3-魂喰
ナナリエーラは驚愕する。目の前に魂喰が現れたことに。
・・・・・・今日はなんて最悪な日だろう。
村を燃やす魔人を召喚し、村が焼かれ、領民は死に、父も燃え、魂喰が現れる。最悪だった。今までの日常が壊され、自分の人生がここで終わることがわかった。
ナナリエーラは昔まだお母さまが生きていた頃に読んでもらった絵本を思い出した。
むかしむかし、東の国と西の国という2つの国がありました。
西の国は海がある国で魚が取れました。東の国は山があり肉が大好きでした。
東の国の王様と西の国の王様は大変仲がよくありませんでした。
「お前は魚臭い。こちらには近寄るな」
「お前のほうこそ獣臭い。早く山に帰れ」
2人の王様は会うたびに悪口を言っていました。
2つの国はどちらも自分たちにはないものを持っています。西の国は魚を、東の国は肉や山菜を。
そんなある日西の王様の子どもの結婚式に東の王様は参加しました。
その結婚式で東の王様は西の国の料理を食べます。東の王様はその料理のおいしさに震えました。
「どうだ、この国の料理は。お前の国ではこんなもの食べられないだろう」
西の王様は東の王様を煽ります。
東の王様は悔しくなりました。東の国ではこのような料理食べられなかったのです。
そこで東の国の王様は思いました。
「西の国が欲しい」
さて、戦争の始まりです。
東の国は西の国に戦争を仕掛けました。
優勢なのは仕掛けた東の国でした。どんどん街を占領していき、海までもうすぐの所まで来ました。
しかし、西の国も黙ってやられません。奪われた街を取り戻します。
すべての街を取り戻した時国民はこの戦争は終わると思いました。しかし、終わらなかったのです。
「俺様に戦争を仕掛けやがって、西の国の恐ろしさ見してやる」
今度は西の国が東の国を攻めます。東の国は街が奪われないように守ります。
何年も何年も戦争をしました。
戦争中作った食べ物は王様の元へ持っていかれます。
お互いの国は疲れ、住んでいる国民たちも生きるのが苦しくなり、逃げだす人もでました。
「誰か、どうか2人の王様に罰を。この戦争を止めてください」
その戦争に魂喰が現れました。
口は人を丸呑みできるほど大きく、人間をかみ砕くための牙があります。
尖った爪を持ち、全身から針のような毛を生やしています。
身体からは禍々しいオーラを放つ獰猛な怪物でした。
魂喰は1日目に戦場の兵士たちを全員喰べました。
全員です。
戦おうとする者、戦意がなくなった者、逃げ出す者。
誰彼構わず皆喰べました。
次の日西の王様の元へ行きました。
「先に戦争を仕掛けてきたのはあちらだ、あちらが悪いのだ」
西の王様は反省もせず全部東の王様のせいにします。
魂喰は反省も見られない西の王様を喰べました。
次の日東の王様のもとへ行きました。
東の王様を食べるためです。
「魂喰よ。食べるならこいつを食べてくれ」
東の王様は自分の娘を生贄に差し出しました。
自分の命だけでも助かろうとしたのです。
しかし、魂喰は娘には目もくれず、王様だけを狙います。
「やめてくれ。食べないでくれ」
東の王様は泣いて命乞いをしました。
飛び出る言葉は全部自分を助けるよう言う言葉のみ。
魂喰はただ泣き叫ぶだけの東の王様を喰べました。
そして、2国は滅び、戦争は終結しました。
どちらの王様も謝らず、誰かのせいにしようとして魂喰に食べられました。
おしまい。
「いい子にしてないと魂喰に喰べられるわよ」と小さい時何度も言われた。この話を聞いた次の日は村の子どもたちと一緒にそれはもう怖がったものだ。
でも、それはただのお伽話。作り話で魂喰なんて怪物本当は存在しないと思っていた。だが、今目の前にいる。
