第二章 いきたいところ
1
「なにボケッとしてんだよ!」
私はハッとした。
「気持ち悪いって言ってんの!聞いてんのかっ。」
「消えろや!」
このクラスメートの名前は原海渡。毎日私に罵詈雑言を浴びせる。
「やめて…」
私は小さな声で海渡に訴える。
「はぁ?声が小さくて聞こえねぇんだよ!」
海渡はそう言いながら私の車椅子を思い切り蹴った。少し車椅子が揺れる。
賑やかなクラスの中、みんなは私と海渡の方を見ているが誰も私に声を掛けようとしない。むしろ笑っている人もいる。
しかしその時、前のドアから先生が入ってきた。同時にチャイムがなった。
「よぉしホームルームはじめるぞ。」
先生がそう言うと海渡は「チッ。」と舌打ちをして自分の席に座った。
2
放課後、静かに雪が降っている。
私は下校途中にあることを心に決めた。
(もう学校に行きたくない。辛い。今日こそお母さんに相談してみよう。)
勿論、いつも相談しようと思っていた。しかし、
(お母さんを巻き込むのは嫌だ。)
と毎回思い、相談できていなかった。
ただ、今日こそは相談すると決めた。夜ごはんの時に絶対伝える。そう心に決めた。
3
「こころ。ちょっとこれ持ってって。」
お母さんはそう言いながら、しょうが焼きが盛られたお皿を私に渡してきた。
「わかった。」
今日の夜ごはんは私の好きなしょうが焼き。
「いただきます。」
私はお母さんと机を挟んで座った。
「おいしい?今日のごはんどんな感じ?」
お母さんはいつも私に夜ごはんの感想を聞いてくる。
「おいしいけどちょっとしょっぱいかな。」
私は正直に答えた。
「そう?塩の量は気をつけたんだけど。」
お母さんは呑気にそんなことを言っている。
その時、私は覚悟をするつもりで口を開いた。
「お母さん、ちょっといい?」
私の心の中では(なんて言われるかな?)という不安と(助けてほしい…)という思いが拮抗していた。
「どうしたの?こころ。」
お母さんは聞いた。
「私、いじめられてるの。学校で。」
私は思いきって言った。
「…」
お母さんは黙った。
空気がドッと重くなり、しばらく沈黙が続いた。
少ししたらお母さんが口を開いた。
「…どんなことをされてるの…。」
「車椅子を蹴られたり、机に落書きされたり、悪口も言われる…」
お母さんは聞いた。
「辛い…の…?」
私は一言答えた。
「辛い。」
すると、お母さんは静かに瞳を濡らした。
そして、こう言った。
「ごめんね。気づいてあげられなくて…。」
お母さんは机を回って私の隣に来る。
そして、私をギュット抱きしめる。
私もギュット抱きしめる。
そして、お母さんは繰り返す。泣きながら、繰り返す。
「ごめんね。ごめんね。ほんとにごめんね。」
私はすぐには言葉が出なかった。
でも、すごく嬉しかった。お母さんが私のことを愛してくれていることを知れて嬉しかった。
そう感じていると私も涙が出てきた。
すると、お母さんはそっと私から体を離して、私の肩に手を置いた。そして、涙を流しながらこう言った。
「何かしてほしいことはある?」
私は答えた。
「行きたいところがある。」
こんにちはm(._.)m鋤沢輝と申します。
この作品は僕のデビュー作になります。
第二章はいかがだったでしょうか。
もしよければ感想 • 意見お願いします。
誤字 • 脱字などのミスも指摘いただけたら大変ありがたいです。
質問はできる範囲で答えたいと思います。
第二章では、こころの今を描きました。どうやら困っているようです。さて、最後の一文「行きたいところがある。」とはどこのことなんでしょう?
第三章では、そんなこころの「行きたいところ」に行きます。それはどんなところなのか。そして、そこからどんな展開が待っているのか。
ぜひ第三章も見ていってください。
よろしくお願いします。