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第25話 『二人の秘密』

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


〇登場人物紹介 その2

★結城 蓮也 (ゆうき れんや)

 通称、蓮也

 沙耶がライブハウスで出会った青年。2つ違いの妹がいる。

 バンド『Ainsel』のボーカル担当


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 名前も知らない迷惑娘とのバトルを繰り広げた放課後、佐伯さんからのLINEで「近くにいるからいつもの場所まで迎えに行くわ」とのメッセージを受取り、校門の方へと向かう途中で、5・6人ほどの小さな人だかりを目にする。


「何あれ?」

 有名人でも来ているのかと思い、警戒しつつも妙に気になったので、すれ近い様に中心にいる人物の方へと視線を送るも、一体なんの意地悪か、彼方も私の方へと視線が向き、同時に二人から同じ言葉が飛び出す。

「「あっ」」


 えっと、なんでそこにいるんですか?

 思わずその場で立ち止まってしまった関係、私の蓮也さんのとの距離はおよそ1メートル。

 思わぬ場所で、思いもしなかった人物と再会してしまい、私の頭は若干混乱気味。

 よくみれば芸放の制服を着ているので、同じ学校に通っているという事になる。


「えっと蓮也さん?」

「その確証のなさげな呼び方は沙耶さん?」

 どういう認識なのよと、軽く突っ込みを入れたいが、今はこの場から逃げ去る方が賢明。

 彼の取り巻きとも思える女性達から、「こいつ誰よ」といった視線が妙に痛い。


「それじゃ…」

 それじゃ私はこれで、と言いながら立ち去ろうとするも。蓮也さんがすかさず逃がすものかと捕まえに入る。

「丁度よかった、ごめん皆。この後彼女と予定があって」

 いやいや、ありませんって。

 必死にそんな事実はないと訴えたいが、蓮也さんの顔が「助けてくれ」と叫んでいるように見えてしまい、渋々話を合わせてしまう。


 もう、仕方ないなぁ。

「蓮也さん、この前は助けて頂いてありがとうございました。それで妹さんへのプレゼントのご相談でしたよね?」

「え? あぁ、そう、プレゼント。俺じゃ彼奴の好みが分からなくて困っていたんだ」

「私も同じ歳の妹がいますので、助けて頂いたお礼がしたいと思っていたんです」

 皆さんはお分かりだろうが、そんな約束は当然していない。

 今も蓮也さんのファンとおぼしき女性達から、突き刺さるような視線に晒され、一言でも間違えればこの先の学校生活に支障をきたす。

 私はなるべく当たり障りのない言葉を選びながら、上手くこの場から逃げ出す方向へと誘導していく。


「それじゃ余り遅くなっても行けませんので、お店の方へ向かいましょうか?」

「そ、そうだね。それじゃ俺はこれで」

 何とも苦しい逃げ方だが、蓮也さんが「これで」と言った手前、追いかけてくる様子は見られず、出来るだけ足早に校門の方へと逃げる。


「ゴメン沙耶さん!」

 校門を抜け、一つ目の角を曲がったところで、蓮也さんが手を合わせながら謝罪を口にする。

 どうやら彼女達は蓮也さんバンド『Ainsel(エインセル)』のファンらしく、昨日に引き続きあのように囲まれてしまったのだという。

 すると今日みちるが言っていたカッコイイ人とは、蓮也さんの事だったのだろう。


「いつもは雪兎(ゆきと)のやつが上手くあしらうんだが、俺はどうもこの手の女子が苦手で、どうやって逃げようかと困っていたんだ」

 雪兎と言うのは恐らく彼のバンドメンバーの方だろう。私も一度面識はあるのだが、正直名前も顔も覚えてはいない。

「別にいいですよ。以前助けてもらった事には違いないんですから、あの程度の事ならお安いご御用です」

 毎回は流石に困るが、蓮也さんには以前一樹がらみで助けて貰っているので、この程度の事ならば助けないわけにはいかないだろう。


「それにしても驚きました。芸放に入学されていたんですね」

「まぁちょっと色々あってね」

 蓮也さんはありがとうと言った後に、私の質問に何とも言いにくそうに答えてくださる。

「深くは聞きませんのでご安心ください」

「いや、そういうわけじゃないんだが。今はその…色々あってね」

 うーん、どうやらその色々という部分に何かがあるのだろう。

 私だって聞かれても答えられない部分があるので、その辺りは触れないようにしておく。


「沙耶さんは無事に合格出来たんだね」

「はい、その…何とか?」

 蓮也さんにすれば、軽く話のネタを振ってくださっただけなんだろうが、その話は正直言葉を濁してしまう。

 私は皆のように試験を受けての合格ではなく、特待生として面接しか受けていないので、どうしてもその部分にだけは引け目を感じてしまう。


