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第27話 『お姉ちゃんの威厳』

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


バンドメンバー紹介 第二弾

バンド名:『Ainsel (エインセル)』

★結城 蓮也  (ゆうき れんや) ボーカル担当 (作曲担当)

★佐久馬 雪兎 (さくま ゆきと) ギター担当  (リーダー)

★右京 晃   (うきょう あきら)ベース担当

★葉山 次郞  (はやま じろう) ギター担当

★白羽 凍夜  (しらはね とうや)ドラム担当


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 蓮也達に動画配信のレクチャーをするため、お互いの日程を調整してやって来た週末、我が家にAinselのメンバーをご招待した。


「これがSASHYAちゃんの部屋!?」

「すげー、知らない機材がいっぱいある」

「マジか、こんな機材俺もってねぇぞ」

 正確には私の仕事部屋なのだが、そこは否定せずにそのままにしておく。


 現在お父さんの仕事部屋は、すっかり私の仕事部屋へと様変わりしており、Vtubの収益で得たお金でいろんな機材がひしめき合う状態。

 一応Kne musicからもお給料は頂いているのだが、デビューソングの収益は今月末かららしく、現状ではVtubの収益の方が上回っているのが実情だ。


「なぁ、これ皆で出し合って買わなきゃいけないのか?」

 動画配信は素人だというAinselのメンバー、どうやら並んでいる機材は動画配信に使用するものだと思われたのか、若干暗い空気感が漂い始める。

 Ainselはまだデビュー前と言う事もあり、あまり資金にも余裕がないのだろう。


「大丈夫ですよ。機材のほとんどは曲を作るときに使うものなので、今日の動画配信には必要ありませんので」

 実際動画配信に使っているのはパソコンとヘッドホン、そして私のスマホの3つだけ。他にマイクやカメラなんかも用意しているが、沙雪が用意したヘッドホンが余りにも優秀すぎて、現在は箱の中で使用される日を待ち続けている状態となっている。


「それだけでいいの?」

 私の説明を聞き終えた蓮也は、驚く様に問い返してくる。

「私の場合はVtub…、SASHYAを動かすのにヘッドホンやスマホを使いますが、普通に映像を流すだけならカメラとマイクだけでいいと思います」

 この辺りは沙雪からの受け売りだが、これでも半年以上はVtuberとしてやっているので、それなりの知識は学んで来ている。

 この後動画配信をしている様子を実演しながら、一通り教えたところで質問が入る。


「こういうのってスタジオとかで撮った方がいいんだろうか?」

 質問をされたのはAinselのリーダーでもある雪兎さん。

 なんでも蓮也とは幼なじみらしく、Ainselの立ち上げも二人で始めたんだと聞いている。

 ちなみにAinselのメンバーを下の名前で呼んでいるのは、「蓮也だけSAHYAちゃんに気安く呼ばれてるのは卑怯じゃね?」と言われたからなので、決してやましい気持ちからではない事をご理解頂きたい。


「雪兎さんが気にされているのって背景のことですよね?」

 画面に映る私の動画は、現在使用しているパソコンの画面そのもの。雪兎さん達が映像を撮る場合、カメラ越しでそのまま自分たちを映すことになってしまう為、背景の方を気にされたのだろう。

「だったらそこまで気にする必要はありませんよ。普通に部屋が映っている動画もありますし、気になるようでしたら撮影用のバック紙を貼っておけばいいんです」

「なるほど、そういうやり方もあるのか」

 まぁ、その辺りも沙雪の受け売りなのだけど。

 そんな話をしていると、部屋の外からノック音が聞こえてくる


「いいわよ」

「お邪魔します」

 私の返事の後に入って来たのは妹の沙雪。一応リビングで顔合わせはすませているので、改まっての自己紹介などは省いている。

「どうぞ」

 そう言いながらカップに入った暖かなコーヒーを配る沙雪。我が妹ながらホント出来た子だと感心していると、「お姉ちゃん、説明不足すぎ」と、何故か叱られる始末。


「雪兎でしたよね。すみませんお姉ちゃんが説明不足すぎるので、いくつか補足させて頂きますね」

 沙雪はそう言うと。

「背景の映り込みなんですが、部屋がそのまま映ってしまいますので、事前に写してはいけないものを省かないといけないんです」

「写してはいけないもの?」

「はい。例えば制服や地域を特定されそうなポスターやカレンダー、可能であれば窓からみえる外の景色なんかも、映り込まない方がいいですね」

 沙雪が言うには、偶然映り込んだ制服から学校が特定されたり、外の景色に山や建て物が映り込んで、家を特定されたりした例もあるんだとか。

 私の場合、私室と配信部屋がハッキリと分かれているから言われなかっただけで、その辺りはかなり重要なのだと教えてくれる。


「だそうです」

 どうよ、私の妹は優秀でしょと自慢げにしていると、「沙耶ちゃん、それは姉としてはどうかと」などと呆れられてしまう。

「お姉ちゃんって見た目よりしっかりしていないんです」

「うん、それは何となく分かった」

「だな、沙耶ちゃんって意外と中身は残念だよな」

 って、なに本人の前でディスってるのよ!

 しかも晃さんと凍夜さんまで沙雪の言葉に賛同される始末。とどめに蓮也からも、俺も妹には頭が上がらない。などと慰められる始末。

 お姉ちゃん、これでも我が家の家計を支えてるんだからね、と大いに反論したい。


「大体こんな感じなんですが、質問とかありませんか?」

 途中、私から沙雪に講師役が変わってしまったが、そこは二人で一人ということで見逃して貰いながら、最後に質問タイムへと以降する。

「大体はわかったが、後は実際できるかどうかだな」

「だな、俺はパソコンとか持ってねぇから、結局は雪兎か次郞に頼ってしまうんだけど…」

 そう言いながら、この家に入ってから、未だ一言も声を聞いていない次郞さんの方へと視線は移される。


「あの、何か分かりづらいところとか有りませんでした?」

「だ、だいじょうぶ…だ」

 ん? なんだか怯えられているような気がするのだけれど、気のせい?

