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第31話 『迷惑娘1号』

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


〇登場人物紹介 その6

★KANAMI (カナミ) 23歳(推定)

 所属:Kne music

 有名なシンガーソングライター。

 マネージャーが一緒と言う事もあり、沙耶と沙雪を妹の様に可愛がる。

 テレビなどではカッコイイ女性という雰囲気だが、一度OFFになると性格(可愛いもの好き)が一変する。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 ゴールデンウィーク翌日のお昼休み、いつの間にか一緒になっていた鏡華とみちるの3人で、色とりどりのお弁当を広げる。


「なんか沙耶、疲れてない?」

 ゴールデンウィークと言えば日頃の疲れを癒やす休日。時々羽目を外しすぎて疲れる事もあるだろうが、そこは気分一新のリフレッシュで、精神ぐらいは癒やされていることだろう。

 だけど悲しいことに私は…


「仕事でギッシリ埋められていてね。休めた日なんてたったの2日よ、2日!」

 その1日は3人で聖羅達と遊んだ日で、もう一日は両親の命日に、叔父さん夫婦と沙雪との4人でお墓参りに行ったぐらい。

 佐伯さん曰く、学生なんだから今働かなくていつ働くのよ、だそうだ。

 結局ギリギリまで取材を受けさせられ、合計13社の雑誌やテレビのインタビューを受ける羽目に。

 確かに取材は受けるとは行ったけど、13社だなんて聞いてないわよと反論したい。

 ちなみにテレビのインタビューは、姿を映らない様に加工される予定だ。


「なにか分からないけど、大変だったのね。じゃこれは頑張ったご褒美に」

 そう言いながらみちるが自分のお弁当から、タコさんウィンナーを一つ分けてくれる。

「じゃこれはお返しで」

 私は得意の卵焼きを一つ、みちるのお弁当へお返しする。

「沙耶の手作りの卵焼きおいしい!」

「みちるのお母さんが作ったウイナーもおいしいわよ」

 そこはみちるの手作り、と言ってあげたいところだが、彼女のお弁当はお母さんの手作りだと聞いているので、そこはご理解して頂きたい。


「ちょっと、一人だけ寂しいじゃ無い、私も何か交換しなさいよ!」

 一人ハブられてしまった鏡華が、涙目で訴えてきたのはご愛敬と言う事で。




「そういえばこの間知ったんだけど、聖羅達の曲と蓮也達の曲って、発売日が同じみたいよ」

 食事も終わり、お弁当箱を片付けならが先日仕入れた情報を伝えると、予想通りというか情報収集は欠かさない鏡華は、当然と言いたげに教えてくれる。


「今頃何をいっているのよ。この時期は新人アーティストの発売ラッシュよ」

 鏡華が言うにはドラマの主題歌や春の歌が一段落し、有名ミュージシャンが一息つく言わば閑散期。そこに新生活で新たに組んだバンドや、名前を売ろうとする新人達が、こぞってこの時期に曲を出すという話だ。


