表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/76

1-わたしの日常が壊された

 ・・・・・・これが、社交界!


 煌びやかな会場、美味しそうなたくさんの食事、キラキラした衣装。ナナリエーラ・アルボンドゥルグは自身のお披露目に歓喜していた。

 お披露目とは貴族の子どもが10歳時に行う行事である。貴族の子が貴族の仲間入りをするため行う大切な行事だ。このお披露目をすることで他の貴族たちに貴族として認められる。

 この日のために誂えた紺と白の衣装は普段着る服とは違いキラキラしていた。スカートは生地が何層も重なっていて腰から外へ広がって足首まで隠している。肩周りはピッタリだが、肘から広がり袖は長い。胸もとには大きな紺のリボンがついている。

 だから、着替えの時には鏡の前で回ったり、スカートをつまんで持ち上げてみたりと舞い上がった。自信の銀髪も丁寧に整えられツヤのあるストレートとなっている。

 今も目の前に並ぶ豪華な食事に飛びつきたい。だが、父であるガブリエル・アルボンドゥルグに手を繋ぎ止められていた。


「ナナリエーラ、これから領主様や来てくださったお客様に挨拶に行かなければならない。くれぐれも私から離れないように」


 ナナリエーラは貴族であるガブリエル・アルボンドゥルグの娘であり、これから貴族になる。貴族に失態は許されない。そのため、ナナリエーラのお披露目で失敗がないようガブリエルは娘の動向に注意しながら会場を回った。


「バロン・アルボンドゥルグ、ナナリエーラ嬢」

「ロード・ションディキュート。本日は我が娘のお披露目に来てくださりありがとうございます。娘のナナリエーラです」

「ロード・ションディキュート。本日10歳を迎えました。ナナリエーラ・アルボンドゥルグです」


 ナナリエーラは腕を交差させ膝を少し曲げ頭を低くする。そして、長くて嚙みそうな名前をゆっくり噛まないよう注意し言った。

 ロード・ションディキュートはこの周辺一帯の領地をまとめる領主。バロンである父はロードから領地の一部の管理を任されている。だからロード・ションディキュートは父の主なのだ。


「良く教育されている。今後が楽しみだ」

「ありがとう存じます」

「バロン・アルボンドゥルグは確か子は一人だったな」

「はい。ですのでこの子が次のバロンとなるでしょう」

「そうか、いい婿が見つかるとよう精進するように」

「ロードからの助言に感謝します」


 ロード・ションディキュートはそう言うとナナリエーラの元を去っていった。

 いい婿が見つかるよう精進するように。それはつまり、婿を取りたかったらもっと領地の影響力を高めろという意味だ。しかし、10歳のナナリエーラにはそんな結婚などはまだまだ先のことでロードがいなくなった今、目先の料理に目を奪われていた。

 しかし、まだ挨拶したのはロードのみ。これからナナリエーラのためにきたお客様へ挨拶に行かないといけない。ナナリエーラはまだ目の前の料理にはありつけることはなかった。




 ・・・・・・やっと終わった。


 お客様全員への挨拶が終わり、ナナリエーラはやっと食事へ向き合えた。

 目の前に並ぶのは誕生日や記念日などしか食べられない白パン、始めて食べるローストビーフ、ふわふわのオムレツ、冷めているがいろんな具材が入ったシチュー、にんじんやかぼちゃが星型やハート型に切られたチキンサラダ。


「私はまだ社交があるから行くが、ナナリエーラはここでおとなしく食べておくんだよ。誰かが訪ねてきたら決して失礼のないように」

「はい、お父さま」


 ・・・・・・まずは、ローストビーフを。ん~、んんんんっ!


 初めて食べるお肉だ。普段のお肉とは全然違う。あまりのおいしさに興奮して足をバタバタしそうになるがそれをやってはいけないと分かっているので興奮は表に出さないよう気を付ける。

 薄い、しかし味、食感満点だ。


 ・・・・・・次はシチューを。!? これは、お肉!


