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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある魔王の話

作者: どんC

 違うんだ‼️


 違うんだ‼️


 本当に……俺は……


 君をこんな目に遭わせるつもりじゃなかったんだ‼


 君を泣かすつもりじゃなかったんだ‼


 君を傷つけるつもりじゃなかったんだ‼


 何でこんな事になったんだ‼️


 何で……何で……


 俺は君が好きなのに……






    ~~~*~~~~*~~~~




 俺の名前は小原俊夫こはらとしお

 何処にでもいる中学生だ。

 俺が住んでいる団地は古びていて皆から【お化け団地】って言われていた。

 俺の親父はひもで、酒癖と女ぐせが悪く家には金をいれなかった。

 俺は屑の親父も、親父に似た俺の顔も大っ嫌いだった。

 お袋は朝から晩まで働いていたが。

 お袋が稼いだ金を持ち出してパチンコですっていた。

 鬱憤がたまると、お袋や俺を殴っているくずだった。

 俺が小学6年生の時、団地の裏にある階段から転げ落ちて死んだ。

 親父の葬式の時、笑いを堪えるのに必死だった。

 バチが当たったんだ。

 神様はちゃんと見ていてくれるって思った。


 親父が死んでお袋は再婚し。

 俺の人生は薔薇色に変わる。

 優しい義父は怒鳴る事も手を上げる事もなく。

 俺を有名な紫乃野辺学園に入れてくれた。

 県内でも有名なエリート学園だ。

 俺は親父と違って頭も運動神経も良かった。

 サッカー部に入りエース選手となり。

 先生や皆からの信頼もあった。

 そんな時、君に会った。


 大久保弥生おおくぼやよい


 サッカー部に三人いるマネージャーの一人だ。

 彼女は頭も家柄も良く、笑顔を絶やさない高嶺の花。

 サッカー部や他の部の男子に人気で、女子にも好かれていた。

 彼女が欲しいと思った。

 彼女が他の男子と話しているのを見ると、嫉妬で狂いそうになる。


 だから……俺は……


 他のサッカー部のマネージャーに彼女の事をべた褒めした。

 2人が俺の事を好きなのを知っていたから。

 案の定、彼女達は嫉妬して弥生に嫌がらせを始める。


 ははははは。


 何ておバカなお人形さん達。

 俺はただ心配そうに彼女に尋ねる。


「顔色が悪いよ。何か心配事でもあるのか? 僕で良ければ相談にのるよ」


 何か言いかけて、黙る弥生。

 もう直ぐ、弥生は俺に相談するだろう。

 そうすれば俺は彼女を虐めから救ってあげる。


 そんな時、事件が起きた。


 信号待ちをしていた弥生の背を彼女達が押したのだ。

 俺は慌てて彼女に駆け寄る。

 トラックの運転手の引きつる顔と急ブレーキと鈍い音。

 俺は弥生を抱きしめ……


 抱きしめた?

 俺の腕の中は空だった。



 そこから先の記憶は、闇に閉ざされた。




   ~~~*~~~~*~~~~



 気が付いたら草原に寝転がって、青い空を見上げていた。


「……ま……す……」


 何処かで誰かの話声がする。

 声のする方を見ると。

 白い服を着た若い娘が10人ほどの兵士に取り囲まれている。


「聖女様。この草原にはスライムがおります。手始めにスライムを倒す事から始めましょう」


「はい。グライブ王子分かりました」


 白い服を着た娘は弥生だった。

 なんか……ファンタジーに出てくる聖女の様な格好をしている。


「弥生……」


 俺は立ち上がり弥生の元に駆け寄る。


「あのスライムに攻撃を」


 グライブ王子と呼ばれた男が俺を指さした。


 ___ ? こいつ何を言っているんだ? ___


「はい。光よ。刃となりて我が敵を打て」


 弥生は俺に攻撃をする。


 ___ 待て待て待ってくれ‼ ___


 光の刃が俺を切り裂く。

 俺の声は弥生には届かない。

 俺の体は弥生の放つ光の刃でズタズタになり。

 俺は死んだ。




   ~~~*~~~~*~~




 ふと気が付くと、俺は洞窟の様な場所にいた。

 辺りは光り苔でぼんやりと明るい。

 自分が何かを咀嚼している事に気が付いた。

 鉄の味?

 なにを食っているんだ?

