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第1話 『噂の歌姫』

初めての方、お久しぶりの方、大変ご無沙汰にしております。

久々に気に入った物語が浮かびペンを取ったのですが、やっぱり書いてて楽しです!

時間的な余裕がそんなにあるわけではないのですが、ある程度定期的に更新していく予定なので

気に入ってくだされば最後までお付き合い下さいませ。

 ざわざわざわ、街中に響く都民達の喧噪。社会人だろうか? スーツに身を包み、足早に横断歩道を渡る多くの男性。その近くを歩く二人組の女性は、今から楽しむのか、ランチの話題で盛り上がり、また学生風の少女達は、どこかの店から流れてくる音楽の話題で盛り上がる。


 20XX年の日本では一大音楽ブームが襲来しており、中学・高校生でデビューするのは珍しくもなく、下は小学生アイドルから、長年音楽業界を支えてきた、プロのミュージシャンまで幅が広い。

 もっとも視聴する方も、これだけ多くの音楽に触れていては飽きも早く、その多くは一発屋として忘れ去られることもしばしば。まぁ、彼ら彼女らもメジャーデビューしたからにはプロの一員、ファン達の期待を裏切ってしまえば、早々消えていく事も仕方ないのだろう。


 これはそんな世界を精一杯駆け抜けていく、少年少女達の物語。




「ねぇ、これって『SASHYA(サーシャ)』の新曲?」

「そう、今月から始まるドラマの主題歌」

「今回もめっちゃいいじゃん、あとでスマホに落とさないと」

 街の商店から聞こえてくるのは、先月デビューしたばかりの女性シンガーソングライター『SASHYA』。一時期Vtuber(ブイチューバー)で話題になった一人の女性で、自ら書き上げた楽曲を配信を通して歌ったり、視聴者達と一緒に曲の歌詞を考えたりと、エンターテインメント性を含めた動画として、何かと注目を浴びた人物である。


 その女性が作る曲はまるで天使のメロディーのように優しく、彼女が描く歌詞は人々の心を魅了し、白を基調としたイラスト《その姿》から、『天使の歌姫』などとも呼ばれている。

 もっとも清楚な『SASHYA』のイラストとはかけ離れ、中の人が演じる『SASHYA』は天真爛漫、視聴者達と笑い合うこともあれば、会話の節々から見え隠れする表情の起伏も、彼女が歩んできた人生が、決して平坦ではなかったと感じさせるのも、彼女が持つ人柄なのかもしれない。

 そんな彼女が一転して『SASHYA』として歌う曲は、誰しも聞き惚れてしまうというのだから、人気が出るのもある意味必然と言えるだろう。


「そういえば『SASHYA』ってまだ顔を出していないよね?」

「聞いた話じゃテレビ出演とかNGだって話だよ」

「ライブとかしてほしいなぁ」

 話題の『SASHYA』は元がVtuberという事もあり、デビュー当初から顔出しを一切してこなかったことでも有名。

 最近じゃ人物像に神秘性を持たせたり、本人の希望からも顔出しを控える歌手は少なくなく、後に事務所の意向で、ツアーや番組の企画で初の顔出し! なんて話はよくある事。

 少女達の話題は『SASHYA』がどのような人物かで、次第に話が盛り上がっていく。

「『SASHYA』の素顔かぁ、案外平凡だったり?」

「ないない、あの歌声だよ? 絶対美人だって」

「いやでも、前に彼氏はいないって言ってたよ?」

「普通動画配信で本当のことは言わないって、いても事務所が止めているから」

「それもそうか、あははは」

 街中を少女達は楽しく談笑しながら、信号待ちをしていた一台の車の横を通り過ぎていく。




「佐伯さんも好きですね」

 街の声を聞くためにわざと窓を開けたマネージャーに対し、私はなにげない日常会話を投げかける。

 以前本人から聞いた話によると、自分が育てた歌手達の歌が、街中から自然と聞こえてくるのが、最高の楽しみ方なのだと言っていた。


「当然でしょ、私の最高の趣味なんだから」

 彼女の名前は『佐伯 香(さえき かおる)』、最近巷で話題になっている『SASHYA』のマネージャー。

 先ほど通り過ぎていった彼女達も、まさか絶賛の話題で盛り上がっていた『SASHYA』のマネージャーと、その本人が間近にいたとは思わないだろう。


 今から半年ほど前、新星のVtuberとして騒がれていた一人の少女が、有名レーベルからメジャーデビューを果たした。そのVtuberを熱心にスカウトしたのが佐伯さんで、佐伯さんの熱意に根負けしたのがこの私。

 元々は諦めきれなかった夢を、妹の何気ない一言で始めたVtuberだったが、まさか自分の曲と歌声が、街中で平然と流れているのは未だに信じられないでいる。


「そういえばまだ伝えてなかったわね、入学おめでとう」

「ありがとうございます。正直今年に入ってからバタバタだったので、憧れの学校だというのに、感傷に浸る余裕もなかったんですけどね」

 今年の初めから現在にかけて、本当に忙しすぎた。

 年末に勧誘され、メジャーデビューが正式に決まってからは、ボイストレーニングにデビュー曲の製作、更に今月から始まるドラマの主題歌のレコーディングと。卒業式を無事に迎えられたのは良かったが、普通の中学生からいきなりこれでは、私でなくても参ってしまうというものだ。

