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第32話 『運命のTop3』

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


〇登場人物紹介 その7

★春日井 美羽 (かすがい みう)

 東京芸術放送高等学校の一年生。

 芸放のデジタルミュージック科の入試で最高評価を取った天才少女。

 周防家と関係が近く、沙耶とは遠い親戚の間柄。

 家系図的には曾祖父の兄妹から連なり、血縁的にはかなり薄い。

 『Snow rain』のセカンドシングルの楽曲を担当する。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「お姉ちゃん始まるよ!」

「待って、今行く」

 5月の後半、今日は人気の音楽番組の放送日。Snow rainとAinselは番組の生放送に出演しており、番組内で放送される週間売り上げランキングが、ネットやSNSなどでも注目されている。


「なんかドキドキしてきた」

 洗い物を終え、沙雪が待つリビングで番組が始まる瞬間を一緒に待つ。

 自分の曲が発売された時には、ここまでドキドキしていなかったというのに、やはりこういう気持ちは、知り合いが対象になる方が高ぶるものなのだろう。


「始まったよお姉ちゃん」

 私と同じく、やや興奮気味にテレビに釘付けとなる妹。

 画面の中では司会者が登場し、女性アナウンサーの紹介で、出演者の人達が続々と入場していく。

 その中に聖羅達や蓮也達の姿を目にし、興奮が最高潮に高ぶっていく。


『Snow rainはお久しぶりですね』

『お久しぶりです』

『今は高校生になっただっけ? 新生活はどう?』

『はい、何とか楽しく過ごしています』

 オープニングトークとでも言うのだろうか、司会者が出演者に話しかけ、簡単なトークを交わしていく。


『次はAinsel、初登場です』

『初めまして、よろしくお願いします』

 画面に蓮也達が映し出され、挨拶を返す姿からも、緊張感が漂ってくる。


『Ainselはインディーズで人気を集めまして、この度メジャーデビューとなったバンドです』

『凄い人気らしね』

『皆さんの応援のお陰です』

 女性アナウンサーの紹介に、司会者の男性が話を合わせるように会話を振る。

 蓮也達は少し照れながらも受け答えをし、番組は最初のミュージシャンがスタンバイへと向かう。


 やがて数組のアーティストの歌と、司会者と出演者とのトークを挟み、番組は中盤へと差し掛かる。


「お姉ちゃん、もうそろそろじゃない?」

 番組中盤で発表される週間売り上げランキング。

 CDの売り上げからダウンロード数まで、トータルに集計されたもので、多くのミュージシャンも注目する有名なランキング表。

 番組の構成上、出演者の中にランキング上位者がいる場合、ランキング発表の後に歌うことが多く、今のところはSnow rainとAinselともに、まだステージには立っていない。


『ではここで週間ランキングの発表に移りたいと思います』

 女性アナウンサーの案内で、10位から4位までのランキンが発表されていく。

 途中出演者がランクインしていると、出演者と観客席から拍手が起こり、残るはいよいとベスト3を残すのみ。

 現状ではSnow rainとAinsel共に名前を呼ばれてはおらず、先週1位を取ったKANAMIさんの新曲もまだ出てはいない。


 これは上位3つはSnow rain、Ainsel、KANAMIさんで決定だろう。

 はやる気持ちを抑え、女性アナウンサーの案内を今か今かと待つ。

 そして画面にはランキングの電子パネルが表示され…


『3位はSASHYA、『Jewel (ジュエル)the() Heart(ハート)ー 心の宝石 ー』、先週から2ランクアップです』

 私かーい!

 思いっきり肩透かしをさせられ、ドキドキを通り越して恥ずかしくなってしまう。


『SASHYAは相変わらず人気だねぇ』

『ドラマの方も佳境に入っており、先週から売り上げも上がっているようですね』

 司会者と女性アナウンサーが補足するように説明が入る。

 そういえば先週もまだ、私の曲がランクインしていたんだったわ。

 どうやらドラマの方も視聴率が高いようで、歌の方も順調に売り上げを伸ばしているのだと、佐伯さんが言っていた。


 しかしそうなると、Snow rainかAinselのどちらかが、ランク外となってしまう。

 流石に先週1位を取ったKANAMIさんが、行きなりランク外という可能性は低いだろうし、2つのバンドが同位で発表されるなんてことは無いと思うので、残り2つの発表はまさに天国と地獄の境目となる。