 普段シチューに入っているものといえば、ジャガイモやにんじんだ。それが今日は肉まで入っている。流石社交界。なんて大盤振る舞いだ。


 ・・・・・・次は白パン。どれにしよう。


 普段は黒パンをスープに浸して食べる。しかし、今日はジャムにチーズにバターがある。いろんな種類があり、全部完遂したいが自分のお腹ではそれは無理だと分かってるので悩んでしまう。ここでたらふく食べて動けなくなっては失敗になってしまうかもしれない。


 ・・・・・・んー、ジャムで。


 ジャムは赤いイチゴのジャムと橙のマーマレード、青いブルーベリーの3種類。一口大にちぎったパンにジャムをたっぷりつけ、カプッ。


 ・・・・・・おいしぃぃぃい。


 とそんなこんなで食事を堪能していたらお披露目は終わった。ナナリエーラには最初の挨拶こそ大変だったがそれ以降はすることがほとんどなかった。なぜなら、子供の参加者がいないから。お披露目に子供が参加することはよくある。

 しかし、ナナリエーラには貴族の子の友達がいない。それに、ガブリエルもあまり社交に積極的ではないため他の家との関わりが薄いのだ。その結果が今日のお客様13人(そのうち2人はロードの護衛)のお披露目だった。




 次の日の朝食も豪華だった。理由は昨日の残りだ。


「ナナリ、今日は加護の義だ。この後いつ食べれるかわからないからちゃんと食べておきなさい」

「はい、お父さま」


 ナナリエーラは食べた。昨日食べれなかったバターにチーズ。ローストビーフやサラダをパンにはさんでサンドイッチ。シチューも肉もりもりで。

 朝食が終わると身支度を整え、ホテルを出た。神殿へ行くのだ。

 加護の義、それはお披露目後貴族が大神の加護を貰う儀式だ。これを行うことで属性を得て魔術を使うことができる。


「バロン・アルボンドゥルグお待ちしておりました」

「本日はよろしくお願いします」


 そう言って、ガブリエルは神官へお布施を渡す。


「祈る神は分かっているな」

「はい、土の女神ギフテラコールに祈ってまいります」

「では、参りましょう」


 ナナリエーラが通されたのは加護の間。床には5つの大きな円が5角形にひかれている。その円たちの真ん中へ行く。


「では、加護の義を始めます。祈りの言葉は覚えてますか」

「はい」

「加護を受け取るまで決してこの部屋から出ないでください」

「はい」

「何かわからないことはないですか」

「はい、だいじょうぶです」


 今までこの日のために練習を重ねガブリエルに合格を貰ったのだ。朝に復習だって行った。大丈夫だ。


「では、私はこれで」


 神官が部屋から出て行くとナナリエーラは祈りの言葉を唱え加護の義を開始した。


「ゲビッツゴット ギフテラコール」


 床にある円の一つが青に微かに光る。ナナリエーラはその円の中へ入った。


「我が名はナナリエーラ 土の女神ギフテラコールの加護を願うものなり 我は青に染まる 我は民を守る 我は土地を守る 御身の加護を与えたまえ」


 唱え終えると静かに待つ。暗い部屋、風の音すら聞こえない部屋。自身のつばを飲み込む音がすごく大きく聞こえる。

 どれくらい待ったかわからないほど待って円の青の光が強くなった。光は体の中に吸い込むように入っていく。また待つ。この光を全部吸い込むまで。特に自分の体が変わって言っている気は一切しないが、この光をすべて取り込んだらナナリエーラは土の属性を手に入れるのだろうことはわかる。




 青い光がなくなった。すべて取り込んだのだろう。儀式終了だ。体への変化は何もない。


 ・・・・・・本当に土属性を得たのかな?


 不安になる。でも、光っていたし大丈夫だろうと扉を開け外へでた。

 隣の待合室に入ると父と神官が座っていた。


「ナナリエーラ」

「加護は受け取れましたか」

「青い光が全部わたしの中に入ったのですがそれでいいのですよね」

「はい。バロン・アルボンドゥルグ見事儀式は成功したようです」

「はい。本日はありがとうございました」

「ありがとう存じました」




 馬車に揺られ、領地へと帰る。

 大陸東部にある大陸のおよそ8分の1をもつ巨大国家、帝国。その南東部にあるションディルキュート領。その東部、海に面した領地がバロン・アルボンドゥルグの領地アルボンドゥルグ領だ。

 バロンとは領主であるロードから管理を任された土地を治める者の階級だ。

 アルボンドゥルグ領は村2つからなる小さな領地だ。海に面しているが崖になっていて漁ができないため魚など海産物はとれない。これといった産業もない。農業と牧畜のみで生きている領だ。そのため、領地での順位は底辺をウロウロしている。


「はー、やっと帰れる」

「領都はつまらなかったかい?」

「いいえ、ご飯もおいしいし、キラキラしてて楽しかったわ。でも、お父さまと2人きりだもの。領地に帰ったらニノもジュンもショウもいるし」

「友達と会えるのがそんなに楽しみか。ただ、これからは遊ぶ時間は少なくなる。来年の帝国学院に向けて魔術や学院の勉強をしなければならない。ナナリ、うちが扱う魔術はわかるか」

