消えるJPEG、残る想い
空が、色を取り戻していく。
ノイズで満ちていた世界が、透き通るような青に染まり、崩れていたビル群も、まるで修復ツールが走ったように再構築されていった。
リレイヤは胸元に手を当て、その中で光る小さなファイル名を見つめていた。
「HARUKA.PSD」
「…ありがとう、遥。」
その声は、どこか震えていて、それでも強くて、決意に満ちていた。
その前に、最後の敵――PNG姫が、なおも佇んでいた。
「あなたたちの想いなど、所詮は非可逆の歪み。消し去るべきノイズ…」
姫はそう呟き、再び手を掲げる。
だが、その瞬間――
リレイヤの周囲に、かつて遥だったデータの粒子が舞い上がった。
それは、彼女のPSDレイヤーの中に溶け込み、ひとつの力となって形を成していく。
「あなたの中に…まだ彼がいる。」
姫の目が、かすかに揺れた。
「私はもう…消されない。彼と、私で、未来を描く。」
リレイヤはゆっくりと手を掲げた。
掌から放たれた光は、無数のデータを束ね、世界を包み込む。
「再構築モード:永続保存」
透明な光が空間を満たし、PNG姫の刃を無力化していく。
「なぜ…そんな力が…」
姫が力尽き、消えかける中で、リレイヤはそっと囁いた。
「これが、私たちの愛だから。」
そして――静寂が訪れた。
壊れかけた街が再生し、ノイズが消え、データは正常化された。
リレイヤは空を見上げた。
「遥…私は、あなたを忘れない。たとえ非可逆の記録であっても、私の中で、あなたは永遠に在り続ける。」
彼女の胸元で光る「HARUKA.PSD」が、小さく瞬いた。
⸻
エピローグ
リレイヤは街の片隅で、ひとりそっと微笑んだ。
掌には、もう触れることはできないはずの温もりが、確かに残っていた。
その手で、新しい世界を描いていくために――。
終