視える者K first
濁っていた視界が晴れた。
倉庫の中の仄かな照明に照らされて、さっきまで鼓膜が破れるほどの奇声を上げていた『それ』がもうただの肉塊になっている事に気付く。
真っ白な服のキャンパスに、朱色の華が描かれていた。
鼻を刺激する血の匂いが、お前が殺したんだと否応無く訴えかける。
あぁ、終わった… 終わったんだ。
用はもう無い。こんな所、さっさと出よう。
疲弊した身体を無理やり動かそうとすると、
「もう終わったのか? 予定より速いな」
後ろから、声が聞こえた。
「うん、殺ったよ。 …ねぇ、これで良いの?」
「あぁ、これで良い」
「そっか… じゃあ次は何をすれば良い?」
私は振り返り、男に尋ねた。
「詳しい事は後で話す。戻るぞ」
男はそれ以上何も言わず、倉庫から出ていく。私は黙って、彼の後ろを付いていった。
波の音と潮風が傷を優しく撫でる。夜の港を歩くのは、魔法使いと一人の少女。未来を想う少女は、魔法使いの後ろ姿に自分の居場所を重ねる。
自分は彼に評価されている訳ではない。ただの使える駒としか考えられていないのだろう。
…それでも良い。もう見捨てられるのは嫌だ。自分は彼に使命を与えられた。自分はそれを遂行するための道具だ。今、この身体が再びこの世にあることだけに幸せを感じろ。
そうでなければ、私はここにいる価値すら無い。
自分はただ、ひたすらに、殺せば良い。
魔法使いは立ち止まり、不思議な言葉を唱えると宙に手を翳した。
地面に幾何学模様が浮かび上がり、その空間だけが歪み始める。
程無くして、黒い扉が現れた。
扉は不気味な音を響かせながら、独りでに開く。
その先は夜よりも暗い闇だ。
二人は臆すること無く扉の中に入り歩き出した。
扉はゆっくりと閉じ、消えていく。
太陽が海の向こうから顔を出す頃には、もうそこには何も無かった。
???「港……?」