「えっと、何か聞いちゃマズかった?」

「いえ、マズい訳では無いんですが…」

 何とも気まずい雰囲気になりかけて来たとき、歩道を歩く隣から軽いクラクションの音が聞こえてくる。


「丁度よかったわ、今から向かうところだったの」

 車のウィンドウを下げて、話しかけて来られたのは私のマネージャーでもある佐伯さん。

 学校の前では目立ちすぎると言う事で、迎えに来て下さる場合は、近くにある小さな公園が待ち合わせ場所になっている。


「お迎え?」

「えっと、まぁそんなところです」

 流石に「これから仕事の打ち合わなんです」とは言えず、せっかくの再会だというのに蓮也さんとはここでお別れ。

 せめて連絡先だけも交換できればなぁ、っと淡い期待を寄せていると。


「あれ、誰かと思えば結城君じゃない」

「えっ、佐伯さん、蓮也さんの事知ってるんですか?」

 突然出てきた佐伯さんの発言に驚いていると、何かを悟ったのか、急に表情が柔らかくなり。

「あぁ、沙耶ちゃんが言ってた蓮也君って結城君の事だったのね」 

 何やらニヤニヤの表情が妙に痛い。


「結城君…って、この場合蓮也君の方がいいわね」

 そう呼び方を訂正しながら。

「蓮也君も今日打ち合わせだったわよね? 丁度いいから送ってあげるわ」

「はぁ?」

 突然の申し出に私の頭は軽く混乱。

 蓮也さんの方を見ると、こちらも同じように混乱しているようで、お互い顔を合わせて「どういう事?」と疑問をぶつけ合ってしまう。


「まぁいいわ、取りあえず人目もあるから乗って。車の中で説明してあげる」

 そう言いながら、佐伯さんに勧められるまま、私と蓮也さんは佐伯さんが運転する車の後部座席に、二人並ぶように座らされる。


「沙耶ちゃん、蓮也君は今度ウチの会社からメジャーデビューするのよ」

 車を発進させながら、佐伯さんはこれまでの経緯を教えてくれる。

 どうやら蓮也さんが所属するAinselは、佐伯さんの後輩がスカウトしたらしく、現在デビューに向けて絶賛準備中なのだという。


「公式の発表はまだされていないから、これはオフレコね」

 いやいや、そんな関係者しか知り得ない情報を漏らさないで下さいよ。

 隣の蓮也さんを見れば、何とも渋い顔をされている。


「もしかしてさっき言いにくそうにしてたのって…」

「デビューの話なんだけど、まさかこんな形でバラされるなんて」

 あぁ、そういうこと。

 私の時もそうだったが、会社からこの日までは何処にも漏らすなって、口止めされる時がある。恐らく蓮也さん達も、公式の発表までしゃべらないように言われていたんじゃないだろうか。


「佐伯さん、そんな重要な事を私に話さないでくださいよ」

「えっ? いいじゃない。沙耶ちゃんもウチの関係者なんだし」

「まぁ、それはそうなんですけど」

 一応契約の時に、会社が秘匿とする部分には従うようにと説明されており、その対象は私個人ではなく会社全体にも適応される。

 つまり会社が、蓮也さん達のメジャーデビューをまだ公表してはいけないと決めたのなら、私もその秘密を守らなければいけいと言う事。


「えっと、こんな形になっちゃいましたが、メジャーデビューおめでとうございます」

「何かよく分かってないんだが、取りあえずありがとう?」

 うん、それは分かんないよね。

 この後どう説明するのよと、佐伯さんの方を見て見るも、ルームミラーに映る表情はニコニコの状態。どうせ私の様子を面白おかしく見てるんだろうなとは思うが、せめてこのような状況になった責任は果たしてもらいたい。


「それでその…沙耶さんっていったい?」

「えっとですね、どう言ったらいいもなのか…」

 もうバラしてもいいんだろうが、佐伯さんがいる手前、それが正解なのかどうかが分からない。

 そんな様子に気づいたのか、佐伯さんが…。


「蓮也君、何か困った事があれば沙耶ちゃんを頼るといいわよ。一応蓮也君たちの先輩にあたるわけだし」

「先輩?」

 これはとっとと話しなさいよとの催促だろう。

 芸能界もそうであるように、音楽業界も年齢ではなく、デビューの早さや長さで先輩後輩が決められてしまう。私はそんなの無しにして全員を敬えば? とは思うのだが、やはり長年この業界を支えて来られた人からすれば、上下関係は文化のようなもので、そこには経験も実績も積み重ねて来られていると考えれば、やはり必要なのかもと考えを改めはじめている。


「あの、蓮也さん。今更改まって言うのも気恥ずかしいんですが…」

 いまだに不思議そうにこちら見ている蓮也さんに、私は少し照れながらも名乗りを上げる。

「先月デビューしましたSASHYA…です」

「!?」

 流石に蓮也さんも驚いたのか、目を丸く見開き言葉を無くされてしまった。

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