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ごみを食べるもの

作者: 堆烏

空に瞬く光る星。

夜空に散りばめられた死に際のゴミの、なんと美しきことか。


波に打ち寄せられた海岸の

丸く削られた石は、誰に見せるわけでもなく輝いている。


すごいなぁ。綺麗だなぁ。

何を食べたらあんな綺麗なモノになれるのかなぁ。


小さな少年は目を輝かせながら呟く。


日は落ちて夕暮れ。表通りを一つ横行って、そこから曲がって路地裏の、彼を見るものはそういない。


食べるだけでは綺麗になんてなれないぞ


あきれた顔の猫は泣く。

それもそうだねと少年は呟く。


さぁ食えよと鴉が鳴く。

それもそうだねと少年は嗤う。


つつき合うはごみ捨て場。

ごみの味は、人間が捨てた味。


血に染まる夕焼けは、いつのまにやら闇に沈んでいた。



少年が起きる朝は、特に決まった時間はない。騒音やごみの臭いなんてもので睡眠を妨げられるなんて、少年には遠い過去。人間に見つかって叩き起こされるか、あきれ顔の野良の猫に、そろそろ起きろと水をかけられるかで起きることがしばしばだ。


今日の起床時間は朝の5時。

叩き起こしてきたのは人間の少女だった。


『たまにあなたを見かけるの。いつも思ってたけど一つ聞いてもいい?』


寝ぼけまなこで首肯する少年。まだ目覚めていない世界で首を傾げる少女。


『なぜ、あなたはごみを食べてるの』


人間が捨てたものを食べるのが僕だからだよ。



紫の光と赤の光は特別だって誰かが言っていた。あれを教えてくれたのは誰だっただろうか。人間だったか、鴉だったか。それを越えると人間は光を見えなくなるとか、ならないとか。

見えないものはないものとして捨てられる。見たくないものも、なかったものとして捨てられる。


悲しい光なんだね、と少年は嘆く。

僕くらいはちゃんとその光を見てあげたいな、と少年は思う。


今日も今日とて、街をゆく。美しいものを探して、捨てられたものを見つめて。


どこにも行けない僕らは、けれどどこにも存在しちゃ行けないほどの僕らではない。ゾーニングというヤツらしい。誰かの目に入らなければそれでいい。それまでは生きていることを許される、と友達の猫は言っていた。確か名前はシュレディンガーだった。頭は良さそうだったけど、毒の入った餌を食べて死んだ。


地平線から捨てられる際の夕日は、いつも憎らしいくらいに血に染まることもあれば、神々しく黄色く染まる時もある。気が散乱したり、気分が屈折したりすることが原因だとか。捨てられたものを食べる僕は、捨てられるやつらの気持ちまでは完全には分かってやれない。


もちろん、ごみを食べるヤツの気持ちが分かるかと言われたら、正直僕も分からない。


少女は今日も僕を訪ねる。

そして少女は今日も僕に尋ねる。


『ごみって美味しいの?どんな味がするの?』


ニコッと笑って歩き去る。それが僕にできること。


味という概念を、僕は知らない。

美味しいという存在を、僕は知らない。



それは垂れ桜を見た日だった。

春という素晴らしい季節を愛でる少年。

春風によって散らされる桜吹雪。花見の時期からは少し遅れた、そんな景色を少年ははしゃいで眺めていた。去年までは。


散り際って、こんなにも美しいんだね、と。泣きそうになりながら少年は笑う。


横には少女が寝そべって一緒にその桜を眺めていた。

少年は愛おしそうに少女の顔についた桜を撫でる。何日も食べていないのか、痩せ細った体躯。弱々しく微笑む少女は、桜のように美しかった。


『捨てられたごみをあなたは食べるのならば、どうか私を食べてくれない?家族に捨てられ、もう死にそう。どうせ死ぬなら、最後はあなたに食べられてしにたいの。』


さぁ食ってやれよと鴉が泣く。

それもそうだねと少年は嗤う。


ちなみに食べても綺麗になんてなれないぞ


あきれた顔の猫は鳴く。

それも知ってると少年は呟く。



何を食べたら君はそんなに綺麗に泣くことができるんだろう。

きっと僕には分からない。

でも、君の味は、君の味だけはこれからも忘れることはないだろう。


一滴残らず、一片も残さず、哭きながら吐きながらも、少年は喰らい尽くす。

その姿が見えなくなっても、その声が聞こえなくなっても、自分のなかにだけは存在していると言い聞かせながら。


骨だけは、二人で眺めた桜の木の下に埋めた。二人の思い出の場所だから。初めて会ったごみ捨て場を思い出の場にしても良かったけれど、ちょっと彼女に相応しくないと思ったから。




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