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第19話 『夢への道筋』

「それじゃ今できる一通りの書類は完了ね。それにしてもご両親がいらっしゃらないとは思っていなかったわ」

 佐伯さんとの初の顔合わせから2日、あれから沙雪とも相談し、現在私達の保護者でもある叔父(大輝)さんにも連絡を入れ、「沙耶ちゃんが選んだのなら反対はしないよ」と了承も得られたので、改めて佐伯さんに連絡を入れた。

 すると年末にも関わらず今日来れないかと言うことで、再び沙雪とともに『Kne music』本社へと、足を運ぶことになった。


「その…今年のゴールデンウィークに事故に巻き込まれて」

 佐伯さんに連絡を入れたとき、契約の関係があるから親御さんも一緒に来れないかと言われたのだが、こちらの事情を話すと、それじゃ後日保護者の方からサインを貰ってきて欲しい、と言うことで落ち着いた。

「その事故なら私も知っているわ、あれがまさか沙耶さんだったなんて。大変だったのね」

「いえ、叔父さん夫婦が色々手助けをして下さったので」

 あの事故は連日テレビのニュースで取り上げられていたので、佐伯さんが知っていても不思議ではない。周防家の事は敢えて省かせてもらったが、母方の家系が複雑で、引き取り手がなかったのだと伝えておいた。


「それじゃ後は何か確認しておきたい事や、話しておかなければいけない事なんてない? もしよければ過去の交際関係の事なんかも、聞かせて貰えると助かるのだけれど」

「過去の…ですか?」

 なぜ『今の』でなく、『過去の』なのかがよく分からない。

 まぁ、『今の』は誰もいないんだけどね。


「沙耶さんの場合、顔を出さない方向でいくでしょ? 時々いるのよ、元カレだとか元カノだとかが行きなり表れて、昔の写真やありもしない暴露発言をしてくる子が。それも若い子ほど多いの、ホント困ったものね」

 なるほど、そういえばよく週刊誌やなんかで、過去に付き合っていた彼女がインタビューを受けている、なんて記事は何度か目にしたことがある。

 恐らくそういったものの事前対策のためだろう。

 するとやはり一樹の事も話した方がいいのだろうか。そう悩んでいると。


「お姉ちゃん、アレ言っといたほうがいいよ」

「アレ? アレってなに?」

 隣に座る沙雪が、私にやさしく肘打ちをしながら話しかけてくる。

 それにしてもアレってなに?

「もうお姉ちゃんは鈍いんだから! アレって言えばお姉ちゃんが作った曲の事だよ!」

「……あぁ」

 曲と聞いて一瞬ピンッと来なかったが、恐らく沙雪が言っているのは、一樹達にあげた『friend's』の事だろう。

 確かにレコード会社に所属することになるのなら、伝えておいた方がいいかもしれない。


 私は『Snow rain』に楽曲提供をした事を佐伯さんに伝えた。すると…

「まさかあの曲が沙耶さんの曲だったなんて。いやね、私達の中でも評価が高かったのよ。脅威の新人が出てきたって」

 どうやら『Snow rain』の登場は、『Kne music』にとって驚異的な存在として、取り扱われていたのだという。


「こっちは対抗するために、より良い新人アーティストの発掘しろって指令が出るし、やっと見つけた『SASHYA』は全然返事をくれなしで、こっちが頭を悩ませているのに、肝心の『Snow rain』は未だセカンドシングルが出ないから、いったいどうなってるんだって、噂になっているぐらいよ」

 佐伯さん、やはり私が警戒して返事を返さなかった事を、根にもっているのだろう。ところどころでわざとらしく私の古傷をえぐってくる。


「その節はホントにすみません」

「いいのよいのよ、ちゃんとウチに来てくれたんだから」

 やたらとニコニコしながら私をからかってくる佐伯さん。

「でもこれで納得したわ、彼らが次の曲を出せない理由が」

 佐伯さんはそう呟きながら、更なる問いかけを続けてくる。

「それで沙耶さんは彼らにもう曲は提供しないのよね?」

「そのつもりです。一度…というか5日ほど前に彼らから曲を作って欲しいと頼まれましたが、ハッキリと断りましたので。

 佐伯さんからはその辺りの事を詳しくと尋ねられたので、なるべく詳細に伝えていると、隣から沙雪が「お姉ちゃん、蓮也さんの事も伝えないと」とか言ってくるので、結局蓮也さんの事まで話す羽目になった。


「ふふふ、そう。沙耶ちゃんの片想いの人ね」

 話を聞き終えた佐伯さんは、ふふふと笑いながら、私の呼び方が沙耶さんから沙耶ちゃんに変わり、何やら嬉しそうにからかって来られる。

「蓮也さんとはそういう関係じゃありませんから!」

「あらあら、ごめんね」

 私が拗ねた様子をみせるも、どこか反省の見えない笑みを浮かべならが謝って来られる。

 それ、絶対面白がっていますよね!


