2-獄烙
船が崖に当たる。
「行くときこんなとこ通ってたっけ?」
覚えてはいないが流石にこんな崖から船は出さないと思われる。
「方向間違えたかな? ま、とりあえず上がってみるしかないか」
荷物を背負い崖を登る。高い崖だ。落ちたら死ぬであろう事は簡単に想像がつく。しかし、そんなことは気にせず淡々と登る。
登りきり、地上に立つとそこは森だった。熱波が飛んでくる森だ。いくら夏とはいえこの熱さは異常であった。
「森にしては熱いような」
遠くで煙が上がっているのに気がつく。
「火事? 人いるかな?」
ここがどこなのか情報が欲しい。だから、少年は煙が出ている方へ向かう。
煙と一緒になって、空に多量の光の粒子が見える。
「うわ、これただの火事じゃないな」
異変に気づいた少年は警戒レベルを上げて煙の方へ向かった。
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村が燃えている。その原因はナナリエーラが召喚したあの男。今も空を飛び体から炎をだし燃えている。村を燃やしている。
「やめろ!」
ガブリエルが館を飛び出し男へと駆け出す。
「我が盟友よ。我の元へ顕現せよ。ノードン!」
「ふぉおおん」
ガブリエルは自身のネックレスにある青い魔石に触れ魔獣を呼び出す。魔石から青いゾウが飛び出す。体長1.2メートルくらいのゾウだ。鼻から背中にかけて硬い鱗に覆われ、大きな牙を持っている。
「いけっ! ノードン。やつを止めるんだ」
ノードンはころがりその勢いで空へ飛び出し男へ体当たりする。
「雑魚魔獣が」
男はノードンへ向かって炎を飛ばす。
「ヘルフレア」
炎がノードンを襲う。炎の勢いでノードンの体当たりは男へ届かず、落下していく。
コロン、コロン。
落ちてきたのは骨と牙だけだった。他はすべて焼き尽くされた。
「なっ!?」
自身の召喚獣が一瞬で殺されたことにガブリエルは驚く。しかし、すぐに切り替え戦闘に戻る。
「ロックハンマー」
腕を地面に刺し腕に土を纏わせハンマーにする。
「土よわが手に集まり岩となれ」
ガブリエルの目の前にガブリエルより大きな直径2メートルほどの岩が出来上がる。
「はああ、あっ!」
その岩を男目掛けハンマーで殴り飛ばす。男はガブリエルへ向かい飛びだした。途中岩の弾を貫きガブリエルの目前で止まる。
「お前、俺のこと知ってるか?」
「うおおお!」
ハンマーを男へ向かい殴りつける。
しかし、男には効いた手ごたえがない。受け止めようともせずに止められた。男の炎がガブリエルへと伝播していく。
「俺の名はなあ、クーリャイだ」
「そうか。クーリャイよ。フォービデンに戻れ!」
「それともこういった方がいいか。獄烙」
「!?」
「ハッハッハッハ! 流石にそれは知ってたか。よかったぜ、まだ有名人で」
クーリャイは自分が何者なのか笑いながら言う。ガブリエルは獄烙と聞いた瞬間地面に膝をついた。
「こ、こんな化け物が、突然。・・・・・・ふん!」
「おいおい、絶望してないのか」
ガブリエルはクーリャイに向けてハンマーで殴る。しかし、クーリャイには効いていない。炎の膜で攻撃が届いてないのだ。
「ナナリエーラ。逃げなさい。こいつにはかなわない。逃げろ。ロードへ伝えろ。このことを、獄烙が出たと」
ガブリエルは燃えながらナナリエーラに命令する。ガブリエルは娘だけは助かるようにと、時間稼ぎの無謀に出る。たとえ、自分は犠牲になろうとロードに伝われば、帝室に伝わればこの魔人も倒せるかもしれない。娘は助かるかもしれない。
「領都まで逃げなさい」
しかし、ナナリエーラは動けなかった。目の前で起こる惨劇に。怖くて足が動かなかった。
・・・・・・わたしのせいで村が。わたしのせいでみんなが。わたしのせいでお父さまが。
ナナリエーラが魔人を召喚したから起こった悲劇。そのことと目の前の光景の恐怖に足は震え、身がすくむ。
「へぇ、獄烙ねえ」
「え?」
「誰だ?」
「あん?」
ナナリエーラもガブリエルもクーリャイも驚いた。突然現れた謎の声の少年に。
黒い髪。赤い目。身長は150cmくらい。黒衣の服装をした旅人のような小汚い恰好の少年が突然現れたのだ。
「そこの旅人、どうか娘を連れて逃げてくれ」
「修行明け一発目が冠位十三階位か。これは逃げ一択だな」
「このことをロード・ションディルキュートへ伝えてほしい」
少年の目から水色の光がでる。
「お前が本当に獄烙ならな」
「あん? お前、なんだと」
少年の挑発でクーリャイから出る熱が強まる。
「おっさん、ここは僕に、魂喰にお任せあれ」
「魂喰!?」