絵本では大きな口に牙があり、針のような毛が生えていて、禍々しいオーラを纏った怪物と書いてあった。しかし、今はただの少年の姿で目の前に立っている。
うそだとは思う。でも、この状況でそんな名前を名乗るなんて本物かもしれないとすら思った。
「ハッ、そうやって威勢を張るのはいいが吐く嘘は考えるべきだったな。お前こそ魂喰じゃねえ」
「そうだ、魂喰は2年前に死んでいる。いいから娘を連れて逃げてくれ」
「おいおい、逃げろと言われてるぞ魂喰さんよ、ク、クックック」
「逃げろ!」
クーリャイは笑い、ガブリエルは燃えながら命令する。
ガブリエルは焦っていた。せっかく娘を連れて逃げれる人が現れてたのに貴族である自分の命令をきかず無鉄砲に戦おうとするのだ。
「てか、あのババア死んだのか。てか、死ぬのかよ」
「じゃあ、試してみる」
少年の手にどこからともなく鎌が現れた。
「獄烙さんよ」
少年は歩き出す。クーリャイに向かって。瞳の水色の光が強くなる。右手に持った鎌がクーリャイに向かい振るわれた。
爆発が起きる。
「そんな、逃げることないだろ」
クーリャイは空へと飛び出していた。
「死ね」
炎が少年に向かい襲ってくる。
少年は左手を炎に掲げ、炎を吸い込む。
「空とは厄介な」
少年も空へ跳びだす。
「ねえ、本当に獄烙? それにしては魔力が少ない気がするんだけど」
「黙れ」
「弱ってる? 寿命かな? 何年も生きてるんだし」
「ヘルフレア」
「ブレイユアーツ」
クーリャイからでた炎が少年の前で花形に拡散される。拡散された炎たちが今度はクーリャイを襲う。
「これは、俺の炎だ!」
クーリャイは自身が放った炎で縛られた。支配権を奪われた炎をもう一度支配権を取り戻そうとするが奪えない。それどころか、拘束はどんどんきつくなっていく。
少年は落下して地面に着地し、もう一度跳びだす。
「じゃあね、偽獄烙さん。いただきます」
空中で爆発が起こる。空には魂喰と名乗る鎌を持った少年ただ一人だった。
「お父さま」
ナナリエーラは父の元へ駆け寄る。全身火傷している。白い肌が黒くなり煤だらけだ。
「ごめんね、回復魔術が使えれば間に合ったかもしれないんだけど」
「違うもん、お父さまはまだ生きてるもん。お父さまは、お父さまは。お父さまは。あああああああああ」
ナナリエーラは父に抱きつき泣き叫んだ。泣き叫び、息も絶え絶えになったのか眠った。
「ごめんね。報酬はいただいた。あなたの依頼を引き受ける」
魂喰はナナリエーラを連れて、屋敷へと入った。適当な寝室を探しナナリエーラをそこに寝かせる。
そして、もう一度生存者の確認のため外へでた。
外へ出るとすっかり日が暮れ、夜になっていた。
「あれが弱ってたのはそういうことだったのね」
魂喰はクーリャイを仕留めきれなかった。クーリャイを殺そうとしたとき、やつは自分が封印されている元へと戻ったのだ。あと、コンマ1秒でも早ければ仕留めれたかもしれないのに、逃げられた。
「これが、やつが封印された本」
黒い革で作られていて、新品のようにツヤがある。中を読むため本を開く。
「何語だよ。読めね」
いろんな国の言葉を習ったが、知っている言語じゃなかった。
「とりあえず、こんな危ないものは誰か知らないやつの手に渡ってはいけないので没収」
そう言うと本を右に向かって投げた。本は地面に落下することはなく消えた。
「生存者はいなそうだな」
村のすべてが燃えている。全身火傷の人もいるが、肉すべて燃やされ骨になった人もいる。
「これは看板。燃えててわかんねえわ」
ここがどこかの情報が欲しいのだがそれすらくれない。知らない村で夜のゴーストタウンを一人怪物の名を語る黒衣の少年は彷徨う。