 手に持っている肉の塊を見る。

 それは男の足だった。

 思わずそれを投げ捨てる。

 回りにいた子供ぐらいの大きさの生き物がいて。

 そいつらは俺が捨てた足に群がり奪いあう。

 俺は気持ち悪くなり吐いた。


 何だここは……


 何だこいつらは……


 青い子供の姿で、頭に角が生えていて、腰には襤褸を纏ったそいつらには見覚えがある。


 ゴブリン!!


 ゲームにスライム同様、始めに現れてボコられる雑魚キャラだ。

 両手を見る。

 青い痩せた子供の手で、しかも爪は獣の様に尖っている。

 口に触る。牙が生えていた。

 ペタペタと頭に触る。角があった。

 俺はゴブリンになっている。

 フラフラと部屋から立ち上がり、覚束無い足取りで外に出ようとしたが。

 間違って他の部屋に入ってしまった。


 その部屋は呻き声が溢れ、様々な頭が生えている。

 馬に羊に狼に……

 人の頭もスイカ畑の様に生えている。


 苗床‼


 そこは小説に良く出てくる様な物ではなく。

 まるで頭から下を絨毯にしたように、内臓をぶちまけた様に悲惨な姿を晒していた。


 ごそり


 内臓の中から赤ん坊が這い出してきた。


 ボリボリ


 ガリガリ


 グチャグチャ


 そしてその悪鬼は内臓を喰らい子供の大きさになった。

 しかも一匹や二匹ではない。

 何十匹もの悪鬼が次々と生えてくる。

 ここは地獄だ。


 ギャー‼️ ギャー‼️


 何処かでゴブリン達の悲鳴が上がる。


「何ておぞましい‼️」


 何処かで聞いた女の声。


「聖女様見てはなりません‼️」


 知らない男の声だ。


「いいえ‼️ 私はこの目で事実を見極めなければなりません」


 そこに彼女がいた。

 白い杖を握り締め、きっと俺を睨む。


 待ってくれ‼ 違うんだ‼ 


  これは俺のせいじゃないんだ‼


 しかし……俺の声は人の言葉が零れる事は無い。


 キィー‼ キィー‼


 とおぞましい声が出るだけだ。


「聖女様お下がりください」


 白銀の鎧を着た男が彼女を庇う様に前に出て、生まれたばかりのゴブリン達の首を刎ねる。

 騎士だ。おそらく聖騎士だろう。


 くそ‼ この前は王子だった。


 俺はギリギリその剣をよける。


 待て‼ 待ってくれ‼ 


 俺だ‼ 分からないのか‼


 弥生‼


 聖女と呼ばれた弥生は呪文を唱えた。

 浄化の炎が俺もろとも苗床を焼き尽くす。




 ~~~*~~~~*~~




 気が付けば砂漠のオアシスに一人佇んでいた。

 オアシスを中心に都があるが。

 今は廃墟になっている。

 朧気ながら俺がこの都を滅した記憶がある。

 俺のこの体は暑さも寒さも感じない。

 砂漠は昼間は50度の暑さで、夜は氷点下の寒さだ。

 温度差が酷い。

 俺はゴーレムになっている。

 この温度を考えるとゴーレムになっているのは、ある意味ありがたかった。

 俺はただピクリとも動かずに佇んでいる。

 次の獲物が来るまで動けないのか?

 それとも何処か壊れたのか?

 単に充電中か?

 忌々しい。

 それになんだって俺は魔物に生まれ変わっているのだ?

 弥生は転移しただけのようだが。

 あの日、トラックから助けようとした俺の腕の中は空っぽだった。

 弥生はラノベでありがちな、聖女の異世界召喚とやらだろう。

 ならば俺は……

 異世界転生か?

 しかしそれならば人に転生するはずだが。

 最初はスライムで次がゴブリン、そして今はゴーレムだ。


 スキルのせいか?


 だが、俺はステイタスを見る事が出来ない。

 あるいはこの世界はゲームの様にステイタスを見る事が出来ないのか?

 分からない。

 記憶を探ってもこの世界の神に出会った事が無い。

 もしかしたら神に出会った記憶は消されたのかも知れないが。

 ハゲワシが蛇を捕まえ、俺の頭の上で食っている。

 本当に鬱陶しい。

 こいつ俺の頭の上に巣を作るつもりじゃないだろうな。

 バサバサとハゲワシが飛び立った。どうやら次の獲物が来たようだ。

 地平線の方で黒い点が次第に大きくなる。

 キャラバンのようだ。

 この砂漠はゴルデアン砂漠と呼ばれる。

 東のナーロッパ文化圏と西のジャポニ文化圏の真ん中にあり。

 このオアシスは二つの文化圏を繋ぐ重要な拠点だ。


 そして…


 魔族がいるゲイモニア大陸に行くための唯一の道でもある。

 海路もあるが、海獣が多く。

 船ではたどり着けないのだ。

 空路があるでは無いかと思うだろうが。

 エベレスト並の山に阻まれ、ドラゴンまでゴロゴロいるのだ。

