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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

たたる亀

作者: ジョーン


 ムジマという男は残酷なやつでして、小動物を殺すのをなんとも思わないんですよ。


 私らは池の水を抜いては外来種を駆除する番組をやっていたんです。

番組ではだいたい、外来種を見つけては寄せ集めて、やれミシシッピアカミミガメが何匹とれた、ブルーギルとブラックバスが何匹とれた。

そういうことをアピールします。


 放送が終わるとですね、ブラックバスとブルーギルと、その他もろもろ、「お前は外来種だ」とされたものは全員息の根を止めることが義務づけられています。


 外来種をみつけたら、駆除するんです。

魚もカメもそうなんですが、残酷なものなんですよね。


 テレビでは、まあだいたい池の水を全部抜いて、外来種を集めて、池が綺麗になって終わり。

そんなもんです。

でもね、その外来種を殺していくのは、スタッフが後日こっそりやるんですね。

そりゃあ、カワイソウってんで別の池にこっそり流したら意味がないし、法律違反なんです。


わざわざもといた池に流すような、そんなことだってできるはずもない。

私達スタッフが、後日責任をもって殺します。


 殺す場所は、その時々でまちまちです、自治体に迷惑がかからないように頑張るしかないんです。

適当なところに捨てるわけにもいかないんで、しっかり殺して、しっかり処分しないといけません。


 私は魚担当でした、魚担当なのでカメよりは簡単なものです。


 ムジマも私も、しかしまあそういう、生き物を殺すことにこだわりがないんで、気持ち悪いとは思っていませんでした。仕事ですもんね。


私も以前に、魚をずっとさばくような仕事もしてたもんで、ああ、エラのこのへんをザクっといくと終わりだ。ということがわかってるんですね。


はい次はブラックバス、はい次はブルーギル、はい次、次……


こうして捌いていくんですが、ムジマ君は亀担当になっちゃって。


ムジマ君は、亀を並べて、太くて長い釘を打つんです。甲羅のど真ん中に、ズドンと。

それが一番早く決まる。そうらしいんですね。

 

 亀の殺し方、本来だったら……動物殺すのに本来もなにもないんですけど、

冷蔵するそうなんです。

亀の場合、殺すより先に冬眠状態にさせる。

冬眠状態にさせたうえでクギをズドンと打つことが、比較的「人道的な気がする」というわけです。


 それなのに、ムジマ君はその手順をすっとばして

「はい次、カンカンカンカン!」

「はい次、カンカンカンカン!」

「はい次、カンカンカンカン!」

てな具合で手際よく亀を締めていくんです。だけどあったかいもんだから、亀もけっこう長いあいだジタバタもがいてこと切れるようでした。


 亀からすると、なんやわからんが日本に生まれ育ったから、集められて殺される。

そういう具合なわけなんですから、ちょっと驚かすつもりで、亀の恨みはひどいだろうなあ。

そういう事をムジマ君に言ったんですよ。


でもムジマ君としては、それはそうだけど仕事だから。とあくまでドライ。

私もそうですね、ブラックバスを殺すこととアジやサバを捌くことに違いはありません。

だから、変なこと言って悪かったなあ、と、そんな風に思ったんですよね、その時は。


 朝から昼まで、場合によっては夜まで、ボランティアで手伝ってくれる人たちと一緒に、処分の仕事をやって、やあ、今回もよくがんばったお疲れ様、さあ帰ろうとスタッフが撤収して都内に帰るのです。


 私とムジマ君は機材を乗せた同じ車に乗って、ムジマ君が運転して都内のスタジオ目指して高速を走らせていました。しばらく調子よく、昔やってたバンドの話なんかして、ムジマ君にアカペラで歌わせたりして楽しくドライブしてたんですが、ムジマ君が突然調子が悪いと言い出しまして。


 突然暗い顔になって、いつもより大きいサイズのミシシッピアカミミガメが多かった。なんて言い出すんです。私も冗談だろうと笑いに変換しようとボケようボケようとしてたんですね。

