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第24話 『友人第1号』

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


〇登場人物紹介 その1

★飯島 みちる (いいじま みちる)

 東京芸術放送高等学校の1年生。

 沙耶と同じクラスで、入学後初めてできた友人。

 夢はアイドル、歌は好きだが楽器はからっきし。

 いくつものオーディションを受けているが、未だ何処にも所属していない。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「おっはー沙耶」

「おはよう、みちる」

 芸放への入学から3日目、この学校で初めて出来た友達に挨拶を返す。


「ねぇちょっと聞いてよー」

「どうしたの?」

「この前受けたオーディションなんだけど、また落ちたー」

「あぁ、昨日言ってたアイドルグループのオーディションね、通知が来たのね」

 机の上でうつ伏せ状に倒れる彼女の頭を、慰めるようにやさしくなでる。


 彼女の名前は飯島(いいじま) みちる、席が後前と言う事から話す様になり、現在はお互いの友情を深め合っている最中。

 聞けば先週受けたとあるアイドルグループのオーディションで、奇しくも不合格の通知が届いたのだという。

 彼女の夢はアイドルになって、煌びやかなステージに立つことらしく、中学時代から幾つものオーディションにチャレンジをし、その度に毎回涙を流しているんだと言っていた。

 だったらデジタルミュージック科ではなく、音楽科の方へ行けばよかったのでは? と思うのだが、本人曰く楽器の扱いがからっきしで、唯一の得意分野がデジタル音源だと言う事で、こちらの学科に挑戦したのだという。


「また次頑張りなさい」

「頑張るけど、元気がたりなーい! もっとなでなでしてー」

「はいはい」

 そのぐらいお安いご用よと、そろそろ止めかけていたなでなでを、もうしばらく継続する。


「そういえば昨日、音楽科にカッコイイ人がいたの!」

 私のなでなでで元気を取り戻せたのか、みちるが突然起き上がり、昨日の放課後に出会った青年の事を教えてくれる。

「音楽科って、この学校は基本美男美女揃いでしょ? そんなに騒ぐほど?」

 音楽科はアイドルや演奏家を目指す人が多く、芸放ではトップの人気を誇る有名な学科。他にも女優男優を目指す演劇科や、アナウンサーを目指す放送情報科などがあるが、ハッキリ言って、この学校の美男美女率は非常に高い。


「私は知らなかったんだけど、なんかインディーズのバンドをやってるとかで、周りがめっちゃ騒いでたの!」

「インディーズのバンド?」

 インディーズと言うと、どこのレコード会社にも所属せず、独自で活動している人達の事。その言葉の幅は大きく、デビューを目指す人達から、自分たちでCDを発売したりと、一概に区切ることが難しい。

 綾乃達もデビュー前はインディーズだったと言えば、少しはわかりやすいだろうか。


「何て言ったっけなぁバンド名…」

 必死にバンド名を思いだそうとしているが、生憎と私もインディーズには詳しくない。仮に思い出せたとしても、期待に応えられるような反応は返せないだろう。

「別に無理に思い出さなくてもいいわよ。聞いても分からないし」

「まぁ、それもそうか」

 私の説明に、これ以上労力は必要ないと、あっさり頭を切り換えるみちる。この辺りのサバサバ感も彼女の魅力の一つだろう。


「それにしても入学式の時にはそんな話聞かなかったわね」

 それだけ騒がれているのなら、入学式で噂話ぐらい耳に入ってきても不思議ではないはず。

 唯一噂話に上がっていたのは、同じクラスにいる涼風 鏡華(すずかぜ きょうか)という生徒のみ。私は覚えていないのだけれど、なんでも小学生アイドルとしてデビューした経験があるらしく、当時は結構な人気ぶりだったと言う話だ。


「あぁ、それなら入学式には出てなかったんだって」

「そうなの?」

 みちるの話では、何かの所用で入学式には間に合わず、1日遅れで通うようになったとの事だった。


 そういえば私も入学式に出れるか出れないかで、結構微妙な状態だったのよね。

 当初はスポンサーとの打ち合わせが午前中に指定されており、何とか彼方の予定をずらして貰い、無事に入学式に出席することが叶った。

 スポンサー側からすれば、私が学生の身分だったとは知らなかったそうで、顔合わせの時に何度も謝罪されてしまった。

 恐らくその男性も、何かしらの都合が邪魔をしてしまったのだろう。


「ねぇ、お昼休みにでも見に行かない?」

「行かないわよ」

「えー、行こうよ。それとも沙耶って好きな人でもいるの?」

「い、いないって」

 いきなりの不意打ちで、一瞬戸惑いの姿を見せてしまう。

 そんな私の様子を見たみちるは。

「えー、怪しいなぁ。私の知ってる人? ね、ね、誰にも言わないからさぁ」

 言っても知らないでしょ、と心の中で呟きながら、みちるの執拗な追求をどう交わそうかと考えていると。


「いいご身分ね、たいした実力もないのに、親のコネで入学が出来た特待生は」

 突然現れ、有りもしない皮肉を向けて来たのは、同じクラスにいる一人の生徒。名前はまだ覚えていないが、入試の成績が優秀だったとかで、1年生の代表として、ステージで挨拶をしていた事だけは覚えている。


