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第21話 『Fleeting love』

 2月13日 22時00分


「皆さんこんばんわ、生配信以外の方はこんにちは、『SASHYA』です。実は今日、私から皆さんに一日早いバレンタインプレゼントがあります」

 最近定番となりつつある挨拶をしならが、Vtubの生配信を始める。

 コメント欄には私からのバレンタインプレゼントという言葉に、我先にと数々の憶測を予想するいろんな言葉が並ぶ。その中には「チョコ争奪戦」や「ロシアンチョコ」などといった、ユニークなものも見られるが、大半のコメントは「『SASHYA』ついにデビュー」という、本人でも驚くようなコメントで埋め尽くされる。


 私はそれらのコメントを見ながら一息吐き。

「3月14日、『SASHYA』メジャーデビューします!」

 その発表直後、もの凄い勢いで流れていくお祝いコメント。

 事務所からは事前に、今日のタイミングで発表するように言われており、明日から本格的な宣伝活動開始されるそうで、私はとうとう後戻りのできないステージを迎えた。


「みなさんお祝いコメントありがとうございます。実は昨年末、熱心に私の事を勧誘してくださった方がいまして、その熱意に私も負けてしまい、12月30日に『Kne music』様と正式に契約しました事を、皆様にご報告させていただきます」

 わぁーーっと流れるコメント欄。大手レコード会社おめでとう、うちに来てほしかった! お姉ちゃん悪戯メールだって無視してたじゃん、などといった、中には少々気になるコメントも見られるが、概ね喜びとお祝いで埋め尽くされる。


 その後はデビュー曲の紹介や、進行中のレコーディングの様子、初めてボイストレーニングを受けていることなど、情報公開が認められている事で盛り上がり。最後にデビュー曲である儚い恋、『|Fleetingフリティング loveラブ』の一部を流し、その日の配信を終了した。




 よく朝、教室へと入った私はクラスの様子が変な事に気づく。

「沙耶おはよう」

「おはよう美雪、今日どうしたの? なんかクラスの様子がへんじゃない?」

 友人である美雪に挨拶をし、クラスの様子の事を尋ねると、「あぁ、『SASHYA』ことだと思うよ」と、あっさり答えが返ってくる。

「『SASHYA』?」

 えっ、なんで?

 私からでた言葉が、知らない方の疑問だと思われたのか、美雪が分かるように説明してくれる。


「『SASHYA』っていうのはね、最近人気のVtuberで、自分が作った曲を歌ったりしてたんだけど、昨日の生配信でメジャーデビューするって言ってたの」

 うん、知ってる。だってそれ言ったの私だもの。

 若干冷や汗をかきながら、どうしてこの様な状況なっているのか、さり気なく尋ねると。

「普通に『SASHYA』って人気だよ? 前に配信で言ってたんだけど、どうも私達と同じ学年みたいでね、顔を出してないからわかんないんだけど、ひょっとしてB組の小夜さんだとか、E組の咲ちゃんだとか、あと沙耶もその中に入ってたはずよ」

「そんなバカな」

 思わず本音が飛び出してしまうも、美雪は「まぁ普通に考えてあり得ないよねぇ」と、あっさりと否定してくる。

 そういえば前にうっかり、「明後日から2学期なんです」と「受験勉強が」とか言っちゃったんだっけ。

 まさかそれだけのキーワードで、ここまで話が盛り上がるとは思ってもみなかった。


「沙耶は…うん、違うね」

「と、当然でしょ」

 心の中で親友に謝りながら席の方へと付く。


 そしてその日の放課後、聖羅達と前々から約束していた説明のため、学校から少し離れたファミレスへとやって来た。


「おひさ!」

「久しぶり沙耶」

 店内で待っていたのは聖羅と綾乃、皐月は少し遅れているみたいでまだ姿は見えない。

「綾乃、ほら」

「えっと、沙耶…ちゃん」

「久しぶり、綾乃」

 まだ若干ギクシャクはしているが、クリスマスに出会った時よりかは元気そうでひとまず安心。店員さんに飲み物とデザートを注文し、しばらく経つと皐月がやってくる。


「それで沙耶、クリスマスの時の話なんだけど」

 聖羅はそう前置きをしならが、当時の事情を説明してくれる。

 実はもっと早くにこの場を設けるつもりだったのだが、年末にレコード会社に契約をしてしまった関係、私は年始から予定がぎっしり詰まってしまい、聖羅達も丁度受験とぶつかってしまった関係、伸びに伸びて今日までやってきたというわけ。