だけど、ムジマ君がだんだん、調子悪いから次のサービスエリアで運転変わってくれと言うんです。


ああ、運転を早めに交代するくらいなんでもないことだ、

「じゃあ俺が運転するから」と、ちょっと横になっててもらったんです。


やっぱり魚をさばくことと違って、亀を殺すのは精神的にキツイのでしょうか。


 今までこんなことなかったのになぁ、おかしいなあ、そう思いながら帰り道の車を走らせるんですね、そしたらムジマ君は、ワンボックスの助手席のリクライニングを倒して寝てるんだけど「うおお、うおおお」と胸をかきむしり始めた。


 ああ、嫌だなあ、病院行った方がいいなあ、そう思って、ハンズフリーの携帯でディレクターに電話したんです。ムジマがちょっとおかしいみたいで、どうしたらいいでしょうかと。

そしたら、ディレクターが

「ああ、ムジマもかあ」って言うんですよ。


亀を殺す担当、亀担はムジマで4人目なんだけど、みんな仕事がせつないと言って辞めちゃうんだよね。と言うんです。


 冗談じゃない、今知りたいのはムジマを病院に連れていくべきかどうかなのに。

しょうがないから、ちょっとサービスエリアで様子を見ようと思ったんです。


「ムジマ、大丈夫か?」そう問いかけたんですが

「ごめん、大丈夫、でもちょっと痛くて」そう言ってムジマがTシャツを脱ぐと、みぞおちあたりにでっかいアザがあるじゃないですか。

ムジマ、これは大変だ、背中を見せろ、で反対になってもらったら、やっぱり背中にもでっかいアザ。


 ああ、これが亀の呪いだな、ディレクターが言ってたのはそういうことか。

しょうがないからとにかくスタジオまで戻ってディレクターと相談しよう。

そう思ってサービスエリアを出たんですね。牧之原だったです。

それから焼津、静岡から御殿場、厚木……どんどん東京に近づいていくまでに、だんだん私もなんだかめまいがするようになったんです。

おかしいな、おかしいなと思うけど、ここで倒れたら私だけじゃなくてムジマも大変だ。

喉の様子がおかしい、妙に喉が渇くしイガイガ、カサカサするんです。


それでもなんとか2時間運転して都内のスタジオまで戻って、駐車場でムジマを起こしました。

「ムジマ、おまえしっかりしろよ」

ムジマは起きたけど、私の顔を見てまた顔を青くしちゃって、震えだすんです。

しょうがないやつだな、私もめまいがする足でディレクターのところまで行ったんです。

遅れてすみませんでした、ムジマが調子悪いみたいでして。


ディレクターに会ったら、もうディレクターも私を見て青い顔で

「お前、その喉どうしたんだ?」と言い出すんですよ。



 ええっ、なんですか?あわてて鏡を見ると、わたしの喉の左半分も。

でっかいアザができてまして……。

それはちょうど、私がブラックバスを捌くときのナイフを入れる場所だったんです。



「うわぁぁぁ!」



私も叫んで、そのまま卒倒しちゃったみたいで、次の日ディレクターに起こされて、

深川不動さんまで行って、私とディレクターとムジマ三人で亀鯉供養の碑にお参りしたんですよ。


ああ、悪かったな、ごめんなあ、と長い時間かけてお参りしたものです……


そういうことってあるんですね。


お読みいただきありがとうございました。


思っていた以上に難しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。どうなるんだろう?と思いながら読み進めました。ホラーは好きなほうなんですが、私には書けないジャンルなので、書ける人、尊敬します。
[良い点] 確かに 怪談語りでした お見事でした [一言] 動物は生きることに純粋だから、祟られると始末に負えない気がしますね
[良い点] 令和の稲○淳二さんだ…! 主人公の話し方が心地よかったです。目で文字を追っているのに、まるでお化け屋敷でアナウンスを聴いているような気持ちになりました。 思わず私も首元を確認してしまいま…
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