「あの、それはどう言う意味でしょうか?」

 私が特待生と言う事は公にはしておらず、当然親のコネという部分にも心当たりがない。

 そもそも初対面で皮肉をぶつけられるほど、私は悪さをしてきた記憶は一切ない。


「しらばっくれて、私は知っているのよ!」

 えっ? 知っているってまさか私がSASH…

「貴女の親が周防家の人間なんだって!!」

「!?」

 その言葉を聞いた時、驚きから不快感へと移り、最後は警戒心まで、自分でも分かるほど一瞬で感情が動き出す。


 周防、それは私にとっては一番聞きたくない苗字。

 叔父さんと叔母さんは良くしてくださっているが、それ以外の人達には一切良い感情を抱いていない。

 叔父さん達の子供は私達より年下だと聞いているので、目の前の女性は自動的に警戒する対象となる。


「図星のようね」

 私の驚きが肯定したとでも勘違いしたのだろう、私はただ出てくるはずもない、周防の名前に驚いただけなのだが、この女性にそれを言ったところで、理解して貰えるとは思えない。

 だがこのまま黙っていれば彼女は益々つけ上がるだけなので、ここはきっぱり否定しておくべきだろう。


「貴女が誰に何を聞いたのかは知らないけれど、私の性は雨宮よ、周防なんて知らないわ」

「ふん、そんな言い訳が通じると思って?」

 周防家とはあれから一切の付き合いは無いが、全く支援して貰っていないかと言えば嘘になる。

 私達が暮らしているマンションに両親のお墓の費用は、現在叔父さんが負担して下さっている。いずれはそれら全てをお返ししたいとは思っているが、恐らく叔父さんは受け取ってはくれないだろう。


「言っておくけど、こちらはちゃんとした証拠も揃っているのよ」

「証拠?」

 うーん、彼女が言う証拠が何を指すのかは分からないが、その事実は明らかに間違っている。


「その証拠ってなに? もう一度言うけれど、私には全く心当たりがないわ」

 ここで所属事務所の名前を出せればいいが、私がSASHYAだと言う事は、出来れば隠し通したい。例えSASHYAの名前だけ伏せたとしても、私の作った曲は、全て動画配信やらCDやらで流しているので、実力見せろと言われた場合、困るのはこちら側となってしまう。


「いいわよ、ならば言ってあげる。貴女の入学書類に周防 大輝と書かれているわ、それが証拠よ」

「……えっと」

 それが証拠? 

 確かにこの学校への入学に辺り、保護者として叔父さんの名前を借りてはいるが、なぜそれが特待生で、周防家からの援助だと勘違いされるのか。

 そもそも証拠といいながら、その書類のコピーすら持参していない。


「あのね、そこまで言うなら私の両親がどうなっているかは知っているんでしょ? 叔父さんはここへの入学に辺り、保護者としての名前を借りているの。そこになんの不思議があるのよ」

 あえて遠回しに言っているのは、みちるへの気遣いを考えてのこと。

 私の両親がすでに亡くなっていると告げれば、変に気を遣わせてしまうからと思って頂きたい。


「ふん、誤魔化そうとしても無駄よ。大して実力も無いくせに」

 カチン!

 この女、言わせておけば好き放題言いやがって。

 少々言葉使いが荒くなっていることは多めにみてもらいたい。


 自慢じゃ無いが、私のデビュー曲は3週連続で1位をキープし、現在も週間ランキング10位以内を保っている。

 収益の方はメディア出演を断っている関係、純粋な曲の売り上げのみにはなるが、それでも佐伯さんのニコニコな笑顔を見れば、会社への貢献はそれなりに出来ていると自負している。


「いいわよ、私に実力がないかどうか、見せれば納得するのね」

「出来もしないことを偉そうに」

 この女、一体どこまで人の気を逆なでさせれば気が済むのか。

 だけど実力を見せるにしても今の私が出せるのは、中学時代に作った完成度が低い曲ばかり。

 あのレベルを見せてもバカにされるのは目に見えているので、ぎゃふんと言わせるには新たに曲を作らなければならい。

 だけど私は現在3枚目のシングル製作に取りかかったばかりで、時間的には正直厳しいのが現状だ。


「それでどうやってその実力とやらを見せてくれるのかしら」

 ぐぬぬ。

 こっちは学業と歌手活動で忙しいと言うのに、この女と来たら。いっそのこと私がSASHYAだと言えれば楽なのに。


「なんだか面白いことになっているねー」

 突然間に入って来てくれたのは、完全に茅の外になってしまっていた友達のみちる。

 なんだか巻き込んでしまって申し訳ない気もするが、こちらにも引けない事情があるので、後で説明しながら謝らなければいけないだろう。


「部外者が間に入らないでもらいたいわね」

「部外者かぁ、私にはさっぱり話が見えないんだけど、沙耶は私の友達だからね、口ぐらいは挟ませてもらってもいいんじゃないかな」

 みちるはそう言いながら、ある提案をしてくれる。

「ねぇ、創立祭って知ってる? 夏休み前にある文化祭みたいなものなんだけど」


 芸放の創立祭、入学前にパンフレットで読んだ事があるが、秋の文化祭は演劇やら演奏やらの発表に対し、夏休み前の創立祭は、主に作品や作曲の展示などを主体においた、言わば閲覧会。