『続いて2位は先週より1ランクダウン、KANAMI、『運命の人』』

 2位の発表と同時に、画面にSnow rainとAinselのメンバーが映し出される。

 番組も2つのバンドの対立を演出しているのだろう、同じ高校生バンドで、人気も上々の彼らは、何かにつけて話題が絶えない。


 そしてついに1位の発表。

『1位は…』

 演出なのだろう、気分を高める効果音と共に、電子パネルにその名前が表示される。

『Ainsel、『Starlight(スターライト)』』

 その瞬間、画面に映し出されるAinselのメンバー。出演者達からは賞賛の拍手が送られ、蓮也達は喜びの余りハイタッチをしている。


『デビュー曲から1位なんて凄いね』

『ありがとうございます』

『夢が叶いました』

 司会者がAinselのメンバー、主に蓮也と雪兎さんにに会話を振る。


『聞いた話じゃSASHYAとも仲がいいんだって?』

『そうなんです』

『SASHYAさんには動画配信のやり方などを教えて貰い、先週も応援していただいたばかりで』

『へー、動画配信のやり方を教わっているんだ』

『実は1位を取れたら、SASHYAちゃんがホームパーティーを開いてくれるんです。SASHYAちゃん見てるー? 1位取ったよー』

 をい、生放送で何言ってるのよ晃さん。

 3人の会話に割り込み、案の定司会者に『羨ましいねぇ』とか言われ、出演者達からも笑いが起こってしまっている。

 でもまぁ、こういうトークは事前に台本が用意されているという話なので、会社側も承認しているのだろう。


 そのまま司会者の案内でAinselはスタンバイへと移り、画面にはSnow rainのメンバーが映し出される。

 司会者も気を遣っているのか、ランキング順位のことには触れず、高校生活や新曲の話に限定している様子。

 流石に司会者のトークを無視するような事はなかったが、一樹からは不愉快さが滲み出ているようにも感じられた。


 やがて番組が終わり、画面には紗々のCMが流れ始める。

「綾乃さん達負けちゃったね」

「そうね、ちょっと予想外と言えば予想外だけど」

 3位以内とはいかなくとも、10位以内には入っているとは思っていた。それがランク外となってしまった事は、Snow rainのメンバーにとっても予想外の結果だろう。


「でも前みたいに少しずつ順位が上がっていくかもしれなよ?」

「多分それは無いかなぁ」

「どうして?」

 今回私は初めてSnow rainの新曲を聴いた。

 確かに曲自体はいいと思うが、Snow rainの演奏スタイルには合っていないのだ。

 勿論アレンジや編集やらで、いくらでも良い方向に持っては行けるが、その努力の姿がまるで感じられない。この曲はSnow rainの為ではなく、ただ自分が作った曲をより良く見せようとしているだけ。そんな曲では蓮也の作った曲どころか、他のミュージシャンにも勝てないだろう。


「改めて思うけど、お姉ちゃんってやっぱりプロなんだね」

「どういうこと?」

 私が感じた事を説明したところ、沙雪から冷たい一言。

 やっぱりって何よやっぱりって。これでも一応注目のミュージシャンだって、騒がれてるんだからね!


「安心してお姉ちゃん、お姉ちゃんは自慢のお姉ちゃんだから」

 何か誤魔化された気分もあるが、明るく笑う妹の姿は嬉しく感じられる。

 その日はやたらと甘えてくる妹と、夜遅くまで一緒に過ごした。






「週間ランキング1位、おめでとー」

 パーン! パーン!

 Ainselのメンバーにクラッカーを鳴らせてお祝いの言葉を送る。


 あれから約3週間、お互いスケジュールの都合が付かず、今日と言う日まで延びに延びつつけ、ようやく我が家のお祝いホームパーティーにご招待。

 現在我が家には私と妹、Ainselのメンバー5人に、そのマネージャーでもある三島さん。そして噂を聞きつけた佐伯さんに、何故かKANAMIさんまで集まった。


「ユキちゃん久しぶりー」

 そう言いながら給仕途中の沙雪に、背後から抱きつくKANAMIさん。沙雪も「KANAMIお姉ちゃん、危ないよ」と言いつつも、まんざらでは無い様子。


「沙耶って、KANAMIさんと仲がいいの?」

「担当して頂いているマネージャーが同じなんです」

 私達がKANAMIさんと仲良くしているのが気になったのか、蓮也がこっそり尋ねてくる。


「こんな姿を見ると、改めて沙耶さんのすごさを実感するよ」

「雪兎さん達も凄いと思いますよ? デビューから2週連続で1位なんですから」

「その翌週には沙耶ちゃんにあっさり抜かれたけどね」

「それは何というか…」

 デビューの初週で見事に1位をとった蓮也達、その勢いは翌週にも続き、2週連続で1位をキープ。だけどその翌週に発売された私の3枚目のシングル『ホワイト・ブリム』は、蓮也達に大差を付けて1位を奪い取ってしまった。


