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第4話 『沙耶の作る曲』

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バンドの話が関わる関係、どうしても登場人物が多くなってしまうので、ここで少しだけ綾乃達のバンドメンバーをご紹介。


バンド名:『Snow rainスノーレイン

京極きょうごく 一樹いつき  ボーカル担当

すめらぎ 綾乃あやの    ベース担当

一葉ひとつば 皐月さつき   ギター担当

神代かみしろ 聖羅せいら   キーボード担当

九条くじょう 大和やまと   ギター担当(ほぼ出てこない)

夏目なつめ 光輝こうき    ドラム担当(ほぼ出てこない)


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「冗談でしょ…、曲もうできてるじゃん」

 先日一樹へ送った返信が思いのほか早く、それじゃ少しでもイメージしやすい様にと、さっくりサビの部分だけ作ってみたのだが、バンドメンバーの様子を見る限り、別段評価は悪くないようだ。


「一応言っておくけど、これで全体の5%程度よ」

 流石に数日程度で一曲まるまるできるはずもなく、一樹からのフィードバックで使える音源を簡単に肉付けしただけ。

 綾乃は過剰に驚いているが、完成品にはまだまだ程遠い。

「5%って…、それでもちゃんとした曲だよ?」

「私もそう思うわよ。これは思っていたより期待してしまうわ」

 綾乃の言葉に賛同するように、皐月までもが同調してしまう。


「一樹はどう? ざっくり楽器の音源を乗せてみただけだから、分かりにくいかもしれないけど、イメージ的にはあってる?」

 今回企画立案したのは一樹だし、最終的に私へ依頼したのも彼なので、曲の方向性に問題がないかを確認する。

「いいんじゃねぇか? だが曲が作れるならなんでもっと早く作ってくれなかったんだよ」

「それはまぁ何というか、自信がなかったのと、恥ずかしかったのよ」

 他人に聴かせるほど自信がなかったというのもあるが、一番は先日皐月にも答えた通り、自宅に籠もって一人でパソコンをいじる、という状況が、どうも根暗なイメージがあって言いにくかった。

 こんな事を言えば、世界の音楽家さん達に叱られるだろうが、年頃の女の子が持つ印象としては、やはり友達とショッピングでもしているほうが、よほど健康的だ。


「まぁいいけど、今度他のも聞かせてくれよ」

「いいけど、でもあまり期待しないでよ?」

 綾乃の様に過剰に期待されても正直困る。それに私が作る曲は、緩やかなメロディーを基調とした方が基本的に多い。

 今回はあえてアップテンポが強めの音源をピックアップし、事前に一樹に選んでもらったから出来ただけで、この曲を基本に考えられるのは、やはり少々不安に感じてしまう。


「それじゃこのイメージで進めて行くけど、皆も大丈夫?」

 先ほどから私と一樹との距離が気に入らないのか、聖羅の『むすぅ』とした視線が妙に痛い。

「なんで私の方を向いて聞いてくるのよ」

「いや、特に深い意味はないんだけど」

 流石にその視線が気になったのよとはいえず、最近こんなのばかりだなぁとか思いつつ、適当な言葉を選んで答えておく。

 念のため残りのメンバーでもある九条君と夏目君にも確認をとり、いつもの練習風景へと移っていく。




 その日の夜、自宅にあるパソコンを使って作業を始めていると、お母さんから食事の準備が出来たと声が掛かる。

「沙耶、またお父さんの部屋に籠もってたの? 最近毎日じゃない」

「お姉ちゃん、学校の友達に作曲を頼まれたらしいよ」

 テーブルに着くなりお母さんが「また勉強もせず遊んで」と、お小言が始まるや否や、すかさず両親に聞かせようと妹の沙雪(さゆき)が告げ口をする。


「なんで沙雪がしっているのよ」

 私達が暮らすのは都内のマンション。安くも無ければ高級というほどでもない、いわゆる中級家族が暮らす普通の家庭。

 もちろん都内と言うだけでそれなりのお値段はするらしいが、大手のIT企業に勤める父と、その業界では多少名前が通る、イラストレーターの母親のおかげで、マンション暮らしにも関わらず、私達姉妹にはそれぞれ個人部屋用意されている。

