♡Shu』デビュー曲の発売が近いんだから」

 Mステと言う事は、当然番組内で週間ランキングが公表される。

 私はどちらかというと、出演者の隙間に割り込んだ形となるため、CDの発売から考えると2週間あと。逆に『Shu♡Shu』はデビューに会わせた出演の為、単純に考えると『Shu♡Shu』の方に軍配が上がる。

 ただ別に勝負をしているわけでもないので、正直ランキングの結果には興味がないのが実情だ。


「沙耶の新曲は明日だっけ?」

「そう、アニメの方はもう放送されてるみたいだけど」

 今回の新曲はアニメの主題歌に使われており、評判の方もいいとは聞いている。

「さしずめ『ローズマリー』VS『きらら』ってところね」

 いやいや、なんで勝負前提で話を進めているのよ。そもそも両方私の曲なんだから意味ないでしょ。


「それにしてもまたテレビ出演なんて、一体どんな心境の変化があったのよ」

 一通りおちょくりが終わったのか、今度は出演自体の話に変わっていく。

 鈴華にしてみれば私がSASHYAだと知ったのも最近だし、今までもテレビの取材を受けたことがあっても、顔出しは一切してこなかったので疑問に思ったのだろう。

 それがいきなりMステの出演となれば当然な筈だ。


「知ってるとは思うんだけど、ドーム公演の一般チケットがもうすぐ発売されるのよ、その宣伝も兼ねて出なさいって」

「あー、それは頑張らないと行けないわね」

 既にファンクラブ会員での先行予約は始まっているが、チケットの数を限定している事もあり、現在は全体の約20%ほどしか席が埋まっていない。


「でも沙耶の人気ならすぐに埋まるんじゃないの?」

 3人の中で状況が分かっていなみちるが疑問を投げかける。

「甘いわよ、ドームのキャパって約8万人なのよ。あの日本武道館でさえ1万4千人ほどだというのに、それを3日間続けるんだらか、単純に計算すると24万人も集めないといけないの。それがどれだけ凄いことか分かるでしょ?」

「に…24万人…」

 実際同じ人が3日間来てくれたり、友人同士でチケットを購入してくれる人もいるので、純粋な数字ではないとは思うが、かなりのチケットを売らないと最悪赤字となってしまう。


「しかしいきなりドームとは、相変わらず凄いことするわよね」

「成り行きでOKしちゃったんだけど、どうやら場所が空いてなかったらしいのよ」

 佐伯さんが言うにはコンサートなどを行う場合、1年ほど前から場所の予約をし、そこから順番に準備を始めていくらしいのだが、私の場合はデビューから1年も経たないうちに人気が出てしまい、ファンクラブの人数も既に10万人を突破、各方面からもコンサートはまだかという声が出て来てしまい、会社としても悩んだ末にドーム公演に踏み切ったらしい。


「あぁー、だからドームなのね」

「どういうこと?」

 どうやら鈴華は理解してくれたようだが、みちるは何の事かまるで分からない様子。

 そんなみちるのために鈴華が説明してくれる。


「ドームってね、予約出来るのが半年前からなのよ」

 どういう理屈なのかは分からないが、元々の使用目的がプロ野球な為、

一般で予約出来るのが半年前からと決まっているらしい。

 そのお陰でドームの予約が取れた分けだが、逆に言うとここしか空いていなかったと言う意味の方が遥かに大きい。


「私としてはもっと小さなライブ会場でもよかったんだけど、SASHYAの初ライブがそんな小さな会場でどうするんだって怒られちゃって」

「当たり前でしょ、SASHYAがキャパの小さな会場なんかでやってみなさい、入りきれないファン達が会場の外まであふれ出して、大混乱になるわよ」

 流石にそれは…。

 でも鈴華が言うのなら、近しい事にはなるのかもしれない。


「そういえば『Shu♡Shu』はもうライブしたんだっけ?」

 ふと思いだし、みちるにライブの事を尋ねる。

 『Shu♡Shu』は番組の企画アイドルと言う事もあり、デビューに向けてライブとトークショーを行ったのだと聞いている。

 その事を尋ねて見たのだが…


「沙耶…、何度も言うけど幕張メッセとドームとじゃ規模が全然違うわよ」

「うん。それにライブって言っても歌ったのは1曲だけだし、あとはただのトークショーと握手会だけだよ? 使った会場もイベントホールだけだし、入場料も取ってなかったから、参考にはならないと思うなぁ」

 どうやら番組の収録と宣伝が目的だったらしく、採算を度外視したお披露目会だったらしい。


「うぅ、大丈夫かなぁ」

 比べるものがないとわかると急に不安な気持ちにかられてしまう。

 会社としてはある程度勝算があると考えてるみたいだけど、ステージを組んだり衣装を用意したりと、掛かる経費は相当なものらしく、やはり利益を出さないと行けないとも聞いている。

 これで半分しか席が埋まりませんでした、では私も佐伯さんも肩身が狭い思いをすることだろう。


「まぁ、何とかなるでしょ。SASHYAは普通のアーティストじゃないんから自信を持ちなさい」

「そ、そうかなぁ」

「そうそう、私も応援しているから」

 二人に励まされ少しだけ不安な気持ちが和らぐ。

 まだ一般のチケットは販売されていないんだ。今から尻込みしていたらドーム公演なんて出来ないだろう。

 親友達の応援もあるのだから、頑張れる事は頑張っていこう。


 その後みちるが練習の時間だと言うので、その日はお開きとなる。

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