「まぁ、冗談はここまでにして」

 やはりからかってたんじゃないですか! という言葉をグッと我慢し、佐伯さんの言葉を待つ。

「彼らが曲を出す前に、事前に連絡とかは無かったのよね?」

「無かったです。私が知ったのはテレビに出演していたときのテロップだったので」

 思い出すのは有名な生放送の音楽番組。

 いま考えると、あれが『SASHYA』の生まれるきっかけになったと言ってもいいだろう。


「それでお金…報酬の方も当然貰っていないわよね? 彼や向こうのレコード会社からも」

「それもないです。多分彼方のレコード会社の方は知らないと思います」

 先日聖羅から聞いた話では、新曲はまだかと催促されているみたいなので、恐らく一樹達は私が書いた曲とは伝えていないのだろう。


 それだけ聞くと佐伯さんは。

「報酬を貰っていないなら大丈夫ね」

「そうなんですか?」

「まぁ隠しておく方がいいでしょうけど、彼らから報酬を貰っていなければ、ゴーストライターと言うより盗作に近いでしょうし、向こうのレコード会社からもお金が動いていないんだったら、ウチが沙耶ちゃんと契約しても問題ないわ」

 なんだか良い様にとられている気がしないでもないが、佐伯さんが大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。

 私としても今更自分の曲だと主張するつもりもないし、一樹達も本当の事を言う訳もないので、お互い黙っていれば漏れる事もないだろう。


「それにしても沙耶ちゃんがあの曲をねぇ」

 一通りのすり合わせが終わったところで、改めて佐伯さんがニコニコしだす。

「なんだか楽しそうですね」

「それは楽しいわよ。まさかの大型新人が歌って曲が、実は沙耶ちゃんの曲で、その沙耶ちゃんがウチの会社に来てくれたのよ? この事実を知ったら(あおい)のヤツ、絶対悔しがるわ。ふふ、うふふ」

 言ってる事はよく分からないが、どうやら彼方のレコード会社に佐伯さんのライバルか何かがあるのだろう。

 若干気味な笑いに不安を感じてしまう。


「それじゃ大体の話はこんなものかな。他に聞いておかなければいけない事とかはない?」

「そうですね…、大体必要そうなのはこんなものです」

 沙雪の方もこれ以上はないようなので、契約の話はこれで終える。


「そういえば沙耶ちゃん、沙耶ちゃんって志望校はもう決めているの?」

 時間がちょうどお昼時だったので、場所を近くのレストランに変えて話をしていると、佐伯さんが思い出したかのように進路の話を振ってくる。

「はい、一応芸放を第一希望にしてるんですけど」

「なるほど、アイドルの道ね」

「いえ、デジタルミュージック科です」

 なにやらぶっ飛んだ内容を返してくるが、私が目指しているのはデジタル音源。間違ってもアイドルではない。


「あら残念。沙耶ちゃん容姿もいいから、そっちの路線でもいけそうなんだけど」

「佐伯さん、またからかっていますよね?」

 そもそも芸放には音楽科や演劇科はあれども、アイドル科なんてものは存在しない。

「結構本気よ? 『SASHYA』もいずれ全国ツアーをする日が来るかもしれないんだから」

「いや、流石に全国ツアーは。私学生ですし」

「まぁ、そうね。学業は優先させないとね」

 全国ツアーとなれば、流石に学校を休みがちになってしまう。

 先ほどの契約書にも、学業は優先させますと記載もあったし、佐伯さんからもその辺りは安心してと言われているので、心配はしていないが、流石に全国ツアーは学生には荷が重い。


「全国ツアーはその時が来たらまた考えましょ」

 いえ、私は顔出しするつもりはないので、多分そんな未来は来ないと思いますよと、心の中だけで返しておく。

「ちょっと話がズレてしまったわね」

 そう言うと、佐伯さんは改まって。

「それで沙耶ちゃん、沙耶ちゃんが芸放行きたいのなら、会社からの推薦が出来るんだけれどどう?」

「会社からですか?」

 突然の申し込みで思わず前のめりになってしまう。

 通常推薦枠は11月頃に締め切られる。私の場合、学費を確保出来そうになったのは、その後だったので、泣く泣く諦めたのだが、まさかここに来てそんな話が出て来るとは思わなかった。


「実はね、芸放ってうちの会社みたいに、色んなところが出資しているのよ。いわゆる未来への投資って考えて貰えたらいいわ」

 佐伯さんが言うには、芸放へは毎年結構な額を投資されているそうで、その見返りに特待生枠というのを、いくつか確保されているんだという。

「沙耶ちゃんの場合、メジャーデビューがそのまま評価として、試験を完全パスできるし、学費の方も会社が負担するから何かといいわよって、進めるつもりだったんだけど、沙耶ちゃんが希望しているのだったら丁度よかったわ」

 それは何とも嬉しい申し出だが、試験をパスできるって本当に大丈夫なんだろうか?

 そんな不安がどうやら顔に出ていたらしく、佐伯さんが。


「これが公立高ならそうは行かないでしょうけど、芸放は私立だからね。どちらかと言うと、訓練校みたいな扱いなの」

 私にはその辺りはよく分からないが、佐伯さんが言うのならそうなんだろう。

 聞けば面接だけはあるらしく、実は嘘ですという可能性は少ないだろう。

 私はその辺りもお願いして、後日書類を用意してくださるという事でその日は話を終えた。


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