6-ションディキュート
「ここがションディキュート。聞いてたより都会だった」
領都ションディルキュート。3階建ての建物が並ぶ住宅街を2人は歩いていた。
「道路は石畳だし、外壁だってあるし、ちゃんと街なんだね」
「どんなところって聞いてたの?」
「森と山」
「バカにしすぎじゃない?」
「確かにそうだね。でも、人だかりは少ないからやっぱり田舎だね」
歩いて商店が並ぶ大通りまで出たがそこでも人がぽつぽつと少し歩いている程度だ。
「帝都はこの4倍はある道に人がぎゅうぎゅうになるほど歩いているからね」
ナナリエーラは驚いた。自分にとってはここは大都会なのだ。しかし、それより大きな街があるなんてナナリエーラの世界では検討もできなかった。そんな街から見たら自分の領地なんて本当に山と森だけだ。
アルはナナリエーラは背負いながら店へと入る。飲食店だ。忙しいお昼時は終わったのだろう。店の中は数人の客がいるだけだった。
「遅いけど昼食にしよっか」
アルはナナリエーラを席に座らせ、反対側の席にアルも座る。
すぐに店員はやってきた。
「ソーセージは焼きますか、煮ますか」
「焼いたので」
「スープはつけますか」
「うん、ありで。あと、皿とフォークも2人分お願い」
そう言うと店員は奥へと下がっていった。
「今のが注文?」
「こういう食堂はメニューが日によって決まってるんだよ。それに、パンが皿替わりに出てくるから皿も頼まないといけない。あ、これ暇な時だけなんだけどね」
店の奥から視線を感じる。
「気にしない、気にしない。貴族がこんな店に来ることなんてないんだから。ごめんね、そんないっぱいお金持ってるわけじゃなくて」
「生きれさえすればなんでもいいから」
しょうじき食欲はない。でも食べないといけないのだ。生きるためには。だから食べるものがなんだろうが、どこだろうが気にしなかった。
出てきた食事は黒パンと焼いたソーセージと冷めたスープだった。
「いただきます」
「ありがと」
アルは店員にお金を渡す。
「聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか」
「おすすめの宿教えてほしいの?」
「えー、ホテルションディーなどはどうでしょうか」
ナナリエーラはその単語に反応した。確か、一昨日泊まったホテルで、自分のお披露目があった会場だ。アルはナナリエーラが反応したことに気づき、聞いてくる。
「知ってる?」
「お披露目をしたところ」
「絶対高いやつじゃーん。無理無理。もっとグレード下げていいから、最底辺とかはダメだけど。安くていいホテルない?」
「えーと」
店員はアルの質問に答えられず目が右往左往している。そんななかナナリエーラはもくもくとご飯を食べていた。
「流石田舎、よそ者への警戒心が高いな」
「え?」
アルの突然の発言にナナリエーラはパンを食べる手を止める。
「ま、小汚い恰好の男が貴族の幼女を連れてるんだもん。人さらいとか警戒するよね。逆によく門を通れた」
アルがそう言うと店のドアが開き、革鎧をきた兵士が5人飛び込んできた。
「ちょっと、門まで来てもらおうか。抵抗すればわかるな?」
「はいはーい」
「待って、この人わたしの護衛です」
「そういうことだからさ、お縄にはつくから少し待っててもらっていいかな。具体的に食べ終わるまで」
「取り押さえろ」
アルを連れて行こうと兵士たちがアルの両腕を掴む。しかし、それでもかまわずアルはご飯を食べた。アルの腕を抑えきれず兵士の体がぶらんぶらんと揺れている。
「君も早く食べてしまって」
「・・・・・・はい」
アルを捕まえようとする兵士をもてあそびながらもくもくとご飯を食べていくアル。ナナリエーラは兵士がかわいそうと思いながら自分の食事を進めていった。
「よし、行くよ。いざロードの元へ」
「「「はあはあはあ」」」
食べ終わり連行される気満々のアルと疲れ果てた兵士たち。異様な光景だった。
「何の騒ぎだ!」
高く凛とした女性の声が響いた。全身に鎧を纏い、髪は後ろで一つにまとめた女性。騎士だ。
「やった。また面倒が減った。ほら、名乗って」
アルの考えていることがわからなかった。ただ、それでもアルに催促された通りナナリエーラはスカートを摘み、腰を少し下げて名乗る。
「バロン・アルボンドゥルグが娘、ナナリエーラ・アルボンドゥルグです。此度はロードへお伝えしたいことがありここへ訪れました」
「貴族の子女が誘拐されていると報告があったが」
「それは違います。この方はわたしの護衛です」
「彼女の父親から任されたのです。案内お願いできますか?」
「わかった。ロードの元へ案内しよう。ただし、案内するのはナナリエーラ様だけだ。お前は門で待っていろ」
「了解です」
ナナリエーラは女性騎士に連れられ城まで来た。来る途中本当に誘拐されていなかったのかと何度も聞かれた。正直うっとおしくなったのであったことを少し話した。
「アルボンドゥルグ領は滅びました」
「え?」
「今日はその報告をしにここまで来たのです。生き残りはわたしだけです」
このことを言ったからだろう。ロードとは待つことなくすぐに面会ができた。
「アルボンドゥルグ嬢。何があったか聞かせてもらおう」
2日前にあったロードが面会室に入ってくると、ナナリエーラの前に座って挨拶も省略して聞いてきた。
「昨日、アルボンドゥルグ領に獄烙が現れました。それに村は焼かれ、父と領民は命を落としました。村を焼かれた後は獄烙はどこかへ飛び去って行きました」
「なんと、獄烙が!?」
ナナリエーラはアルに言われたことをそのまま言った。アルは獄烙がナナリエーラが召喚したこととアルが撃退したことを隠し、突然訪れ、どこかへ行ったことにするらしい。
「その後騒ぎに駆け付けた冒険者に父が命じたのです。わたしをここへ連れていくことと、ロードにこのことを伝えることを。その命令を出した後父は命を引き取りました」
「すぐに騎士たちに領内を巡回させろ。それと、皇室と周辺ロード、バロン達にも連絡を」
「はっ」
一人の騎士がロードからの命令を受け部屋を出て行った。
「アルボンドゥルグ嬢、よく伝えに来てくれた。それで、被害の状況はどうなっておる」
「わたしの屋敷のある村はすべて燃えました。もう一つの村のほうは被害はないと思います」
「そうか。つまり、バロンは自身の領地を守れず、家族は逃げ、敵をみすみす逃がしたと」
・・・・・・ん?
含みのある言い方が気になった。何か雲行きが怪しい気がする。
「貴族である以上、自身の領地を守るのは義務だ。そのため、アルボンドゥルグ嬢は貴族失格となる。責任をとってもらおう」
「せきにん?」
「其方はアルボンドゥルグ領滅亡の罪として刑に処す」
・・・・・・どうゆうこと?
「剣を」
「こちらに」
隣にいた騎士がロードに剣を渡す。
・・・・・・わたし殺されるの?
「ナナリエーラ・アルボンドゥルグ。其方を領地滅亡の責で処刑する」
ロードが剣が振るわれた。わたしの首元めがけて振るわれる。
「生きたい」
ナナリエーラは抵抗などできず、それしか言えなかった。