表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空色の魔法使い  作者: たいさ
10/20

刀(上)


     

「━━━━始めましょう?」


その言葉が耳に届くのと同時に、少女の刀は一樹の眼前に迫っていた。先ほどまでの両者の距離はほぼ7メートル。その距離を、少女は一瞬で詰めた。


疾い。だけど……!


振るわれた刀の位置を見極め、逆手に持ち替えたナイフを動かす。

互いの手に握られた得物がぶつかり合い、金属音が響き渡る。


「防げるんですね」


「ちっ……!」


一樹は後ろに飛び退いて、ナイフを構えた。


━━━次の一手がどう来るか分からない。       だけど考えてたって何も始まらない

   

左手を地面に付いて姿勢を低くする。

弓に番えられ引き絞られる矢のように、身体を縮ませ、両足に力を込めた。

そして、放つ。

間合いを一気に詰め、その速度で以てナイフを振るった。

右手に痺れが走る。当たったという感覚はあった。だが彼女は傷一つ負っていない。

防がれたか……。一樹は冷静に、ナイフを構え直し強く握った。



攻撃は防いだけど、あまりの衝撃に体は吹き飛ばされた。なんてでたらめな攻撃。正直、あの子を見くびっていたかもしれない。

次はちゃんとしなくては。

あぁ、でもどうして。


━━どうして一撃目を外した時、すぐに二撃目を振  るわなかったのだろう?


二撃目で確実に彼の首を切れたはずだ。なのに私は、こうして姿を見せて彼と殺しあっている。


「……どうしてかしら?」


手に持つ相棒に問いかけたが、何も答えてくれなかった。


━━今の私には、貴方の声を聞く資格すら無いのね


それでもすべき事は変わらない。

下された命令は殺すこと。

それ以上でもそれ以下でも無いのだ。

落ち着いて。方法は違うがいつもと同じなのだから


少女が走り出した。それに反応して一樹も駆け出す。理念と願いを持って、両者は再び激突した。


斬り合いながら、一樹は刀の動きを視ていた。

彼女の剣さばきはまるで、筆で絵を描くみたいに綺麗で、見惚れるほど美しい。けれど時には、力強く荒々しい。

一樹はそれを、防ぐ事しか出来なかった。

焦るな、動きを良く視ろ。何でも良い、攻撃できる隙を作るんだ。

そしてそれは、唐突に訪れた。

少女が水平に振った刀を持ち上げる。

一樹は、その後の攻撃を予測していた。


━━━今だ!


斜め下へと振るわれる刀を、防ぐのではなくずらすように受け流す。

少女の姿が横を通り抜ける。一樹はその隙を見逃さず、後ろを振り向きながらナイフで薙ぎ払う。

だが手応えは無く、彼女の姿も消えていた。


━━どこに消えた?


辺りを見回す。けれど見つからない。

音が微かに聞こえる。これは、風を切る音?

どんどん近づいてくる。音のする方向は━━━


「上か!?」


見上げると、彼女の姿があった。少女が空から落ちてくる。ただ、落ちているだけではない。彼女はそのまま、次の攻撃に移行していた。

刀が思い切り振り下ろされる。とっさに防いだが、全体重を乗せた攻撃に耐えられず体勢が崩れた。

後ろ向きに倒れ、背中を地面に打ち付ける。


「ぐっ!」


痛がっている暇は無かった。目の前にもう一度刀が振り下ろされる。少女の追い打ちを、横に転がりながら回避して彼女の間合いから離れた。


少女は、静かに一樹を見据えている。あれだけ動いていたのに、息一つ乱していない。

一樹は荒い息を繰り返して、震える足に活を入れて立ち上がる。


そしてゆっくりと瞼を閉じた。

身体中の全神経を眼に注ぎ込む。

焼けるように熱くて痛い。

眼を開ければそこは、モノクロの世界。

眼前全てが白く塗り潰され、黒い線があらゆる物体の輪郭を描く。

それらの内側には形は違えど必ずある灰色の歪み。

これこそ、彼の持つ異端の眼の力。

一樹は少女を視る。

歪みの位置は左足、右腕、脇腹。

体の中央からやや左側の場所、即ち心臓であろう部分。


「視えた…!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