 うん。

 魔王城に行くまで百回は全滅するな。

 キャラバンはどんどん大きくなる。

 100人ぐらいいるのかな?


 ああ……


 弥生がいる。

 弥生はラクダに乗っている。

 弥生はラクダどころか馬にも乗れなかったはずだ。

 運動神経は良くなかった。

 どちらかと言うと、運動音痴だ。

 色々苦労したのだろう。

 弥生は優しいから、聖女の運命を背負わされて頑張って来たのだろう。

 聖女の力のせいか、弥生は益々綺麗になっていった。

 艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、夜の星を散りばめた様な瞳。

 余りの美しさにため息が出る。


 そして……


 忌々しい事に、あの糞王子と糞騎士もいる。

 あいつら弥生に張り付いてやがる。

 三人とキャラバンは俺の横を通り過ぎた。

 ハゲワシが頭に止まっているせいか、俺は瓦礫にしか見えないらしい。


 糞‼ 糞‼ 糞‼


 馴れ馴れしく俺の弥生の肩なんか抱いているんじゃねえぜ‼

 ムカムカする。

 胸の中で黒い感情が渦巻く。

 

 これは……嫉妬?


 キャラバンはオアシスの近くで野営の準備を始める。

 弥生は野営地の周りに結界を張った。

 手馴れている。

 あの時と比べて段違いで魔力の扱いが上手くなった。

 人間ならステイタスが見れるのか?

 兎に角、俺は動く事が出来なかった。

 オアシスの都を滅ぼした時何処か壊れたのだろうか?

 石で出来ているから痛覚はない。

 どこが壊れているのか、いまいち分からない。

 痛みがない代わりに故障個所の修復が出来ない。

 イライラする。

 体の中を黒い感情がグルグルする。

 そんな俺に気づかずキャラバンの連中はテントを張り、食事を始める。

 喧騒も静まり、見張りを残して皆眠りについたようだ。

 パチパチと焚き火の音が聞こえ。

 後は見張りの男たちがテントの周りを歩く足音だけだ。

 俺の体の中でグルグル回っていた魔力が体の外に出る。

 それは最初は小さな竜巻だった。


 グルグル グルグル


 バリーン‼️


 竜巻は次第に大きく成り弥生の張った結界を砕いた。

 あまりの音に皆テントから飛び出してくる。

 ああ。愉快愉快。

 間抜けどもが右往左往する姿に、俺は腹をかかえて嗤う。


 おや?


 俺は動ける様だ。

 奴らの恐怖心が、俺の体を動かすエネルギーになるみたいだ。

 さあ弥生をあいつらから引き離そう。

 自分たちの都合で拐って来て、用が済めばポイ捨てにされるに決まっている。

 自分の世界も守れぬ奴らに弥生が守れる訳がない。

 やっぱり弥生には、俺はが守ってやらねばならないだろう。

 ゴゴゴと俺は岩の体を動かす。

 ギャーギャーと泣きながら、ハゲワシが俺の頭から羽ばたく。

 キャラバンの連中は俺に気付き慌てふためく。

 先陣を切って糞王子が俺の体に剣を叩きつける。


 パキン‼️


 剣は脆くも真っ二つに折れた。

 

 ハハハ。


 そんななまくらが俺の体にかすり傷さえ付ける事は出来ない。

 今の俺は雑魚モンスターのスライムやゴブリンじゃないんだぜ。

 俺は腕を振り回して王子と騎士を吹き飛ばす。

 ゴロゴロと二人は転がっていく。

 俺は弥生に手を伸ばした。


 弥生行こう。

 ここは俺たちがいる世界じゃない。


 もう少しで俺の手が弥生に届きそうな時。


 シュル シュル


 と蔦が生えて俺の腕を絡めとる。

 黒衣のマントを着た魔導師が俺の邪魔をする。

 なんだこの男。気に入らない。

 王子と騎士も気に入らないが、この魔導師も気に入らない。

 二人共美形だったが、この魔導師は二人を超えた美形だった。


 ムカつく‼


 俺達の邪魔をするな‼


 人攫いのくせに‼


 地面から蔦が次から次えと生えてくる。

 ぶちぶちと蔦を引きちぎってもきりがない。

 弥生はブツブツと呪文を唱える。

 天から光の輪が降りてきた俺を拘束する。


 弥生‼ 弥生‼


 お願いだ‼ 俺の話を聞いてくれ‼


 ぎちぎち


 光の輪は俺の体を拘束すると、次々と俺の体を砂に変える。


 ぼと


 鈍い音を立てて俺の腕が落ちた。

 光の輪は俺の体を締め上げる。

 信じられない事に輪は俺の体に食い込んでいく。

 痛みはないが、自分の体が切り刻まれていく事は、余り気持ちの良いものでは無かった。


 ギャリン‼


 信じられない事に光の輪は俺の体を真っ二つに引き裂く。




   ~~~*~~~~*~~



