表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

1話 プロローグ~出会いは突然に

 「結婚しましょう!!!」

 

 男は跪いて直球の一言で求婚をする。一張羅で手に花束、街中であったらどれだけ注目を集めただろうか。だが、そのどれもない。何故ならここは森の奥で辺りに動物の目もないからだ。

 

 「……はあ。お断りよ」

 

 「…くっ。今日こそはと思ったんですけど」

 

 「何が『今日こそは』なのよ。前回と何が違うのよ。いい加減諦めて帰りなさいよ」

 

 「いいえ。結婚するまで帰るつもりはないので。薬草を取ってきます」

 

 『良く飽きないわね』のいつもの声を後ろに聞きながら森へと出かける。そう、何度もプロポーズしてその度に断られているのだ。そのメンタルには一目を置くが、現代だとストーカー規制法により接近禁止が出て然るべきだろう。

 

 男が歩き出した先には鬱蒼とした森が続いている。大人五人程が手を広げて一周出来るかどうかの太い樹や、天を衝くのではと錯覚する様な高い樹が多い。陽は程よく差しているのでジメジメとして陰鬱とした雰囲気はない。

 ここはサイチェス王国の東南にあるエンディアの森、通称魔の森と呼ばれている。魔とは付くが魔物大量発生地ではないし、龍が棲んでいる伝説もないただの森だ。では何故そう呼ばれているのかは簡単だ。戦争で兵士の大半が戻って来なかったというのが挙げられる。それ故、戻らずの森とも呼ばれている。


 「薬草は少しでキノコは多めに採って、肉はまだ残ってるから今回はいいか」

 

 家の近辺で育てれば良いと思うかもしれないが、一応は育てている。だが、研究材料且つ少量しか育てていない。食べる分はあるが、一人分しかないからこうして採りに出掛けるのだ。家畜は飼育していないので、狩りに出来開ける必要はある。それに、研究ばかりだと身体が鈍って怠惰に慣れ切るから、出掛けないといけない理由を敢えて作っているようだ。

 

 

 

 「それにしてもここに着いてからもう半年が経つのか」

 

 もうなのか、まだなのかは人によって意見が分かれる事だろう。だが、あの日々を思えば時が過ぎるのを早く感じても可笑しくはないだろう。あの奴隷の日々を思えば。

 

 この男、名前をアキト=トレーグニンと言う。家名はあるが貴族でも貴族だった事もない。この国の施策で平民にも家名を名乗る事が義務化されている。氏名で身分を見分ける事は出来ないが、貴族には身分付きで呼ぶ事が一般的になっているので問題は起こっていない。

 

 奴隷の詳細は追々語ることになるが、神に誓って何もしていない。この男は平民ではあるが下級官吏で、将来を嘱望されていたほどなのだ。それが何故と思うのは当然だろう。端的に言うと嵌められたのだ。

 

 貴族子女との婚姻を良く思わない敵対貴族による宮廷闘争の一種だ。良くある話ではあるが、巻き込まれるとは思っていなかった処に奴隷落ちだ。


 

 「ただいま……いないか。って事は研究室かな」

 

 彼女が部屋にいない時は決まって研究室にいる。何を研究しているのかと言えば、多岐にわたる。ひと昔は魔法について、最近は作物に関してだ。収穫量や品種改良などに取り組んでいる。研究室は離れにあり、住居とほぼ同じ大きさの平屋だ。違いは畑があり、部屋の中はゴミ屋敷の様相を呈している。彼女の名誉の為に言うが、片付けられないのではなく、資料が沢山ありすぎて片付かないのだ。それを証明する様に、住居では整理されているのだ。

 物が少ないとも言えるが。

 

 「ただいま。研究はどうですか?」

 

 「ああ、おかえり。どうもないよ。直ぐに成果が出る様なものでもないのでね」

 

 「ですね。では、片づけて鍛錬してきますね」

 

 研究とは言いつつも成果を求めての事ではないし、発表する事もないのだ。寿命が長いので暇つぶしの為に研究しているだけで、他に時間を潰せれば何でも良いのだ。

 

 「ひと段落したら行くから準備はしておけよ」

 

 「わ、わかりました」

 

 鍛錬に付き合うのも暇つぶしの一環だし、鍛えないと森では生活できないのだ。対処不可能な魔物がいる訳ではないのだが、荒事とは無縁に育ってきた農家の第四子だ。しかも官吏とは言っても文官だ。数か月鍛えたからと言って軍人並みの筋骨隆々で運動神経抜群になるわけもなし。今やっているのは中学の部活を少し厳しめにしている程度だ。

 

 

 

 「……はあはあはあはあ」

 

 案の定、息も絶え絶えで大の字でへばっている。戦闘訓練はやってはいるが、メインは走り込みなどの体力づくりだ。身体が出来ていないのに戦闘訓練は大怪我の元だ。焦る必要も期間が決まっている訳ではないので、じっくり進めていく事にしたためだ。

 

 「最初の頃に比べれば良くなってきたな」

 

 「……ありがとうございます。良くなってないと挫けますよ」

 

 覗き込みながらそう話すのは住まわせてもらっている女性だ。手を引いて立ち上がると、線は細いのにどこにこんなにも力があるのかと不思議に思ってしまう。でも、手にはしっかりと剣ダコがある。鍛えている証拠だ。

 

 背は拳一つ分くらい低く、体型は大人な女性だ。つまり、肉感を刺激するのだ。だけども、エロさはない。言い切るのは失礼だが、健康的な体なのだ。そう、健康的な体なのだ。彼女の名前はユリ=ダムペールと言うのだ。

 

 肉感的な事よりももっと特徴がある。肌は浅黒く髪は金に近い黄色で耳は長く尖っている。そう、エルフの中でも特に珍しい混血エルフという種族なのだ。


モチベーション向上の為に、感想・いいね・評価を頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