「じゃ、夏目君が私に曲を書かせるために、あんなこと考えたってこと?」

 あんな事とは、私が曲を書けば印税やらなんやらでお金が入り、諦めていた芸放送への入学費用が確保できるという、なんともやらしい脅し文句のこと。

 流石にあの内容は失礼極まりなかったのと、私は既にVtubでの収益化で、入学費用に目途が付いていたため、丁重? にお断りした。


「私も最初は止めたんだけど、上手くいかなくてね。結局沙耶にまた迷惑を掛けてしまったわ」

 聖羅はワザと省いたようだが、当時の綾乃の様子から推測するに、多分夏目君の話に乗ってしまったのだろう。

 どうやら私への強い謝罪心から、冷静な判断が出来ていなかったみたいだし、心身共にボロボロだった綾乃は、見るに耐えない姿をしていた。

 流石にそんな綾乃にキツイ言葉など返せるわけがない。


「沙耶ちゃん、その…ごめんなさい」

 綾乃もようやくわかったのだろう、夏目の提案はお互い公平な取引ではなく、ただの尊厳を傷つけるための脅しなのだと。

「もういいわよ。気にしていないから」


「それで沙耶、結局受験は受かったの?」

 あぁ、そういえばまだ合否を伝えてなかった事を思い出す。

 私の合格って、一般入試に前に決まってたからすっかり忘れていたわ。

 結局今年に入ってすぐに、佐伯さんから貰った書類に記載し、その後面接を受けてその日に合格。どうやら先にSASHYAの曲が学校側に提出されていたようだし、Kne musicのお偉いさんの名前が入った推薦状なんかも用意されていたようで、特に問題らしい問題もなく、すんなり特待生入学という枠を頂けた。


「なんとか無事に合格を貰っているわ」

 みんなが必死で勉強して試験に臨んでいるのに、私だけ楽してしまった事に罪悪感があり、特待生の事は避けおく。

「そう。沙耶の事だから心配はしていなかったけれど、兎に角おめでとう」

「ありがとう」

 これでも成績は常に10位以内はキープしているので、一般入試を受けていたところで落ちる気は更々無かった。問題があるとすれば作品提出の方だが、こちらもSASHYAで流している曲を出せば、何とかなったのではと密かに考えている。


「聖羅達はどう?」

 私ばかり質問されているのもなんだし、聖羅達の合否もまだ聞いていなかったので、この際だから尋ねてみる。


「私と皐月は希望高に受かったわ。綾乃は…」

「落ちたの?」

「いえ、第二希望には受かったみたい」

「あぁー、うん。よく頑張った」

「沙耶ちゃん、それ褒めてる?」

 聖羅はもともと頭は悪くないし、皐月の一夜漬けの才能は前々から凄いと聞いている。だけど綾乃は少し勉強が苦手のようで、試験の方は毎回悲しい状態だったのを何度か見ている。


「まぁみんな受かったんだから良かったじゃない」

 これで高校浪人とかになれば、何ともやるせない気分になってしまう。

 取り合えず全員合格したお祝と称し、飲みかけのドリンクで乾杯しておく。

 その後受験の話や、お正月をどの様に過ごしていたかの話を終え、思い出したかの様に聖羅が、クリスマスに私と一緒にいた蓮也さんの事を尋ねてくる。


「蓮也さんの事? 前にも言ったけど、ホントにケーキ屋さんで偶然再会しただけよ?」

 別に嘘は言っていない。事実その通りの事だし、連絡先の交換をしたわけではないので、もう一度会えるかと言われると、難しいと言わざるをえない。

 ただ『SASHYA』のデビュー曲の歌詞を書く過程で、私は自分が抱いている感情を理解してしまった。流石に恥ずかしくて誰にも言うつもりはないが、それから妙に意識してしまい、何度も赤面することがしばしばあるのは内緒だ。


「そうなの? 見てた限りじゃ妙に信頼し合ってたみたいだし、お互い下の名前で呼び合ってたから、てっきり新しい恋でも見つけたのかと」

 ぶふっ。

 いや、まぁ、確かに下の名前で呼び合ってはいるが、それは私が最初に結城君を蓮也さんと認識してしまい、今更変えるのもなんだと思ったのであって。

「ふーん、まぁそういう事にしておいてあげる」

 私の説明になんとも納得がいかないご様子の聖羅さま。

 これで私のデビュー曲を聞かれでもすれば、一発アウトのからかいネタとなるのは間違いないだろう。


「沙耶、私からも一つ聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 聖羅からの質問が終わると、今度は皐月が質問を投げかけてくる。

「いいわよ、話せることなら答えるから」

 恋愛事情の事を流石に断るが、それ以外の事なら話せる範囲で話してもいい。

 私はなんでもいいわよ、皐月に笑顔で返す。

 すると向かいに座る皐月は、テーブルをまたぐように上半身を突き出してくるので、私達も互いの顔を合わせながら、皐月と同じようにテーブルの中央によせ、全員の顔を一か所に固めるようにする。


「沙耶って『SAHYA』だよね?」

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!

「な、な、な…」

 今なんてったー!!!!!??????

「もうさっきー、なに言ってるのよ。沙耶ちゃんが『SAHYA』なわけ…」

「沙耶? えっ、ホント?」

 私のあからさまに動揺する姿に、綾乃と聖羅が各々両手を口に当てながら、私の方を見て驚きの表情を向けてくる。


「うそ…、沙耶ちゃんが、うぐっ」

 綾乃が思わず声を出しそうだったのを、隣の皐月が口を塞いで回避する。

「沙耶…、あんたまさか…、いえ、そう考えると色々辻褄が合うわね」

「私に言わせれば、聖羅も綾乃もなんで気づいていないのか不思議だったよ」

 未だ私は一言も発していないと言うのに、3人の中では既に確定してる様子。

 ここはやはり、誤魔化しておくほうが賢明…っていうか、誤魔化しておかなければ色々ヤバい。主に恋愛感情駄々洩れで。


「や、やだなぁ。そんなわけないじゃない。あははは」

「沙耶、あんたホントに誤魔化すの下手よね」

「沙耶ちゃん、昔からこんなだった」

「普通に聞けばわかるじゃない」

 ダメだった……。


 結局そのあと洗いざらいしゃべらされました。しくしく。

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