 幸い高校受験に関しては、所属事務所から特待生という形で、試験をパスできたことには感謝している。


「そういえば例の元彼君のバンド、ようやく新曲を出すらしいわよ」

 信号の色が変わり、走り出すと同時に窓を閉めながら、思い出したかのように教えてくれた。

 それにしても元彼君って言い方…。

「佐伯さん、その元彼って言い方はちょっと…」

「あら、すでに別れているのだし、今じゃ新しい彼氏もいるんだから立派な元彼じゃない」

 全く悪びれる様子も見せず、むしろからかうような笑顔すら向けてくる。そんな彼女が実は事務所からも期待されている敏腕マネージャーだと、誰が信じるだろうか。


「ですから、蓮也(れんや)さんとはそんな関係じゃないんですって」

「あら、私は蓮也君だなんて一言も言っていないけれど?」

「ぐぬぬ」

 してやられた…。うふふと嬉しそうに笑う佐伯さんに、抗議の意味も含め頬を膨らませながらキリリと睨みつける。

「そんなに怒らないでよ、別に全く好意がないってわけじゃないんでしょ?」

 もうどうしていつもこうぐいぐい来るのか。年長者でもあるこの人に勝てる気がしない私は、早々に白旗を上げる。

「それはまぁ、その気が無いわけじゃないですけど…ごにょごにょ…」

 自分で言っておきながら照れくさそうにする私に満足したのか、佐伯さんはうふふと再び笑いながら…。


「別に事務所として恋愛は禁止していないし、個人的な『SASHYA』のファンとしては、沙耶(さや)ちゃんの恋愛事情は嬉しいものよ。歌詞にも箔が付くわけだしね」

 一瞬またからかうのかと覚悟をしていたものの、出てきた言葉は歌詞の話。いったい何の事だろうと疑問が顔に出ていたのか、佐伯さんは続けて説明してくれる。


「沙耶ちゃんの作る曲と歌詞はどれもいいんだけれど、お姉さん的には、もうちょっと甘酸っぱい恋愛模様が出てくれた方が嬉しくてね。この年になればこうもっとお砂糖どばどば! って感じの甘い恋心を書いた歌詞が聴きたい訳なのよ。若人にはまだ分からないかなぁ」

 なんだか歳を取ったお母さん的な発言だが、佐伯さんの年齢はまだ20代半ば、恋愛事情のことは教えてくれないが、それでもモテない容姿では決してない。


 それにしても歌詞かぁ。言われてみれば私が今まで書いてきた歌詞は家族愛や友情、こんな世界があればいいなの、空想世界を描いたもの。全く恋愛の詩が出てこないというわけではないが、それらはあくまでも自分が創造した恋愛事情に過ぎない。ちなみに例の元彼とは恨みこそあれ、甘酸っぱい思い出など皆無に等しい。


「分かりました、ご希望に添えるかどうかは分かりませんが、頑張ってみます」

「うふふ、よろしくね」

 その「よろしくね」という言葉の前に出た笑みに、別の意味が含まれていそうだが、そこはあえてスルー。私はこの後3番目の曲を作る事になっているし、夏休み前にはアルバムの発売も控えている。

 そんな状況の中で学業と歌手活動と恋愛事情の同時進行なんて、とてもじゃないが許容範囲を超えてしまいかねない。


「そういえば私、元彼くんと蓮也くんとの恋バナは聞いてるけど、『SASHYA』が生まれた経緯って聞いてなかったわ。ちょうど目的地までまだ時間もあるのだし、聞いてもいいかしら?」

「『SASHYA』が生まれた経緯ですか? 面白くないですよ?」

 元彼と蓮也さんの話はあえてスルー。私だって話したくなかったのに、事務所に所属する過程で、どうしても伝えておかなければならないことがあり、渋々話すことになってしまった私の恋愛事情。

 それ以来佐伯さんのからかいのネタとなってしまった。


「いいじゃない、時間は十分あるんだし」

「まあいいですけど、結構長くなりますよ?」

 目的地は聞いているけど、それがどこにあるのかまでは知らない。

 佐伯さんが時間があると言うのだから、まだもう少し遠くの方なのだろう。


「いいわよ、沙耶ちゃんの事なら何でも知りたいわ」

「分かりました、じゃ少しだけ」

 私はそう前振りをしてから話し出す、あれはちょうど一年ほど前の話…


ここまで読んで頂きありがとうございます。

久々の復帰作だったので辿々しい部分もあるかもしれませんが、良かったと感じて頂ければ応援してもらえると幸です。


次話から本編に入ります。

時は遡り1年と少し前、中学3年の春からスタートとなります。

『SASHA』誕生の秘話を楽しんで頂けるとうれしいです。

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