「召喚術ですよね」

「そうだ。代々我が家が研究してきた魔導書を解き明かすため召喚術は必須だ。帰ったら研究室へ案内する。そして、明日からは魔術の勉強を始める」

「研究室へ入っていいのですか」

「ナナリも貴族になり、属性を得たのだこれから研究する研究室を見ることは魔術の勉強へのモチベーションになるだろう。さすがに勝手に入ることは許可しないが私と同伴でなら許可する」

「はい!」


 ナナリエーラは今まで入れなかった場所へ行けることがうれしくてたまらなかった。

 馬車が村へ着くと馬車の周りに人だかりができる。


「「ナナリ様」」

「ニノ、ジュン」


 ニノとジュンの2人がナナリエールに声をかけてきた。

 ナナリエールは窓から顔を出し2人に答える。


「ガブリエル様お帰りなさいませ」

「ただいま戻った。出迎えごくろう。今夜は娘の祝いをやろう。準備のため戻るから日が暮れたら集まりなさい。ナナリも子供たちに会えるのを楽しみにしていた。」

「はい、日が暮れたら伺います。こちらの子どもたちもナナリ様に会えるのを楽しみにしていました」


 ガブリエルが村長に話すとまた馬車が動き出した。




 ・・・・・・ここが、研究室。


石でできた部屋には窓はない。光源は蝋燭と暖炉だけだ。奥の壁には7つのタペストリーがかけてある。その前には研究机。両隣の壁には本棚が並べられている。そして、部屋の真ん中それが貴重品であると分かるようにガラスケースに入れられた本。


「これが我が家が代々研究してきた魔導書フォービデンだ」

「フォービデン?」


 そう言ってガブリエルはガラスケースを外し魔導書を取り出す。


「ぼろぼろですね」

「この家ができた時からあるからな。ずっと昔からある。この書を解き明かし、ここに封じられた者たちを召喚することこそ我が家の悲願なんだ」

「そうなんですか」


 ガブリエルはそっと魔導書を開き見せる。文字が書いてあるがナナリエーラには読めない。


「わたしが習っている文字と違いますね」


・・・・・・いったいどんなのが封印されているんだろう。見てみたいな。


 初めての研究室、知らない召喚媒体、その2つがナナリエーラの召喚術への興味を掻き立てる。ナナリエーラは魔導書に触れようと手を伸ばす。ナナリエーラが魔導書に触れた瞬間、本が光った。


「え?」

「これは!?」


 本に書いてある文字が飛び出し空を流れる。


「ハッ! ハハハハハハハハッ。やっとだ。やっと出られた」


 赤い髪の毛。黒い肌。金の目。両手両足には鎖。首には赤い宝石がついたネックレスをした裸の男が飛び出してきた。


「召喚だ!? 召喚だ! ナナリ、お前がやってくれたのか」


 ガブリエルは興奮したようにナナリエーラに聞いてくる。しかし、ナナリエーラには分からない。ただ、本を触ったらこれが起きただけだ。


「答えよ、貴様の名は」


 ガブリエルは出てきた男に問いかける。


「はあー、ふっ!」


 男から炎が飛び出した。炎は男の体を覆い服のように体を隠していく。その炎から火の子が飛び、熱波が来る。


・・・・・・暑い。


「おい、研究資料が燃えるじゃないか。やめるんだ」

「ふっ」


 男は炎を足からだし、奥の壁を突き破り外へと勢いよく飛び出していった。


「な!?」


 壁を突き破ったことでタペストリーが破られ、本棚倒れる。


「研究資料が」

「お父様、あの男が外に」

「ナナリエーラ、早くやつを戻すんだ」

「どうやって。わたしただ触っただけなのに」

「ふっーーーー。最高だぜ!」

「きゃああああ」


 悲鳴が聞こえた。


「村が危ない」


 2人は研究室を館から外へでる。外へ出ると一面火の海だった。燃える家屋、燃える畑、燃える人。すべてが燃えていた。


「な、なり、さ、あ」

「ニノ?」


 燃えた友人がこちらへとやってくるが、玄関まで届かず倒れた。どんどん体は燃えていき日に少し焼けた肌は真っ黒になっていく。


「ニノ?」


 倒れた少女のところまで行き、呼びかけるが反応はなかった。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」

第1章一気に全部公開します。休みの間にでも全部読んでいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