「そんなに悲観するものじゃないわよ。貴方達は十分な実力を見せたんだから自身を持ちなさい。そもそも沙耶ちゃんと比べようっていうのは10年早いわよ。ひくっ」

「ちょっと佐伯さん、お酒飲んでます?」

 途中までいい話だったのに、最後で落としてどうするのよ。

 机をみれば、いつの間にか用意されていた缶ビールとワインの瓶の数に、若干めまいをおぼえてしまう。


 生憎とお酒の購入には年齢制限が掛かるため、お酒が欲しければ持参してくださいとはお願いしたが、とてもじゃないが大人3人では飲みきれないだろう。


「それにしても3位にSASHYAが入って来たときには、どうなるかと思ったよ」

「それは俺も思った。あの状況でランクアップとか、ラスボスかよって」

 どうやら私が思った事は蓮也達も同じだったようで、当時の様子を笑いながら教えてくれる。

 私だって驚いたんだから仕方ないでしょ。


「でもSnow rainは残念だったね」

「仕方ないですよ、聖羅達もプロなんですから、受け入れない事には前へは進めません」

 あの後LINEでメッセージは送ったが、返ってきた内容はあまり良くないものだった。

 どうやら一樹が不満を当たり散らしている様で、反省会すらまともに開けない状態なのだとか。彼はいったい何時になったら大人になれるのか、聖羅達が心配になってしまう。


「仕方らいわよ、あんら曲を歌ってる限りは上にはいれないわよ」

「先輩、それはどう言う意味ですか?」

 佐伯さんの指摘に、三島さんが質問を返すように尋ねる。

 若干ろれつが回っていないのは、そろそろ限界が近いのだろう。


「あろ曲はね、心に響いてこらいのよ。聞く人の事も、曲を演奏する人の事もまっらく考えていない。沙耶ちゃんにならわらるでしょ?」

 流石と言うべきか、佐伯さんの分析は私とほぼ同じ答えを出している。

 もし私があの曲を編集出来たのなら、一樹達をもっと輝かす事が出来ただろうに…。いや、よそう。それは曲を作った人への冒涜だ。


「なるほど、奥が深いですね」

「あんらはもっと勉強しない!」

 酔った状態でお説教しても、説得力はありませんよ。


「だけど先輩、今回何故彼らは自分たちで曲を書かなかったのでしょうか」

「書れるわれないでしょ!『friend's』を書いらのは沙耶ちゃんろ。沙耶ちゃんがこっるにいるんらから書れるわれないれしょ!」

 ぶふっ

 なにサラッとバラしてるですか。

 佐伯さんの言葉を聞いた蓮也達は、一斉に私の方を見つめてくる。


「ちょっと佐伯さん、酔いすぎですよ」

「酔ってないわお」

 うん、酔ってるね。

 この中で『friend's』の秘密を知るのは私と沙雪、そして佐伯さんの3人のみ。一応佐伯さんの上司にあたる方には伝えてあるそうだが、余り大っぴらに話していい内容では無い。


「お姉ちゃん、佐伯さんを部屋に連れて行こう」

「そ、そうね」

 沙雪もマズいと思ったのか、ぐったりしてしまった佐伯さんを、ベットのある部屋へと運んでいく。


 結局『friend's』の話は、佐伯さんの酔っ払いの戯言として誤魔化し、三島さんは遅いからと、蓮也達を車で送って行ってくれた。残された私と沙雪は、自分も泊まると言い出したKANAMIさんと一緒に後片付けをし、大量に残されたお酒の缶に、軽いめまいを再び起こす。


 それにしても三島さんがお酒を飲んでいなかったとすれば、どれだけ飲んだんですか、佐伯さん!

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更新日変更のお知らせ

予てよりご連絡していた通り、次話より更新日の間隔を開けさせて頂きます。

(流石にストックが無くなりました。)

予定では火曜日と金曜日の週2回を予定をしております。

またストックが貯まりましたら変更する場合もありますので、お付き合い頂ければ幸いです。


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