21-身体強化 後編
「空属性は身体強化の副作用がない」
・・・・・・どうして他はあるのに空属性だけないの? それはおかしいんじゃない?
ナナはアルに言われた言葉に戸惑いを持った。
「と一般的に言われているけど、実はあるんです」
「・・・・・・なんでもったいぶるかな」
「いやあ、これから話す話僕と先生の研究成果だからさ。語りたい気持ちが沸き上がってついつい」
・・・・・・またアルの苦労話タイムか。
ナナは興味なさそうな顔になる。アルの苦労話はナナにはあてはまらない方が多い。今まで魔力感知で死にかけたや魔力流動に3か月かけたとか正直ナナの参考にはならなかった。勝手に加護を貰って死にかけたなんてほんとバカでしかないと思っている。
「まず、僕生まれつき空属性なんだけど」
「は?」
一言目から意味がわからない。属性とは儀式をして貰うものだ。それがどうして生まれつきなんてなるのだろうか。
「僕、気配の薄い子って言われてたんだよね」
「ちょっとまって、その前に生まれつき空属性ってどういう意味?」
アルが勝手に話を進めていこうとするので急いで疑問点を口にする。
「あれ? 言ってなかったけ。ある属性の適正が高すぎると生まれつき持っているんだよね」
アルの空属性の適正は先ほど見た図では半分を超えていた。それだけ多いと生まれつき属性があるということなのだろうか。
しかし、それだと一つの疑問が生まれる。
「生まれつき属性があって魔力貯蔵庫は爆発しないの?」
さっき人の魔力貯蔵庫に耐えられない属性数取得したら爆発して死ぬと言ったのはアルだ。10歳が安全になる年齢なのに生まれつきはかなり危険ではないだろうか。
「爆発しないよ。そこらへん調整は多分神々がうまくしてるんじゃないの」
「何もわかってないんだね」
「これっぽちも。生まれつきの属性持ちなんて中々いないからね。研究も進まないんでしょ。それより、身体強化の話に戻るけど」
・・・・・・それ戻らないとだめ?
ナナはずっと身体強化した状態で話を聞いている。アルは話に夢中になり声が大きくなっている。その声が聴力が強化されたナナにはうるさくてしかたない。
・・・・・・やめてもいいかな?
とりあえずナナは体から魔力を戻していき最小限の魔力だけで身体強化を行った。身体強化は魔力を流すほど効力が上がる。最小限にしたらうるさいアルの声も少しはましになると思ったのだ。
結果としてうるさいのは変わらなかったが、少しはましになった。
「で、気配の薄い子って言われてたんだ。だからよく人が当たってくるし。僕の存在にまるで気づかなかったんだよね。僕の先生も僕に気づかないことがあったし。しかし、あるときその薄さが消えた。僕が身体強化を覚えたとき。この日を境に僕は気配がはっきりすることが多くなったんだけど、これに先生が引っかかったんだよね」
「ただの身長が低くて気づかなかったとかじゃないの?」
「違うんだな、これが。先生が引っかかった日から僕たちは身体強化の研究を始めることになった。各属性の身体強化の副作用って眷属性の一つと大きな関わりがあるんだよね。わかる?」
「え? ええと」
土は硬さ。水は治癒力。風は速さ。火は環境適応力。
ナナは属性表の図を見た。火はわからないが、土、水、風は大神属性の上にある属性が副作用と似た属性の力ではないだろうか。
「大神属性の上の眷属性が身体強化の副作用とか?」
「正解」
「でも火は?」
「熱って温度とかを操る属性だから自身が感じる温度を緩和する。熱属性が近いね」
「その法則で行ったら空は隠蔽」
「そう、隠蔽。先生もこれにずっと謎をもってたんだ。そこにまさに普段から気配を隠蔽しているような少年が現れた。これは研究しなくては、と言った感じで研究生活が始まったわけです」
「ふん」
「あれは本当に辛かった。」
アルは思い出すように感慨深そうな顔になる。少し涙目だ。
・・・・・・そんなに嫌な思い出なのかな? だったら語らなくていいのに。
「そこから1年僕は来る日も来る日も身体強化を繰り返した。当時7歳の子どもだ。毎日毎日魔力流動と身体強化だけをやらされる日々は苦痛だった。僕は先生に何度も言ったんだ。先生止めよう。次のステップを教えてくれ。どうかもう研究は止めてくれと。そして、その効果があってかなくてかしらないが」
「研究が終わったの?」
「いや、普通に何度言っても聞き入れられず先生に協力している時以外は自主学習だった」
・・・・・・もったいぶるな!