「Snow rainは久々の曲になるわけだし、Ainselは新人バンドでしょ? 他にもレコード会社が売り込みたいアーティストが幾つか出すみたいね」

 なるほど、流石この業界が長い先輩だ。

「そうなると、今は狙い目の時期になるのね」

「そうね、中にはスポンサーやCMの関係で、この時期に出す有名ミュージシャンもいるけど、大半は売れていないか新人のどちらかでしょうね」

 するとSnow rainもその辺りを狙ったのだろうか? まぁ、会社の意向という場合もあるので、考えたところで仕方ないだろう。

 そんな他愛も無い話をしていると…


「ちょっと、今Snow rainの話をしていたわよね、勝手に一樹の話をしないで貰いたいわ」

 突如人の会話に割り込んで来たのは、毎度おなじみの迷惑娘。

 前にもSnow rainの名前を出した時に鏡華に絡まれたが、今回もまた絡まれるとは、Snow rainは呪いのキーワードなのかと疑いたくもなる。


「また来たわね、迷惑娘一号」

「何よ、その迷惑娘一号って」

「だって貴女の名前を知らないもの」

「なっ、あ、貴女ねぇ、もう1ヶ月も経つというのに、まだ私の名前を覚えていないの!?」

 そんなこと言われてねぇ。

 敢えて聞いてはいないが、みちるも多分知らないはず。


春日井 美羽(かすがい みう)よ、覚えておきなさい!」

 迷惑娘こと、春日井 美羽は呆れるように名前を名乗る。

 あれ、周防じゃないんだ。すると何処かの代で嫁いでいったと言う事だろう。


「それで何の話だっけ?」

「一樹の話よ。貴女、一樹に捨てられたんでしょ?」

「はぁ…、どこでそれを?」

「一樹が言っていたわ、使えないから捨ててやったって」

 彼奴…。

 一樹の事だから芸放と聞いて、私の事を知らないかと聞いたのではないだろうか。そして運の悪いことに美羽は私の事を知っていた、それも忌み嫌う対象として。


「だから何? 一樹と付き合っていた事も事実だし、捨てられた事も事実よ。ただ貴女が思っているような別れ方ではないでしょうけど」

「どういう事よ」

「貴女が知る必要もないでしょ」

 確かに私は一樹に捨てられた。だけどそれは恋愛対象としてではなく、使えない道具としてだ。

 それを彼女に教えたところで理解はして貰えまい。


「まぁいいわ。今日貴女のところに来たのは良いことを教えてあげようと思ってね」

「良いこと?」

「えぇ、情報が解禁したから教えてあげようと思ってね」

 情報が解禁? あぁ、アレのことか。

 美羽が何やら自慢げに話しているが、恐らくSnow rainの新曲を彼女が手がけたという話だろう。

 聖羅の話によると、ゴールデンウィークの初日に情報解禁されたとかで、私は真っ先に教えてもらっている。

 

「知っているわよ、曲の事でしょ? 聖羅から聞いているわ」

「な、なんで知っているのよ!」

「いや、だから聖羅から聞いたんだって」

 この子は人の話を聞いているんだろうか。


「それでその曲がなに? ただ自慢したいだけって言うんじゃないわよね」

「ち、違うわよ」

 若干動揺しながら話を続ける美羽。

「Snow rainのセカンドシングル、その曲が世間に認められれば、私は正式にDean musicにスカウトされる予定なの。どう? 高校生でプロデビューよ、羨ましいでしょ」

 うーん、何やら自慢げにされてはいるが、全然羨ましくもないので何とも渋い顔をしていまう。寧ろ楽曲提供までして、まだレコード会社に所属していなかったのかと、逆に聞き返したい。

 どうやらそれは鏡華も同じだったようで。


「貴女、楽曲提供までして、まだレコード会社所属していなかったの?」

「な、何よ貴女」

 あれ? 鏡華の事を知らない?

 鏡華はこれでも有名人。私は知らなかったが、小学生でデビューを果たし、現在でも曲を出し続けている? …らしい。


「呆れた、この私を知らない何てね!」

 をを、これは迷惑娘1号と2号の対決か! と思ったが、1号の「あぁ、元小学生アイドルね」の言葉に、「ち、違うわよ。現役よ現役!」と若干涙目の2号は、あっさり1号に敗北した。

 鏡華って意外と打たれ弱いのよねぇ。


「ちょっと沙耶、のんきに見てないで何か言ってやりなさいよ!」

「いや、言ってやりなさいよって言われても」

 自分が敗北したからといって、私にバトンタッチされても困るというもの。

 でも友人の敵を討つのもまた友人の勤めかと諦め、言うべき事は言っておく。


「楽曲提供したからって、レコード会社にも所属していないんだから一緒でしょ。自慢したいのなら、正式にスカウトされてから言いなさい」

「な、な、な、なんですって!」

 まぁ、そらぁ怒るわよね。怒らすように言っているんだから、当然の結果ではあるのだが。


「言わせておけばコネで入った特待生もどきが、この私をバカにするなんて!」

「貴女まだそのネタを引っ張るの? 先生方にも注意されたんじゃなかったの?」

 彼女が何を言おうが、先生方からすればただの迷惑行為。学校側も余りにも酷ければ、何かしらの注意は受けることになるだろう。


「うるさいわね! こっちは証拠もすべて揃っているのよ、今更誤魔化そうったって、そうはいかないわよ」

 あぁもう、この迷惑娘は。そのそもその証拠とらやらも持参しておらず、その出所も一切不明。学校側からすれば情報漏洩になるわけだし、私が声を上げれば大問題になるというのに、この迷惑娘はまるで分かっちゃ居ない。


