5-冠位十三階位
「じゃあ、ションディキュート領都へ行こっか」
煤だらけの服からロードと会っても恥ずかしくない服装に着替えたナナリエーラはアルに背負われる。
「ねえ、あなたの名前何て言うの?」
「人に名乗るときはまず自分からと習わなかった」
「もう知ってるでしょ」
「知ってても、自己紹介はすべきだよ」
そう言って、少年はナナリエーラを降ろす。ナナリエーラは顔を会わせず下を向いて言った。
「ナナリエーラ・アルボンドゥルグよ」
「貴族の挨拶ってそんなんだっけ?」
・・・・・・イラッ。
「ごめんごめん。でも、ロードに会う時は態度を直してね。その態度じゃ不敬罪に問われるかもしれない」
「そうね。ロードの前では気を付けるわ」
「領都に入ってから気を付けてね。僕の名前はアル。家名はないよ。殺し屋をやっている」
「!?」
「知っての通り、世界中の子どもたち、いや世界中の人たちの恐怖の対象魂喰です」
「やっぱり人を喰べるんじゃない。人殺し」
「喰べないよ。殺しはしてきたけど」
「殺し屋なのにどうしてわたしを生かしてくれるの?」
「殺し屋だからって好きで人を殺すんじゃないよ。殺ししか生きる術を知らないから殺すんだよ」
アルはナナリエーラの顔を覗き込む。目があった。
「!?」
ナナリエーラはびっくりし、数歩後ろに下がる。
「こんな話はやめやめ、進むよ」
アルはまたナナリエーラを背負い歩き出した。
「ねえ」
「ん?」
「あの化け物のことも知ってるの?」
「獄烙?」
「うん」
「名前だけだね。冠位十三階位って知ってる?」
「知らない」
「人類の中で最も強い13人のこと。アレスジーアが決めてそれを聖地を通して全世界へ伝えてるの。獄烙はその第4位。つまり、人類で4番目に強いの」
「あなたは何位なの?」
「僕? 僕はー、100位とか1000位とかそのあたりじゃない?」
その順位を聞いて驚いた。獄烙は4位なのだ。それを倒したのだからもっと上だと思った。それに世界中の恐怖の対象である魂喰が13人の中に名前が上がらないのも不思議だ。
「4位を殺したのにもっと下なの?」
「獄烙は死んでないよ」
「え?」
「あいつは殺される直前に本に戻った。あとちょっとだったけど殺せなかった。それに、僕がそこまで追い詰めれたのはあいつが封印されてたからだよ。恐らくあれは獄烙の力のほんの1部、10%てところかな?」
「あれで、ほんの一部!?」
自分の村を燃やし尽くしたのだ。その力がほんの一部なことにナナリエーラは驚く。あれで1部なら全力はもっと被害が大きくなる。
「うん、もし全力だったら村だけでなく、アルボンドゥルグ領とその周辺領まるごと燃やしてたんじゃない? もちろん、僕も」
「そんなに、広く」
「獄烙は確か、600年くらい前から冠位十三階位なんだよね。ずっと消息不明で本当は存在しないんじゃないのかと言われてたんだけど、まさか封印されていたとはね」
「あ! 魔導書。魔導書はどうしたの?」
「僕が持ってるよ。でも、君には渡せない。またあの本からとんでもないものを出されても困るからね」
「あれを研究することがお父さまの願いでもあるのだから返して」
「君が召喚術を扱えるようになったら返すよ」
「でも」
「また見たい? 今度出されたら全力の獄烙が出てくるかもしれないよ。または、それ以上の存在かもしれない。そんなん出てきたら僕はお手上げだ」
それでも不安になる。あれを解き明かすことも父の、一族の悲願なのだ。絶対に返してもらわなければならない。
「心配しなくてもちゃんと返しに来るよ。僕は盗賊ではないのでね。それに、召喚術が使えない僕にはいらないものだし。だから君はちゃんと学ぶんだよ。もうこんな悲劇は起こさないために」