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「失われたRAWデータの記憶」

「遥、しっかりして!」

リレイヤの声が遠くで響く。


霞む視界の中で、PNG姫は後退し、傷ついた体を光の粒子で修復しながら、冷たい瞳でこちらを見下ろしていた。

「非可逆が可逆に抗うなど、秩序への反逆…許されない。」


でも、そんな言葉はもう届かない。

俺の中で、何かが溶け出していく感覚があった。

――消えていく。消えてしまう。

だが、その瞬間、眩い光が脳裏を貫いた。


過去の記憶が蘇る。

――大学の写真サークル。カメラを手にした俺。

――撮影した「彼女」の笑顔。

――RAWデータを現像する夜、ディスプレイに浮かぶ「PSDデータ」の名前。

――そうだ…リレイヤ…君の名前は……


「……君は、あの時、俺が撮った写真の中にいたんだ……!」


目の奥が焼けるように熱い。

手のひらに、失われたはずの「RAWデータの光」が宿る。

「佐伯…あなた、もしかして…」

リレイヤが、震える手で俺の胸に触れた。


「私を、元に戻せる?」


「わからない…でも、俺は――」


その時、PNG姫が最後の一撃を放つ。

「消えなさい、JPEG!」

空間を裂く白銀の刃が、リレイヤへと向かう。


「やめろ!!!」


俺はリレイヤを抱きしめ、叫んだ。

「再構築モード、起動!!」

ウィンドウが炸裂し、全てのデータが眩い光に包まれる。


――そして。


「佐伯…」

気がつくと、そこは真っ白な空間だった。

目の前に立つリレイヤは、もうあの儚いPSDではなかった。

ひとつに統合された、完全な姿のPSD少女。

彼女は涙を浮かべ、そっと微笑んだ。


「ありがとう…遥。」

その声は、どこまでも優しかった。


しかし――俺の体は、もう薄れていた。

「俺は…もう…」

「だめ、行かないで!」

リレイヤが必死に手を伸ばすが、俺の輪郭はデータの粒となって散っていく。


「大丈夫だ…君が…生きてくれれば…」

笑おうとしたが、もう声も出なかった。


――でも、その時、彼女の中で何かが再構築された。

彼女の胸元で光る、新しいファイル名。


「HARUKA.PSD」



次回予告!

第7話「消えるJPEG、残る想い」

JPEGの俺は消えた。でも、この想いは、リレイヤの中に残る。

最後の決戦、PNG姫との最終バトルが今、始まる――!

データの世界


データ界(The Data Layer)

•人間が扱うデータが流れる、見えざる次元世界。

•各ファイル形式が人格を持つ存在として生きており、データ容量や特性に応じて「身体能力」や「寿命」「感情の特性」も異なる。

•この世界には「データ圧縮の法則」「互換性の法則」「バージョンの呪縛」など、複雑な物理法則が存在する。



主要種族


JPEG族(ジェイペグ族)

•データの損失を許容して圧縮する種族。生まれながらに「欠け」を抱え、過去の記憶や細かいディテールが薄れていく宿命を持つ。

•しかし、軽快で汎用性が高く、多くの種族と交流できる「社交的な適応力」がある。

•圧縮率が高いほど「身体が壊れやすく」、精神の破綻を招く。

•主人公(俺)はこのJPEG族の一人で、記憶の断片に「人間だった頃の意識」が残る稀有な存在。


PSD族(ピエスディー族)

•レイヤー構造を持つ高解像度な種族。複雑で繊細な「感情のレイヤー」を持つため、心が豊かで表現力に富むが、同時に「重たく繊細」で心が折れやすい。

•レイヤーを他者に見せることは「魂を覗かれる」に等しいため、恋愛においては極めて慎重。

•ヒロインはPSD族の姫君で、特に美しい「アルファチャンネル(透明感のある魂の核)」を持っており、多くの者に羨望される存在。

•JPEG族とは本来交わるべきでない(「非可逆」ゆえに統合できない)とされているが、主人公に惹かれてしまう。



GIF族(ギフ族)

•動きのある種族で、感情表現が「繰り返しのループ」で表れる。

•感情の持続力が高く、執念深く粘着質。特に「嫉妬」や「復讐心」を強く持つ個体が多い。

•多くのGIF族は「無限ループ」に囚われ、次第に精神が摩耗して壊れていく。

•敵対するGIF族のリーダー(ラスボス的存在)は、主人公とPSD族ヒロインの関係を「不完全で不公平」と憎み、二人の仲を裂こうとする。

•実はGIF族は、かつてPSD族に敗北し「動きのある表現力」を奪われた歴史がある。



世界のルール


データの法則

1.非可逆の呪い(The Irreversible Curse)

•JPEG族は一度失ったデータを二度と取り戻せない。

•愛や記憶もまた「圧縮」され、少しずつ失われていく。だから恋が切ない。

2.データ統合の禁忌

•PSD族とJPEG族は本来「合成」できない。無理に統合すると「アーティファクト(ノイズの怪物)」が生まれる。

3.バージョンの壁

•種族ごとに「世代」があり、古い種族は新しい種族と完全な互換性を持たない。

•主人公は「古いJPEG規格(Baseline JPEG)」、ヒロインは「最新PSD(CC版)」であり、本来ならば結ばれることはできない運命。

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