 そんな疑問が顔に出ていたのか。

「あぁ、スマン沙耶ちゃん、こいつ女性が苦手でいつもこんな感じなんだ」

 と、晃さんが補足してくれる。

 聞けば次郞さんは姉2人、妹1人の4人姉弟らしく、小さな時からお姉さんに可愛がられてしまったせいで、女性への苦手意識が人一倍強くなってしまったのだとか。

 まぁ、同じ姉としては妹や弟は可愛いもので、ついつい構ってしまうのは何処の家庭でも同じなのだろう。


「じゃ分からない事はあればいつでも連絡ください。あ、私よりユキの方がいいかも?」

「私もその方がいいと思う。お姉ちゃんこれでも忙しいから」

 この手の話は私より沙雪の方が詳しいから、あえて妹を推薦してみたのだが、当の本人からは「これでも」扱いをされてしまう可哀相な私。


 結局沙雪も皆とLINEの交換をし、無事動画配信のレクチャーが終了する。


「この後どうされます? もし良ければ食事をご用意しますけど?」

 一応事前に来られる事は分かっていたので、沙雪と相談しながら食材の用意だけは済ませている。

「お誘いは嬉しいけど、流石にご両親にまでご迷惑をお掛けしてしまうから」

 雪兎さんの言葉に、若干晃さんと凍夜さんがガッカリされているが、そういえば両親の事は蓮也以外に言っていなかった事を思い出す。


「この家は私とユキしか居ないので、お気遣いは不要ですよ」

「えっ、ご両親がいないの?」

「はい、詳しくはその…後で蓮也さんに聞いて貰えると助かるのですが」

 ここで両親が亡くなっていると言えば、皆に気を遣わせてしまう気がしたので、ここは蓮也さんに後で聞いて貰う方がいいだろう。

 蓮也さんも私の意図が通じたのか、後で話すからとその場は和やかな雰囲気のままやり過ごす。


「それじゃ食材も用意してもらっていると言う事なら、ありがたく頂くことにするよ」

 リーダーでもある雪兎さんか了承を得た事で、早速私と沙雪とでご飯の支度を始める。

 その感みなさんには適当にくつろいで貰っていると、晃さんがリビングに置きっ放しになっていた、私のデビューシングルに興味を示す。


「これってSASHYAの限定版!?」

 それは数量限定で販売された『Fleeting love』のシングルCD。パッケージ自体は通常版と変わらないのが、限定版にはSASHYAのイラストBOOKが付いているという品物。

「マジ!? 俺初めて見た!」

 そういえば佐伯さんが、珍しくCDの売れ行きが凄いんだとか言ってたっけ。

 近年ではサブスクやダウンロードの方が多くて、CDの売り上げ自体はかなり減っているだと言う話だ。


「うぉ、E-SHYA(イーシャ)のイラストBOOK、すげーー」

「俺にも見せろ!」

 E-SHYAのイラストBOOKにはしゃぐ晃さんと凍夜さん。いつもは私達二人だけなので、こんない賑やかな我が家は何時ぶりだろうか。

 隣をみれば沙雪も楽しいのか、クスクスと笑いながら野菜を洗っている。


「ユキ、イラストBOOKっていくつかサンプル貰ってなかった?」

「あるよ、ちょっと取ってくる」

 私の意図が伝わったのか、沙雪が自分の部屋へと戻り、人数分のイラストBOOKを持ってくる。


「えっ、これ貰っていいの!?」

「ユキがいいって言うのなら別にいいと思うわ」

 元々イラスト関係の担当は沙雪だからね、私が口を挟むつもりは全くない。


「やったー、めっちゃ嬉しい! …あれ?」

「どうした晃?」

「いや、これ、E-SHYAのサイン入ってない?」

 二人は何かに気づいたらしく、沙雪からもらったイラストBOOKに視線を移す。

 ちなみにE-SHYAと言うのは沙雪のペンネーム。私がSASHYAだから、妹の自分はE-SHYAでいいやと、考えもなしで決まったものだ。

 名前の由来は妹の『い』から取って、E-SHYAらしい。


「あ、ごめんなさい。佐伯さんに頼まれて、幾つかサインを入れたものがあるんですが、残っているのがそれしかなくて」

 そういえばそんな事を言ってたわね。限定版の中に、沙雪のサイン入りを幾つか忍ばせてはどうかと、遊び心で頼まれたのだ。

 だけどそれを聞いた晃さんと凍夜は、沙雪の方を見て固まってしまう。


「えっと、E-SHYAちゃん?」

「ん? はい、E-SHYAですけど?」

「「!?」」

 あれ? もしかして二人は知らなかったの?

 Vtubではそれらしい事を話していたのだけれど、見ていない人からすれば知らなくても当然。

 私も沙雪もその辺りは気にしたことがなかったが、どうやら二人にとっては衝撃の事実だったのだろう。沙雪の言葉にみるみる二人の表情が変わっていき、最後は…


「ユキちゃん、付き合ってください!」

「おい、抜け陰するな! 俺と是非交際を前提にお付き合いを!」

 ぶふっ

 突然の告白に顔を真っ赤に染める沙雪。

 直後、雪兎さんと蓮也の拳が、二人の頭に落ちた事は言うまでもあるまい。


 お姉ちゃんとしては沙雪をお嫁にやるつもりはありませんので!

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