 メインは卒業を控えている2・3年生とはなるのだが、私達1年生も雰囲気を味わうために、参加の意思さえ示せば展示の許可が下りるようになっている。

 その創立祭には毎年多くの業界関係者がやって来るそうで、楽曲デビューやその場でスカウトをされたりと、業界の中でも注目されているだと書かれていた。


「つまりはその創立祭の展示で、どちらがより良い評価を貰えるかって事ね」

「そう。学校の行事だから、当然授業中での製作がメインになってくるでしょ? 貴女が言うように沙耶が悪い子なら、他人が作った曲を盗んで来るかもしれないけど、これならお互い見張っておくことも出来るから、納得出来るんじゃないかと思って」

 なるほど、それは確かにいい案に思える。

 授業中での作曲活動ならば、わざわざ無理をしてでも時間を取る必要はなく、第三者が評価を決めてくれるのならばお互い納得も出来るというもの。


 ただ一つ気になる点があるとすれば、なぜみちるがこの様に私が有利な方法を提示してきたかだ。

 正直みちるとの仲は発展途上の最中。余計な揉め事をさけるならば、ここまで私に有利な案は出して来ないだろう。単純にみちるが私と仲良くしたいと思ってくれているなら、これ以上に嬉しいことはないが、出会ってたった3日では、余りにも期間が短すぎる。


「いいわよ、その勝負乗ってあげるわ。精々私と張り合える程度の曲には仕上げてきなさい」

 何ともどこかの小説に出てきそうなセリフだが、取りあえず追い払えた事には感謝するべきだろう。


「ありがとう、みちる」

「いえいえ、これでも沙耶の友達第一号ですので」

「この学校で、だけどね」

 お互いあははと笑いながら、名も知らぬ迷惑娘を見送る。


「それでいつ気づいたの?」

 この話はこれでおしまい、という事で一旦切り上げ、私は心の中に浮かんだ疑問を口にする。

「うーん、さっきの特待生って話を聞いた辺りかなぁ。さっきの子、名前は覚えてないけど、提出した作品が優秀だったとか言われてる子でしょ? そんな子とまともに張り合えるなんて限られてるじゃない。正直いまでも半信半疑なんだけど、その質問をするって事はやっぱり正解ってこと?」

 なるほど、墓穴を掘った。


 実は私がこの学校へ来てから妙な噂を耳にしていた。

 それはあのSASHYAがこの学校の生徒だと、あちらこちらで囁かれていると言うこと。

 なんでも同じ学年で音楽の道を歩んでいるのなら、当然芸放に通うよね? ということらしいのだが、その推察はズバリ的中してしまっているので、反論の余地もない。

 さらに私は中学時代に、名前がSASHYAに似ていると言うだけで、噂に上げられた事もあった。だからてっきりそこから推測されてしまったのかと思ったが、まさか特待生という言葉で気づかれたとは思いもしなかった。

 ちなみに私は作品の提出は免除されており、彼女が入試用に作った曲とは比較されていない。


「まぁ、正解とだけ言っておくわ。正直なところ、秘密を共有できる友達は欲しかったのよ」

 今更隠しても逆に怪しまれるだけなので、ここは潔く認め、秘密を共有できる友人を作っておく方がいいだろう。

 ここには聖羅も綾乃も居ないので、もしもの時に秘密を知ってくれている友達がいるのは、やはり何かにつけても頼もしい。

「お眼鏡にかなったようで何よりで。ちなみに私は何番目なの?」

 その質問は恐らく、私がSASHYAである事を知っている人数の事だろう。


「そうね、家族と関係者を省くと4人目かな」

「意外と少ない!」

「言っとくけど、前の3人はバラしたんじゃなくてバレたんだからね」

 元々動画配信の内容が恥ずかしかった事もあり、綾乃達にも教える気は無かった。それが皐月にはバレていたようで、3人の追求の末、渋々認めることになってしまった。

 そこ! 私の演技が下手くそだったとか言うんじゃありません!


「じゃ教えてくれたのは1番目ってことだね!」

「教えたつもりはないんだけど、まぁそれでもいいわ」

 本人は1番で喜んでいるようだし、実質私が自爆したようなものだから別に構わないだろう。

 その後「誰にもしゃべりません!」という彼女の言葉を信じ、その日の放課後を迎える。

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