 なので沙雪に知られることはないはずなのだが。


「ごめん、綾乃ちゃんからのLINEみちゃった」

 えへへ、と悪気のない笑顔を返しながら、自らの罪を告白する妹。

 人なつっこい沙雪は、何度か遊びに来た綾乃とは親しい関係。「どうせスマホを置き忘れてたんでしょ」と呆れ気味の母が言うとおり、たまたまピロリンとなったスマホの待機画面に、『あやの』と出れば、興味津々で覗いていてもおかしくはない。

「心配しなくてもお姉ちゃんの彼氏のLINEは見てないから」

「当たり前でしょ、見てたらおしおきものよ」

 私と妹の関係は悪くない、むしろ綾乃が言うには仲良し過ぎるとさえ言われている。

 そんな関係だからこそ、沙雪はこの程度なら怒られないと考えているのだ。


「相変わらず仲がいいな、お母さんビール」

「はいはい、1本だけよ」

 お風呂上がりなのか、私達の様子を笑いながらお父さんがテーブルに着く。

「お父さんからも言ってよ、沙耶がまた仕事部屋に入り浸っているのよ」

 冷蔵庫から出した冷えた缶ビールをテーブルに置きながら、母のお説教はまだ終わっていないとでも言うように、お父さんを巻き込んでいく。

「まぁいいじゃないか。沙耶が行きたがっている学科には、作品の提出が必須なんだろう? これも勉強の内じゃないか」

「またそうやって甘やかす」

 私が入り浸っているのはお父さんの仕事部屋。最近では会社へ行く方が多くなっているが、元々自宅で仕事をすることもあり、昼間は父が仕事をし、夜は私が趣味で使う、という習慣が出来上がっている。

 もちろんお父さんの許可を取ったうえでだ。


「無駄だよお母さん、お父さん、お姉ちゃんには甘いから」

「何言ってるのよユキ、この前お父さんにこっそり絵を書くタブレットを買ってもらったの、知ってるんだから」

「お姉ちゃん、それ内緒にしてって言ったのに!」

 あははと笑うお父さんに、「もうお父さんは!」と怒るお母さん。

 なんの変哲もない家族の風景が、妙に居心地がいい。


「沙耶、曲作りの方はいいけど、ちゃんと勉強もしなさいね」

「大丈夫だって、自慢じゃないけど10位から下は取ったことがないんだから」

 都内でもわりかし大人数の学校だが、成績は心配されるほど悪くはない。

 その成績表のお陰で、私は塾へ通うという事が免除されているわけだが、提出用の作品を頑張りすぎて、学科試験で落ちてしまっては意味が無い。

 お母さんもなにもお説教がしたいというわけではないのだから、少しお父さんの仕事部屋に入り浸るのを控えようと反省した。


「そうそう、例の熱海の旅館、なんとか予約が取れたわよ」

 食事も一段落して、お母さんが食器を片付けながら教えてくれる。

「ホント? 今年は予約が取れなかったって言ってたから、諦めてたんだけど」

「ちょうど1部屋キャンセルが出たらしいの」

 毎年恒例となっている熱海への家族旅行。なんでも両親にとっては思い出の場所らしく、5月の大型連休にお出かけするのが、毎年の恒例行事となっている。

 実は今年の予約が予想以上に早く埋まってしまい、仕方なく今年は違う場所にと話していたのだが、毎年お世話になっている旅館から、キャンセルが出たのでいかがでしょうかと、わざわざ連絡をくれたらしい。


「じゃ今年も熱海にいけるんだ」

「お姉ちゃん温泉好きだもんね」

「ユキだって温泉好きでしょ?」

「私は温泉から見える景色が好きなの。お姉ちゃんみたいに婆くさくないもん」

 まるで自分は姉のように年寄りくさくないと言わんばかりに、いいわけをする沙雪。

 確かに私はどちらかというと、昔のレトロ感を味わう方が好きだけれど、温泉を愛する心に年齢差は関係ない。

「じゃユキは部屋から景色を眺めてればいいじゃない、温泉は私一人が楽しむから」

「お姉ちゃん話聞いてた? 温泉につかりながら景色を眺めるのが好きなの!」

「やっぱり温泉が好きなんじゃない」

「だから違うんだって!」

 そんな姉妹のやり取りをしながら夜が更けていく。

 私は急遽決まった熱海への旅行を喜びながら、楽曲製作に打ち込み、。妹は文句を言いつつ、趣味で描いた絵をお母さんに見せながら甘え、お父さんとお母さんはそんな私達姉妹を温かく見守る。


 そして数日後、一樹に頼まれたデモ曲が完成する。

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