 またか……

 また俺は弥生を救えない。



 気が付くと俺は水の中にいた。

 慌てて水面に出る。


 プハァ‼️


 俺は水を吐き出して岸に向かって泳ぐ。

 幸い岸が近かったから俺は岸に這い上がる。

 ゼェゼェ息を吐きながら、何とか立ち上がる。

 ふと手を見る。

 人の手だ。

 顔に触る。

 人の顔だ。

 ペタペタと体に触る。

 何処もおかしくない。

 裸だという事以外は。

 此処は何処なんだ?


「魔王様」


 声の方を振り向くと異形の者達が平伏している。

 黒い鎧を身に纏った軍団だ。


「御生還おめでとうございます」


 三本の角を生やした山羊の化け物が嬉しそうに俺に声をかける。


「お前は誰だ?」


「お痛わしい。わたくしです。あなたの部下のベネフィットで御座います。200年前に勇者に倒されて、記憶がまだ戻っていないのですね、ええ大丈夫で御座います。直ぐに記憶も魔力も戻ります」


「俺が魔王?」


「そうで御座います。あなた様こそ我等魔族の王」


 ベネフィットと名乗った魔族は恭しく俺に毛皮のマントを着せる。

 そのマントには宝石が縫い付けられまるで王が戴冠式に着る豪華な物だった。


「再生したばかりでお疲れでしょう。話は魔王城でいたしましょう。あの憎い勇者の生まれ変わりがこちらに向かっていると言う情報もございます」


「知っている。あいつらはオアシスにいた」


 あの王子は勇者の生まれ変わりなのだろう。


「なんと‼️ あやつらは、半分までの距離まで迫っているのですか‼️ 忌々しい‼️」


 ベネフィットは忌々しげに鼻を鳴らす。

 俺達は魔王城まで転移する。

 俺は豪華な部屋に案内され睡眠を取る。

 ぐっすり眠り、次の日に目覚める。

 豪華な朝食を取ると、会議室に案内された。

 会議室には様々な姿をした魔王軍の幹部がいた。

 皆俺に頭を下げる。

 どの顔も見覚えがある。

 一晩眠り記憶を思い出した。

 200年前に俺に仕えていた者達だ。

 俺は偵察部隊から報告を受ける。

 俺がゴーレムだった時から数ヶ月たっていた様で、聖女一行は魔王国に迫っていた。

 聖女は結界を張っていた。

 見事な結界でこんなに近くに来るまで魔王軍の誰も気が付かなかった。

 俺はベネフィット達魔王軍に聖女一行を迎え撃つ様に指示を飛ばす。

 聖女以外殺せと命じた。

 聖女と魔王軍は黒の森で戦う事となり。

 俺は魔王軍を前進させた。

 聖女は召還魔法を展開する。

 空に幾つもの魔法陣が浮かび、天使の軍団が召還された。


「クソッタレ‼️」


 罵声を吐いたのはノアだった。

 小柄な男の娘は魔物を操る。

 魔王軍でも一番歳が若く85歳だ。

 空を飛ぶ魔物が天使の相手をするが、次々と倒される。

 地を這う魔物は魔導師が造った蔦の壁に次々と絡めとられていく。

 それを勇者と聖騎士が仕留めていく。


「らちが明かないな」


 俺は高速で聖女が張った結界まで飛ぶと、一蹴りで結界を破壊する。

 聖女を庇おうと勇者が駆け寄るが、俺は勇者を蹴飛ばした。

 勇者は木々をなぎ倒し100メートル程吹き飛んで止まる。

 聖騎士の剣が俺を襲うが、裏拳でへし折る。

 魔導師の蔦が俺に纏わりつくが、風の刃を纏い切り刻む。

 俺は弥生を抱きかかえると魔王城に転移する。

 俺はそっと弥生をベッドの上に降ろす。


「ああ……やっと会えたね」


 俺は微笑む。

 怯えたように弥生は俺を見る。

 仕方が無い。今の俺は魔王だ。