「沙耶、もう言っちゃったら?」

 みちるもそろそろ疲れて来たのか、私がSASHYAだと告げればと言ってくる。

 でもなぁ。鏡華になら言っても良いが、この美羽に言えばたちまち学校中に知れ渡るだろう。しかも嘘つき呼ばわりの方向で。


「沙耶、貴女も業界の人間なんでしょ? 何か証明出来そうなものは持ってないの?」

 鏡華の方も疲れ始めたのか、何か証明になるようなものを出せとか言ってくる。

 証明、証明ねぇ。私がSASHYAだと分からず、コネではなく実力で特待生になったという証明、そんな都合がいいものなんて…、あっ


 私はカバンをごそごそと探りながら、名前が書かれた一枚のプレートを取り出し、それを鏡華に見せる。

「これって証明になる?」

「ちょ、沙耶これ、Kne musicの入館証じゃない」

 鏡華に見せたプレートは、私の名前と写真が入った入館証。

 Kne musicの本社に入るとき、これを入場ゲートの機械に通し、社内にいる間は首から掛けておかなければいけないもの。

 これを忘れてしまうと、私は受付で邪魔くさい手続きをしなければ、中へは入れて貰えない


「関係者だとは聞いてたけど、まさかKne musicだったなんて。私はてっきりDean musicかと思っていたわよ」

 鏡華が驚くのも無理は無い。Kne musicとDean musicでは会社の規模も、抱えているアーティストの数も段違い。Dean musicがダメと言うわけではないが、業界のTOPを行くKne musicと、歴史の浅いDean musicでは、収益も仕事の幅も企業の大きさも、全てが違いすぎると言ってもいい。


「な、なんで貴女がそんなものを持っているのよ」

「えへへへ、可愛く撮れてるでしょ?」

 流石プロのカメラマンに撮って貰った証明写真。メイクさんにお化粧をしてもらい、髪型まで触って頂いた後に撮った奇跡の一枚。

 見てみてと、興味を示すみちるにも見せびらかす。


「いや、可愛いけどさ、今はそこじゃ無くて」

 せっかく褒めて貰おうとみちるに見せるも、気になるのは美羽の方らしく、軽く流されてしまう。


「ふはははは、ちなみにこれが私の入館証よ!」

 先ほど元小学生アイドルと言われたのを根に持っているのか、鏡華も所属事務所の入館証を見せびらかす。

 うん、よほど悔しかったのね。


「な、何よそれぐらい。入館証だったら私だって…」

 そう言いながら美羽はスカートのポケットを探るも、徐々に悔しさをあらわにしていく。

 有るはずがない。入館証はその会社に所属しているか、働いているかでないと発行されない。美羽は先ほどスカウトされると言っていたので、まだ正式な契約は結べてないはず。

 仮に一時的に入館証を貰えたとしても、セキュリティの関係、退出時には返却が義務づけされている。


「これで納得して貰えた?」

 こんなもので納得されるのかと不安だったが、思った以上に効果は有った様子。これで当分の間は平和な日々が送れることだろう。


「認めない…、私は認めないわよ!」

 認めないと言われても、学校側も認めているのだから、彼女が一人が叫んだところで注意されるだけだろう。

 美羽はこの一ヶ月で、彼方こちらのグループでも問題を起こしているとも聞いているし、先生方からも要注意人物と認識されている。

 お陰で面と向かって私が裏入学などと話す人はおらず、彼女はすっかり

孤立している状態。

 今も周りからは「またか」という雰囲気が漂っており、注目すらされていない。


 結局彼女は言いたいことだけ言い捨て、逃げるように教室を出て行った。

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