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星空色の魔法使い  作者: たいさ
16/20

夜の街 side:G

「あぁ、ずっとあなたに会いたかったのです」


黒服の男はそう言って、赤色の魔女へと笑みを向けた。


「お変わり無いようで、何よりです。乱暴な方法であなたを呼び出したのは謝ります。あなたと二人きりになりたかったものでね」


男は彼女に近づくと、おもむろに手を差し出した。


「握手なんてどうです?この再会を祝し、また出会える事を祈って」


「………………口調を元に戻せ。気味が悪いぞ」


ガーナは差し出された手を握ることはせず、ただ冷たく言い放った。

(いく)ばくかの怒気を(はら)んだその声に、男はたじろぐとともにある種の懐かしさを感じた。


「あぁそうだ。あんたはそうやって叱るんだった。悪かった、許してくれよ。目上の人間と話す時はこうしろって、上から目線のクソ魔女から注意されてるもんでね」


『仕方がないだろう?』とでも言いたげに肩を(すく)めた。


「そんなに怒ってんのか?久しぶりに相見(あいまみ)えた不肖(ふしょう)弟子(でし)の有り様を」


「あぁ、怒っているさ。君が私の元から離れる時、君は自分の力で私を越えると言ったはずだ。だというのに、何だその禍々しい魔力は。説明してもらおうじゃないか、ゼクス・ゼルコード」


ガーナの目が、より一層鋭く男を睨んだ。

ゼクス・ゼルコード、それが男の名だった。

稀代(きだい)の天才魔術師、炎の魔導士を越える者とさえ(うた)われたあの愛弟子は、今や(あく)となっていた。

彼に染み込んでいるのであろう死の匂いが、ガーナの鼻に付く。


「この魔力はあの方から貰っただけで、あんたとの闘いでは使わない。正真正銘、自分の力で炎の魔導士を越える。約束したからな。これは絶対だ」


あの日、ガーナの元から離れて『己自身の技術と力で、貴方を越えて俺が炎の魔導士になるのだ』と、そう豪語(ごうご)した時と同じような瞳で、彼は睨み返した。


「はぁ……一体、何の為に私を呼んだ?」


ため息を吐いて、指先から(とも)った火を口に咥えた煙草につけた。


「あんたと此処(ここ)で闘う……とかだったら?」


「冗談は止してくれ。今の私は君と殺り合う暇なんて無いんだ」


「ふっ、煙草が噛み切れそうだぜ?急いでる時に煙草を噛む癖は直ってないんだな。そんなに大事か?あの悪魔が」


「……あぁ、教え子の友人なんだ。だから同伴者として、彼女の安否を確かめる義務がある。さぁ、さっさと私を呼びつけた理由を喋ってもらおうか」


「理由は最初に言っただろ?二人きりになりたいって。実は俺も二人でこの街に来ていてね。今、連れにはあの悪魔の話相手になって欲しいと頼んでたんだ。まぁ、『まだ1人しか殺してない』とかなんとか言ってたから、何を仕出かすかは分からんがね」


「チッ、要は脅威である私が手出しできないように、彼女を別の場所に引き離したって事だろう?まんまと引っ掛かった自分を殴りたくなるよ」


ゼクスは笑みを溢しながら、言葉を続ける。


「あんたも知っての通り、結界は自身と一定範囲を拒み隔絶(かくぜつ)した空間。一つの異世界とも言えるだろう。そしてその権限は、この結界を作った俺にある。術者を倒さなければ結界は消えない。よって、あんたと俺は闘わなくてはならない。だがまぁ、その必要はないだろうな。あいつの方がすぐに片がつく」


「……どうゆう事だ」


異端(いたん)の眼だ」


「……っ」


ガーナの目が、大きく見開かれる。


「……それはまた、厄介な物を…」


「あぁ、俺でさえ正面切って殺り合うのは避けたい代物さ。天然でそうなったのか、後天的なのかは俺は知らんが、その眼の連中は『視る』だけで瞳に宿る魔術を行使できる。どんなにあの悪魔が強かろうが、勝負は一瞬で済むだろうさ。どうだい師匠?相手の戦力1つを消せるんだ。完璧な良い案だとは思わないか?」


「確かに、君にしては良い考え方だ。だが、クク……クッハハハハ!」


彼女は笑っていた。この状況で、仲間が死ぬかも知れないというのに。

何故だ。


「何が可笑(おか)しい」


「あぁいや、少し安心したんだ。君は私の手の届かない遠い所まで行ってしまったのではないかと思っていた。だが、君は変わってない。詰めの甘さがね」


「詰めの甘さだって?聞き捨てならないな。あの悪魔はもう詰んでるんだ。結界は他を拒み、誰も破ることは出来ない。誰もそいつを助けられない」


「普通なら、そうだろうね。だが、もしそのような者がいたら?もしかしたらという可能性を考慮し、それを補う為の別の作戦(プラン)を考えなければ完璧な案だとは到底言えないだろう。私の場合、『もし敵が来てしまったら』という可能性を考えて今回は色々と手を打ったんだ。杞憂に終わらなくて良かったよ。誰も来ないまま無事に家に帰り着いてしまえば、まだ疲れが抜けきってない()をただこの街まで歩かせた事になるんだから」


「まさか……もう1人居たのか……!」


「彼なら、結界なんて赤子の手を捻るのと同じぐらい容易に破る事が出来るだろう。」


ガーナはニヤリと、口の端を曲げた。


「異端の眼には、異端の眼をぶつけなければね」

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