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16-遊落者

 時間がゆっくりになったような感じがした。木の葉一枚一枚がゆっくりと舞っている。先ほどまでいた木の枝はナナを放り出して倒れていく。横を見れば、尖った赤い鼻。顔を少し上げると目の部分は黒い仮面をしているように体毛が生えていて、尖った耳が生えている。

 その怪物が口を大きく開けナナを食べようとする。


 ・・・・・・いや。


 景色が一変した。隣にいた怪物が急に遠くにいた。誰かに抱き留められた感覚がある。振り返るとナナをお姫様抱っこ状態で持つアルがいた。

 前にナナの背中に空間魔術をセットしていると言っていた。それでアルの元までワープしてきたのだろう。


「大丈夫」

「・・・・・・はい」


 強張った緊張が解け返事を返す。


「ダンケルフォクシーだと」

「今ナナちゃんが瞬間移動したような」


 後ろからケカスがあの魔物の名前を言う。インラはナナがワープしたこと驚いている。高さは1.2メートルくらいでナナと同じくらい狐の魔獣だ。


「チッ。どーせバレたなら殺るか」


 ダンケルフォクシーが消える。


「日向に迎え」


 ニカの指示で4人は一か所にまとまりボアントの死体の陰から離れる。アルも後退する。しかし、言われた通り日向に向かわず向かったのはボアントの死体のところだ。


「ダンケルフォクシーは影の中を移動する魔獣。能力はやっかいだが出てくるところがわかればたやすい」


 アルの足元から魔獣の顔が飛び出す。それをアルは蹴とばした。

 蹴られたダンケルフォクシーは川へと吹き飛ばされる。顔が蹴られ鼻が曲がっている。


「フォー」


 アルが持っていた2本の短剣がダンケルフォクシーの口へワープする。


「クシシシシ」


 口にした短剣を耳の間に挟め、笑い出した。


「あれは?」

「ダンケルフォクシーの相手の持ち物を奪うもう一つの能力」


 アルはナナを降ろす。

 次の瞬間ダンケルフォクシーの顔がつぶれた。短剣から腕が生えている。アルの拳が空間魔術で飛び出し、ダンケルフォクシーの頭を抑えつけた。


「お前らはずる賢い。絶対武器を取り上げてくると思っていたよ」


 バタバタと川の中で暴れだすダンケルフォクシー。抑えつけている腕をはがそうとひっかくがダンケルフォクシーの爪はアルにはきかない。


「お前のやっかいさはその影移動と物を盗む能力だ。身体能力が高いわけじゃない。それを対策された時点でお前の負けだ」


 バタバタと暴れていたダンケルフォクシーからの抵抗がなくなった。


「死んだの?」

「うん、溺れ死んだ」


 アルはナナの手を掴みダンケルフォクシーの死体のとこまで歩く。


「お前、遊落者だったのか」


 ケカスがアルにそう尋ねる。


「ええ、まあ」

「ボアントの素材は俺たちが貰っていくからな。お前なんかに渡すものか」


 ・・・・・・なんで?


 カトツがアルにそう叫ぶ。さっきまでアルと彼らとの仲は良かったのに一気に険悪になっている。彼ら4人全員がアルに武器を向けて。

 

「どうぞ、僕はこれいただくんで」


 アルはナナを片手で抱き上げ川に入るとダンケルフォクシーの死体を引き釣り川を渡る。


「アル、どうゆうこと? 遊落者ってなに? なんでいきなり」

「これが僕が魔術を使わなかった理由」


 川を渡り森の中に入るとナナはアルに問いだした。


「遊落者てのは貴族の冒険者のこと」

「アルは貴族じゃ」

「彼らからしてみれば魔力持ちはみんな貴族だよ。魔術を扱える人間は扱えない人間に比べて強いから。遊び感覚で仕事がうまくいく。生死をかけて必死こいて戦っている横で魔術を用いて簡単に倒す。昇格も早いし、依頼も取られていく。使えない者からみれば自分たちのテリトリーに勝手に来て餌を奪い取っていくように見える」


 アルは座り込み解体を始めだした。


「それで急に仲が悪くなったてこと」

「そうだよ」

「だったらわたしにしてるようにあの人たちにも魔術を教えたら。そしたらそんないがみ合いも」

「僕はそんな慈悲を振りまく人間じゃないし、そんなことしたら世界中の国から命を狙われるからやらないよ」

「狙われる?」

「魔術は貴族の特権だ。それを平民や市民権の持たないやつらなんかに教えまわったら貴族に睨まれるさ」

「仲良くはなれないの?」

「無理だろうね。別にそんな悲しそうにしなくていいよ。仲良くなりたくて冒険者やっているわけじゃないんだから。これでよしっと」


 アルの解体は終了したらしい。顔、革、肉、骨としっかり分けられている。


「ご、ごめんなさい」

「なんでナナが謝るのさ」


 ナナの視界が涙でぼやける。


「わたしが付いてきたから。わたしがいなかったらアルが魔術を使うことも」

「それは違う。ナナが付いてくることを許したのは僕だ。この依頼も魔術を使わずナナの安全も確保できると思ったからやったんだ。謝るなら僕の方だ。ナナを危険にさらしたのだから。ごめん」


 アルは謝る。解体した素材を風呂敷で包みかつぐと。ナナの手をとって歩き出す。


「でもアルの仲間を」

「彼らは仕事仲間だったけど競争相手でもある。別にこの街にいる間だけの関係だし問題ないよ」

「でも、これでまたアルはひとりぼっち」

「おいおい勝手に僕をぼっちにするなよ。僕だっているよ仲間くらい。今は離れてて一人だけど」

「え?」

「言ったでしょ。妹弟子がいるって。他にも仲間って呼べる人いるし。それに、ナナだって仲間だよ」

「え?」

「一緒に旅してるんだ。師匠と弟子でもあるけど旅仲間でもあるでしょ」


 アルはナナの頭を抑え目線を合わす。


「だから大丈夫ナナが悲しむことなんか何もないんだから」


 ・・・・・・仲間。


 仲間と呼ばれたことが対等な関係のように思えてナナは嬉しかった。

 2人は冒険者ギルドで素材を換金するとすぐに旅の準備を整えジープの街をあとにした。


戦闘回! また説明ばかりの修行に戻ります

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