「大丈夫もう安心だよ。ここには君を傷つける者はいないよ」


 俺は優しく弥生の頭を撫でる。


「小原敏夫……先輩?」


 震える声で弥生は尋ねる。


「そうだ。小原だ。ここは安全だ」


 俺は頷く。


 ドガ‼


 弥生が隠し持っていた短剣が俺の胸に刺さる。


「弥生……なぜ……だ……」


 短剣は女神の祝福を受けている。

 抜けない。

 俺の魔力を吸いつくす。


「私……見たのよ‼ 貴方が実の父親を階段から突き落とすのを‼」


「なにを……いっ……ている?」


「あの日学校に忘れ物をして貴方が住んでいる団地を通って近道をした。その時私は見たのよ」


 どうやらあの日弥生に親父を殺すのを見られたようだ。

 まいったな。

 目撃者はいないと思ったのに。

 よりにもよって弥生に見られていたなんて。


「暗かったし最初見間違いだと思った。怖くて誰にも言えなかった」


 弥生はまるで化け物を見る様な目で俺を見ている。

 そんな目で俺を見ないでくれ。

 ヨロヨロと俺は弥生に近づく。


「でも高校生になって貴方は私を殺そうとした‼ 疑惑は確信に変わったわ‼」


 俺は首を振る。

 違う‼ 俺はそんな事はしていない‼


「あなたサッカー部のマネージャー二人をそそのかして私をトラックに突き飛ばしたでしょう。口封じしょうとしたのね」


 違うんだ‼


 違うんだ‼


 本当に俺は……


 君をこんな目に遭わせるつもりじゃ無かったんだ‼


 君を泣かすつもりじゃなかったんだ‼


 君を傷つけるつもりじゃなかったんだ‼


 何でこんな事になったんだ……


 何で……何で……


 俺は君が好きなのに……


「もう……終わりにしましょう……」


 倒れた俺の側に弥生は跪いて祈る。


 ああ……綺麗だ……


 光に包まれた弥生は本当に綺麗だ……


 ホレた女に殺されるのも悪くはないだろう……


 俺は瞳を閉じる。


 その声は歌っているようでもあった。

 弥生の体が優しい光に包まれる。

 光は魔王城を包み。

 外に居る魔物達や魔族を包み。

 光の渦となり天に昇っていく。



 その日

 魔王と魔族と魔物はその世界から、聖女と共に消えた。

 生き延びた勇者と聖騎士と魔導師は都に帰り聖女の偉業を讃えたが。

 魔王の恋を知る者はいない。



        ~ Fin ~



 ***************************

   2022/8/13 『小説家になろう』 どんC

 ***************************


     ~ 登場人物紹介 ~


 ★ 小原敏夫 (18歳)

 高校3年生。魔王の生まれ変わり。弥生に惚れている。

 弥生に片思いしている。


 ★ 大久保弥生 (16歳)

 聖女召喚によりこの世界に来た。

 魔王を倒す為、旅をしている。

 うすうす魔王が敏夫だと気づいている。


 ★ ベネフィット (300歳)

 3本角のある魔族。魔王の部下。執事。


 ★ ノア (85歳)

 魔王の部下。男の娘。魔物を操る。


 ★ グライブ王子 (21歳)

 勇者。真面目に勇者していた。

 弥生に惚れていた。


 ★ 聖騎士 (25歳)

 教会の騎士。真面目に戦っていた。

 弥生に惚れていた。


 ★ 魔導師 (23歳)

 学びの塔に住んでいる引きこもりの魔導師。

 弥生に惚れていた。


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