ナナが少しでも反応したらすぐこれだ。ここまで繰り返されるとなんとなく分かるはずなのだがうまく回避できない。
「で、結局約1年が経った時空属性の身体強化は体を覆う魔力の量が均一なとき気配遮断能力が発揮されるということがわかった」
「それでわたしに体全体で均一にって」
「うん。癖がつくと直すのは大変だからね。僕は習得したばかりだったから結構簡単にできたんだけど。先生は長年の癖が抜けなくてかなり苦労してたから。あれぐらいだったよ、僕が先生に勝ったところは。僕が得意な魔力流動も当然のように……」
「でもそれ意味あるの?」
・・・・・・ただ気配が薄いって火の副作用よりも使えなさそうだ。
ナナはアルが1人ブツブツ言うのを止めて疑問を口にする。
「こと戦闘に置いて、というより僕の戦闘スタイルにおいてこの効果は他の属性よりも圧倒的に強いね」
「圧倒的……」
攻防一体の土、治癒能力の水、俊敏の風。これを圧倒する副作用だなんてナナには想像できない。
「まず、1つ目。奇襲の成功率」
「奇襲……」
「僕殺し屋だからね。基本奇襲戦法なんだ。相手に気づかれず殺す。それにこれは非常に役立つ」
気づかれないのだから奇襲の成功率が上がる。警備の目も逃れることができる。それはアルにとっては常人よりもはるかに役に立つ効果だった。
「次に2つ目。不法侵入し放題」
「え?」
「ロードの街とかって、結界貼られてるんだよね。知ってた?」
ナナは首を振って否定する。
「外からの魔力攻撃を防ぐため、門以外から入ったものを察知するため。そういう結界が張られているんだ。それに僕気づかれないんだよね」
「それも奇襲に便利ね」
「門入ったら身分を確かめられるんだけどそれもなく入れるから足つかないんだよね」
「もし、わたしが空属性とったら旅で」
「嫌、普段からはやんないよ。足ついたら困るときぐらいだよ」
アルは普段からそのようなことは絶対にやらない。もし入った街で事件に巻き込まれでもしたら入領記録のないものは当然怪しまれると分かっているから。
「ナナさんや、そんな悪知恵を働かせれるなんて。お主も悪よの~」
「そ、それは。違うのこれはそう、アルの影響を受けただけ。アルが普段からそんなこと言うから」
ナナは赤面して否定した。アルのせいにしてアルから顔を背ける。
「僕普段からそんな教育に悪いことばっか言っているかな?」
アルは普段の言動を思い出すがあまり思い浮かばなかった。
ナナも顔を背け気持ちを落ち着かせる。
「で、3つ目なんだけど、これは魔力量に影響されない技術ってこと」
「どういうこと?」
顔を戻してアルに向き直り疑問を口にする。
「他の属性の身体強化って身体強化に回す魔力量が増えるほど効果が上がるっていったよね?」
「うん」
「空属性だけは例外。あ、もちろん、魔力増やすほど身体能力は上がるよ。ただ、副作用の効果に関しては空属性は魔力量じゃなく、均一かどうかこの1点のみ」
「それの何がメリットなの?」
「魔力を他へ回せること。例えば、風属性魔力が100あったとします。あー、攻撃避けないといけない、身体強化に50使おう。よし、じゃあ攻撃には50使えるぞ」
アルが身振り手振りで演技し始めた。
「これが空属性の場合。ふん、身体強化に1使えば気配遮断だ。これでもう気づかれない。いえーい。99攻撃に回して奇襲だ。はっは、防御なし! 圧倒的火力! 一撃必殺! ほら、メリットでかいでしょ」
「その演技は何?」
「それ今どうでもいい」
自分で始めといて突っ込んだら無視するスタイルのアルだった。
「確かに、気づいてない相手に全力の一撃使えるのは。ちょっとやりすぎなくらいだね。でも、戦闘になったら」
「ま、そっからは各々の技量になっちゃうね。無理と思ったら逃げるだから」
・・・・・・奇襲。戦闘になったら負け。
それが空属性の身体強化を生かす方法なのかもしれないとナナは思った。
「あと、最後。気配を遮断する魔術具を持たなくていい」
「あ、魔術具あるんだ」
てっきり身体強化の副作用限定だと思っていたのに。あるんだったら持てばいいのにと思ってしまう。
「あなた、今あるのなら持てばいいと思いませんでしたか」
「だって、そんな習得困難な技術より便利な方を使えばいいじゃない」
「これが、持たないメリット、デカいんだよね。魔術具を持つ数は限られる。僕こんなジャラジャラつけているけどこれは僕の魔力操作が上手だからできる芸当。大抵の人って各腕と足に1つずつ、それと持っている武器だけじゃないかな」
確かロードは両腕につけていると言っていた。ガブリエルもアルみたくジャラジャラつけてなどいなかった。
「ナナ君や君は人差し指と薬指だけに力を入れれるかい?」
「できなくは」
実際に試してみる。人差し指と薬指だけがピンッとのび、他の指たちは曲がる。
「じゃあ、中指と小指に交互に力入れながら」
「え?」
試すがかなり難しい。
「いっぱい魔術具つけるっていうことはこれを戦闘中に行っているようなものだからね。普通やらない。だから持てる魔術具の数は限られる。身体強化はそんな魔術具を持たずに効果発揮してくれるのが大きなメリット」
「それ空属性のメリットというより身体強化のメリットだね」
「そ、そっすね」
これもまた突っ込まれたくなかったことらしい。
纏をしたら絶になる……。