そこは不思議な喫茶店でした。
この作品は、現実の世界と架空の世界を文字にしてみました。言葉は拙いし、所々に方言もあります。時間がある方、暇つぶしに良ければ読んで見てください。面白かったり、共感していただければ、それだけで嬉しいです。。
2023年3月。私は長年勤めていた職場を退職した。暦上では春だが、東北はまだまだ寒い。時折陽が射すけどすぐに曇り雪が舞っている。
「ストーブ付けても寒いなぁ」
炬燵にごろりと横になり、読みかけの本に手にした時だった。スマホがなる。
「あぁ…あの人かな?」
この時間になると決まって電話してくる人。スマホの画面には、”母さん”と表示されている。
「今日はちょっと出たくない…少しゆっくりしたい」
しばらくスマホが鳴っていたが、諦めたのかスマホは静かになった。
退職して、日長1日を本に費やしている。一度、本に夢中になりすぎて、夕飯の支度すら忘れ、ツレ…いや主人に呆れられた。その日はインスタントラーメンを食べてまた本に齧り付く。
本を読んでいる私の横でまたスマホが鳴り出した。
「またか…」
読みかけの本に栞をはさみ、スマホを手に取り画面を覗く。画面には”父さん”と出ている。
「珍しいなぁ…はい?」
電話に出た途端、切れてしまった。
「相変わらずだな…まぁ用があればまた…」
と”ピコピコ♪”とメールが届く。
「親戚からお菓子届いたから持ってけ。」
父からのメールだ。絵文字も無いそのメールでも何故か嬉しい。
「ありがとう。今度取りに行く。」
メールを返して、スマホをテーブルに置くと、炬燵から出て、コーヒーを淹れるため、台所に向かった。台所には100円均一で買った時計がある。
「また狂ってる。」
コーヒーを淹れてる間、狂った時計を見ながら、
”電池は、2、3日前に変えたばかりだし…炬燵に入れたら直るかな?…”このアパートは角部屋で北向きなのか、冬は極寒。下手したら給湯も凍る程…。
コーヒーを淹れたマグカップを炬燵のテーブルに運んで、また台所に戻る。時計を手にするとヒンヤリと冷たい。いそいそと炬燵に時計と共に滑り込む。台所で冷えた素足を炬燵の温かい空気が優しく包み込んだ。コーヒーを1口飲み、テレビを付けた。
「今日の〇〇市は…」
聞き慣れたアナウンサーの声が部屋に響く。
「このアナウンサーの声いいなぁ…落ち着く…。」
ぼんやりとテレビを見ていると、またスマホが鳴る。スマホを手にし画面を見てみた。主人からのメール。
「今から帰ります。」
何時もより早い帰宅を知らせるメールに”あぁ…今日、出張で直帰だから何時もより早いんだ”…。
テレビの時間を見ると、”16:20”となってる。
「了解。気を付けてね。」
メールの返信を済ませ、またテレビを見ながら、”今日は魚焼くか。後は昨日の煮物の残り…”主人と2人暮らし、料理は、沢山作らずに済んでいる。炬燵に入れた時計を出した。カチッカチと秒針が鼓動を取り戻す。
「やっぱりこの時計、人?」
炬燵のテーブルに時計を置いてしばらく眺めていた。今日は時計と本で終わり。